第219話 あるレンジャーを見守って来たギルド受付嬢
第三者視点のナレーションにしつつ、第13話からほとんど出てこなかった
あの人物にフィーチャーしたお話です!
「この案件はえっと……」
「あぁ、そこは昨日問題なく解決してくれた冒険者パーティの報告書よ。あとは最終確認の印を押すだけで大丈夫」
「あ、はい!ありがとうございます!」
「いえいえ、気にしないで」
冒険者が命懸けで依頼を引き受け、魔物や討伐に関する情報が必然のように集まり、一種のプラットフォームの役割を担う冒険者ギルド。
活気に満ちたホールには武骨な武器を背負った冒険者たちだけでなく、多忙を極めるギルド職員たちの足音が絶え間なく響き渡っていた。
窓の外に綺麗な茜空が見え隠れし始めた頃、受付の裏手では様々な息が漏れ始める。
「ふぅ……少し暇になったと思ったら、急に慌ただしくなりましたね」
「まあ、冒険者ギルドの周りは色々と複雑な事情が込み入りやすいからね。場数を踏んで慣れていけば、自ずと余裕を持って対応できるようになるわよ」
「……はぁ、僕も早くそうなれるといいんですけど」
まだ青さの抜けきらない新人受付の男性へ労わるように優しく声をかける女性がいた。
「私たちの地道なサポートが現場で頑張る冒険者たちの安全や成果に直結しているの。そう思えば、この忙しさも苦にならなくなる日が必ず来るわ!」
「はいっ!頑張ります!」
「ファイトよ!」
手慣れた手つきで膨大な書類を捌きつつ、屈託のない爽やかな笑顔を浮かべているのはエレミーテ王国の王都から少し離れた辺境に位置する冒険者ギルドスティリア支部の看板受付嬢、リサ・クリバーダだ。
依頼の査定、分類、発行から、魔物の討伐証明の確認、素材の買取査定、冒険者の登録管理やランク昇格審査、身元保証、果てはギルド周辺の治安問題やトラブルシューティング、高難度依頼を達成した人物たちの広報活動まで、ギルド職員が担う仕事は多岐にわたる。
その多忙を極める現場において、リサの仕事ぶりは群を抜いていた。
中堅と呼ばれる年齢に差し掛かりつつあるものの、スティリア支部において一、二を争う有能さと手際の良さを誇っている。
「リサさん、お疲れ様です!」
「あら、お疲れ様!」
「リサさん、この指名依頼の基準について確認したいんですけど……」
「あぁ、その依頼の成功基準はね……」
ゆえに、彼女を頼りにする上司や先輩職員はもちろん、同年代や後輩たちからの信頼も絶大だ。
表向きは仕事が完璧にできるスーパーギルド職員として知られる存在であるリサ。
だが、そんな彼女には誰にも言えない秘密の楽しみがあった。
「ねえ、今日の朝刊、読み終わったら貰ってもいいかしら?」
「あ、はい!どうぞどうぞ」
業務を終え、引き取った朝刊を手に彼女は職員用の小さな資料室へと姿を消す。
一人きりになった空間で新聞を広げた瞬間、彼女の完璧なギルド職員の仮面が嘘のように消える。
「うっふふふ……っ!やっぱり、こうして新聞に載るくらいの活躍を見聞きすると、嬉しくてたまらないわねっ!リュウトさん……!」
新聞紙上に躍るのはエレミーテ王国騎士団遊軍調査部隊に籍を置くリュウト・ドルキオスの名が書かれた見出し。
リサは頬を赤く染め、瞳を輝かせながら、その文字を一字一字なぞるように読み耽っていた。
ジョブはレンジャーであり、今でこそ時の人のように知られつつある彼だが、その前歴は一介の冒険者であり、かつてはAランクパーティ『戦鬼の大剣』に身を置いていた。
リサは彼が駆け出しの冒険者だった頃から見守ってきた人物であり、本来の彼を知る数少ない理解者の一人でもあった。
「冒険者としてのリュウトさんも素敵だった……。だけど、今の彼は本当に……あぁ、もう最高……!」
思わず溢れ出た呟きにはどこか恍惚とした熱が籠もっている。
リュウトは冒険者となってからの六年間、懸命に泥を舐めながら実績を積み重ねてきた。
だが、当時のパーティメンバーとの理不尽な不和が重なり、彼は半ば追い出されるような形で戦鬼の大剣を脱退する憂き目に遭ったのだ。
「あの時、失意の底にいた彼を遊軍調査部隊に推薦して、本当に良かった……!私の目に狂いはなかったわ!」
失意の中で途方に暮れかけていたリュウトにエレミーテ王国騎士団遊軍調査部隊という新たな道を示したのは、他ならぬリサだったのだ。
「それがまさか……そこから頭角を現して、あの勇者パーティの不可欠な一員になっちゃうなんて……! うふふ、うふふふふっ!」
誰もいない狭い室内でリサは悶絶せんばかりの笑みを漏らし、胸の前で新聞を強く抱きしめた。
リュウトが遊軍調査部隊で活躍し、さらにはエレミーテ王国の勇者パーティに選ばれたというニュースが駆け巡った際、このスティリア支部も大揺れとなった。
大なり小なり彼を知る者たちはその実績を称え、自分のことのように歓喜した。
かつてのパーティ内での評価こそ不当に低かったものの、彼の真面目な仕事ぶりと類稀なる才覚、レンジャーとしての資質を外部の人間、特にリサは誰よりも高く評価していたのだ。
「あのリュウトさんがついに世界を救う高みにまで至るなんてね……」
見習い冒険者だった少年がパーティを抜け、騎士団へと身を転じ、やがて勇者たちと共に魔王リザエラを打倒して世界に平和をもたらすまで。
リサは長年に渡って、彼の歩みを追い続けてきた。
魔王討伐のニュースが国中に響き渡ったあの日、彼女は自室の布団に潜り込み、声を出さずに涙を流して大歓喜したものだ。
手塩にかけて見守ってきた我が子が世界の晴れ舞台で報われたかのような、誇らしさと愛おしさで胸がいっぱいだった。
「あ~あ……元気にしているかしら?もし機会があるなら、またお店でゆっくりお酒でも飲みながら、リュウトさんのお話を聞けたら最高なんだけどな~!」
仕事中の凛とした態度はどこへやら、自分だけのプライベートな空間でリサはベッドの上に転がる少女のようにジタバタと悶々としていた。
胸を覆う誇らしさと甘い余韻。
新聞に踊る彼の活躍を何度も目に焼き付けながら、彼女は明日からの慌しい仕事をやり抜くためのエネルギーを身体中に満たしていくのだった。
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2026年7月31日投稿されるエピソードをもって、本編は最終回を迎えます!
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