第217話 【Sideシャーロット】祭りを終えた余韻
シャーロット視点のお話です!
王都エメラフィールを鮮やかに彩った祭りが幕を閉じ、街が静かに日を跨ごうとしていた。
「……ふぅ」
ルーフェン国王陛下の力強い締めのスピーチをもって、熱狂に包まれたお祭りは無事に幕を閉じた。
大通りを見下ろせば、満足感に満ちた表情で帰路に就く人々、軒を連ねていた出店や露店を手際よく撤収する店主たち、そして酒に酔い潰れた仲間を介抱する賑やかな声が散見される。
それだけ誰もが心の底から楽しんで、この平和な時間を慈しんでいたのだろう。
「私たちの警護任務もこれで一段落したことだし次は……」
王族の方々の警護やそれに伴う雑務を完了させた私はある一人の人物を探して、月明かりの差す王城周辺の通路を歩き回っていた。
人目を避けつつ、彼がいそうな場所へと足を向けた時だった。
「シャーロットか?」
「……あっ!」
「どうしたんだ、こんな時間に?遊軍調査部隊の隊舎近くまで来て」
「その、えっと……」
探していた相手はリュウトであり、ひょっこりと曲がり角から姿を現した。
つい先刻まで共に要人警護の任に当たっていた彼。
任務終了後は互いに別行動を取っていたのだが、やるべきことを終えた私が吸い寄せられるようにここへ来てしまったのだ。
気配を消して動いていたつもりなのにあっさりと気付いてしまう辺り、相変わらず鋭い察知能力だと感心してしまう。
「今日はお疲れ様って直接言いに来ただけというか……ん?」
言葉を掛けかけた私の視界に彼の隣に立つもう一つの影が映り込んだ。
「あら?シャーロットさん。こんなところで奇遇ですね」
「メ、メリス!?」
夜風に髪を揺らしていたのは同じ勇者パーティの仲間であるメリスだった。
どうしてって疑問と同時に私は思わず声を張り上げてしまう。
「どうしてメリスがリュウトと一緒にいるの!? ロリエとジャードは?」
「ふふ、そんなに問い詰めないでくださいませ。リュウトさんと途中で合流した後、酔いつぶれて具合を悪くされている方々の介抱や祭りの後片付けのお手伝いをしていたら、成り行きでここまで来てしまった。それだけですよ。深い意味なんてございませんわ」
「……へぇ、そうなんだ……?」
「ちなみにジャードさんはシュナイゼル団長や騎士団本隊の方々とお祭りの後処理などで王城に出向いております。ロリエさんは今回のお祭りで使用した魔道具の回収や整理を終えた後に自分の部屋に戻ったそうですよ」
涼しい顔で微笑むメリスだったが、よくよく理由を聞いてみれば、彼女もリュウトに今日一日の労いと感謝を伝えるためにわざわざ彼を追いかけてきたのだという。
予期せぬ鉢合わせに少しだけピリッとした空気が漂う中、リュウトが口を開いた。
「……あのさ」
「ん?」
「はい?」
彼の問いに私とメリスが同時にその方角を向く。
「裏口辺りで少し話さないか?」
「「え?」」
思わぬちょっとした誘いの言葉を聞いた私たちは彼の誘いに応じるのだった。
◇——
「シャーロット、メリス。温かいものでも……」
「……ありがとう、リュウト」
「ふふ、いただきますわ」
遊軍調査部隊の隊舎裏にあるささやかな休憩スペース。
木製のベンチに腰掛けていた私とメリスの元へリュウトが湯気の立つ紙コップを運んできてくれた。
コップの縁には小さくカットされたレモンが添えられている。
祭りの熱気が収まり、しんと冷え込み始めた夜風の中で手元から伝わるぬくもりが何より心地よかった。
「ふぅ……あぁ、美味しい」
「レモンは本物だけど、中身は隊舎にあったインスタントのハーブティーだけどな。丁寧に淹れられた本物のお茶に比べたら、味も香りも落ちると思うけど……」
「いいのいいの!この温かさが最高なんだから」
「ええ、お心遣いありがとうございます」
そう言うリュウトだけど、この一杯がこんなにも胸に染みるのは彼が私たちのために淹れてくれたからに違いない。
「ここ、すごく良い場所ね。静かで心が落ち着くわ」
「日中は日当たりも良いし、心地いい風が抜ける構造になってるんだ。俺も任務の合間によくここで一息ついているんだよ」
「納得です」
お祭りを終えた王都の夜。
どこか祭りの余韻を愛おしむような静寂が包み込んでいく。
夜空を見上げていたリュウトがおもむろに呟いた。
「……平和だな」
「どうしたの急に?」
「いや……魔王を倒し、過酷な戦いに終止符を打った。その果てに訪れた今日の景色を見ていたら、なんだかしみじみと実感してさ」
「「……」」
その言葉に私とメリスは息を呑んだ。
私たち勇者パーティが辿ってきた道筋。
魔王リザエラ率いる魔王軍との戦いはまさに死と隣り合わせだった。
もしもあの時、パーティの誰か一人でも欠けていたら、私たちは今日という日に辿り着けなかっただろう。
「そうね……本当にその通りだわ。だけど、私たちはこうして大切な平和を取り戻すことができた。厳しい戦いを乗り越えてきたからこそ、今のこの静けさが愛おしくてたまらないのかもね」
「わたくしも同感です。昼間、お祭りで弾けるような笑顔を見せていた人々の姿。……あれこそがわたくしたちの守りたかったものです。諦めなくて本当に良かった……」
「ああ。本当にそうだな」
数々の修羅場を味わったけど、潜り抜けてきた。
この穏やかな日常に繋がっていたのだと思えば、あの日々の一秒一秒に確かな意味があったのだと断言できる。
「リュウト」
「ん? なんだ、シャーロット」
私は手に持った紙コップをぎゅっと握り締め、真っ直ぐに彼の瞳を見つめた。
「私たちと一緒に戦ってくれて……諦めずに隣にいてくれて、本当にありがとう」
「っ!?」
思いがけない言葉だったのか、リュウトが驚いたように目を丸くする。
間髪を入れず、隣のメリスも愛おしそうに目を細めて言葉を重ねた。
「わたくしからもお礼を言わせてください。リュウトさんがいてくださらなければ、わたくしたちは絶対に壁を乗り越えられませんでした。本当に……ありがとうございました」
照れくさそうに言葉を失うリュウトだったけれど、やがてその口元を柔らかく緩ませた。
「お礼を言うのは俺の方だよ。シャーロットたちと共に戦い、笑い合ったあの日々は俺の人生にとって一宝物だ。……だから、これからもよろしくな」
「ええ!もちろんよ!」
「はい、喜んで!」
元気いっぱいに応える私と優雅に頷くメリス。
夜風に揺れるランタンの明かりの中、満ち足りた笑顔を浮かべる彼の横顔を見つめながら、私は胸の奥で祈らずにはいられなかった。
これからももっと、ずっと。この大好きな人と一緒にいられますように……と。
最後までお読みいただきありがとうございます。
評価はページの下にある【☆☆☆☆☆】をタップして頂ければ幸いです。
『面白かった』『続きが読みたい』と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、コメントやレビューを頂ければ幸いです。
面白いエピソードを投稿できるように頑張っていきます!




