第212話 【Sideリリナ】もしもこの先に……
久しぶりのリリナ視点のお話です!
更には久しぶりにリリナの家族が登場します!
「すまない、待たせたな」
「ううん、いいのいいの。私たちも今さっき着いたばかりだから」
「……」
久しぶりに仕事の休みが重なったある穏やかな日の午後。
私は王都の賑やかな城下町から少し外れた路地裏にある隠れ家のようなお気に入りの喫茶店に足を運んでいた。
少し遅れて息を切らしながら店に入ってきたのは他ならぬリュウトだった。
つい先日、フォーペウロ外遊から戻ったばかりの彼の顔を見るとホッとする。
「……うぉっ!?」
「ん……?」
席に近づいてきたリュウトが私の顔を見た途端、思わずといった様子で小さく驚愕の声を漏らした。
彼が視線を向けた先にいるのは私だけではないのだから。
「ふふ、こうして改まってお会いするのはお久しぶりですね、リュウトさん」
「あ、はい……!お久しぶりです……!」
隣に座る私の実の姉、エマ・エスタル。
リュウトは一瞬だけ驚きに目を見開いたものの、すぐにお姉ちゃんに向かって深々と頭を下げるような仕草を見せた。
「これはこれはご無沙汰しております。その後、お身体の具合は?」
「見ての通り」
「それは……本当に、何よりです」
席に着くなり、真っ先にお姉ちゃんの身体を気遣う優しい問いを投げかけるリュウト。
彼とお姉ちゃんはこれが初対面ではなく、お互いの人となりについてもよく知っている。
今でこそ見違えるほど元気になったお姉ちゃんだけど、ほんの少し前までは王都の治療院で入院生活を余儀なくされていた。
お姉ちゃんは重い難病を患っており、ただ病魔に蝕まれ苦しむ日々を送り続けていた。
当時の私は治療費を工面するために冒険者稼業を続けていたのだ。
その後、リュウトを通して奇跡のような巡りあわせの末、お姉ちゃんの病は完治に至った。
かつては病床で細く痩せ細ってしまっていたお姉ちゃんだったけれど、手厚い看護とリハビリのおかげもあり、今ではこうして私と一緒に街を歩き、お茶を楽しむことも全く問題ないくらいに健康を取り戻している。
「初めてお会いした頃よりも元気になられて……本当によかったです」
リュウトが心底ほっとしたように目元を緩めると、お姉ちゃんは嬉しそうにクスクスと笑った。
「うふふ、ありがとう。それにしても、本当にリュウトさんは聞いていた通りの優しい方ね」
「ちょっと、お姉ちゃん!?」
私は思わず顔を赤くして、お姉ちゃんの袖を引っ張った。
この日を迎えるまで、私はお姉ちゃんのリハビリに付き添いながら、リュウトのことを何度も話していた。
冒険者時代の思い出はもちろん、彼がエレミーテ王国騎士団の遊軍調査部隊に入ってからの活躍や勇者パーティの一員としてどんな戦いをしてきたのかまで。
「その時は本当に肝を冷やしたもので……」
「あらまぁ!それで、その状況からどうやって切り抜けたの?」
「まぁ、仲間がいたからでして……」
長らく白い病室という閉鎖的な世界で過ごしてきたお姉ちゃんにとって、リュウトが語る冒険や任務の裏話はどれも刺激的なものばかりのようだった。
リュウトの言葉を一つも聞き漏らすまいと目を輝かせるお姉ちゃんはいつになく生き生きとして見える。
お姉ちゃんが楽しそうなのは妹として嬉しいけれど、自分の大好きな親友を目の前で独占されているようで、ほんの少しだけくすぐったくも悔しいような気持ちにもなる。
「こんなに素敵で頼もしい人と一緒に冒険をして、時にお仕事や私生活でも支え合えるなんて……。リリナ。あなたは本当に素晴らしい方と巡り合い、特別な縁を結べたのね。お姉ちゃん、自分のことのように嬉しいわ」
「え……?」
お姉ちゃんの言葉に深い他意はなく、純粋な祝福と親愛から出たものであることは分かっている。
だけど、その言葉を聞いた瞬間、私の胸に温かくも切ない実感が押し寄せた。
良いことも悪いことも全てを含めて、今の私を取り巻く幸せな世界の中で絶対に欠かしてはいけない存在
それこそ、目の前で照れくさそうに頭を掻いている、このリュウトなのだ。
もしもあの日、あいつと出会わなければ、今こうして笑っているお姉ちゃんも私も存在していなかった。
世界の他の誰にとってどうであるかは関係ない。
少なくとも私にとって、リュウトはかけがえのない存在。
「……うん。本当にそうだね。リュウトと出会えたことは私の人生において、間違いなく最高の出会いだって胸を張って言えるよ」
「お、おいリリナ、急に改まって何言ってんだよ!?」
「あはは、急じゃないよ!本心本心!」
「もう、ウフフフッ!」
私の突然の堂々たる宣言にリュウトはちょっと狼狽し、それを見たお姉ちゃんは楽しそうに声を上げて笑った。
そんな他愛のないけれど、どこまでも愛おしいお喋りに花を咲かせているうちに窓の外の景色はいつの間にか美しい茜色へと染まっていた。
「リュウトさん、今日は本当に楽しい時間をありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。元気なお姿が見られて嬉しかったです。……リリナ。またな」
「うん。リュウトもね」
私たちは名残惜しさを覚えながらも手を振り、それぞれの帰路についた。
少し薄暗くなった坂道を二人で並んで歩く中、隣を歩くお姉ちゃんがぽつりと話しかけてきた。
「……ねぇ、リリナ」
「ん?」
ふっと、五秒ほどの間が空いて、お姉ちゃんは暮れなずむ空を見上げた後、どこか包み込むような優しい眼差しを私に向けた。
「リュウトさんのこと……絶対に見失わないでね。あんなに真っ直ぐで素晴らしい人、この先に易々と現れないわよ」
「え……?」
その言葉に込められたお姉ちゃんの真意を私は完全には測りかねていた。
それでも、夕風に髪を揺らされながら、私の心の中には揺るぎない一つの決意が確かに灯っていた。
リュウトは私にとって、かけがえのない人。
たとえこの先どんな未来が待っていようとも。その隣に選ばれる保証がどこにもなかったとしても。私はあいつの手を……あいつと紡いだ絆を絶対に忘れないと心に誓うのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
評価はページの下にある【☆☆☆☆☆】をタップして頂ければ幸いです。
『面白かった』『続きが読みたい』と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、コメントやレビューを頂ければ幸いです。
面白いエピソードを投稿できるように頑張っていきます!




