第210話 視察を終えて……
視察を終えて……。
三日間滞在した後……。
「此度はこのように足を運んでくださったこと、改めて心からの感謝を申し上げます」
「いや、とんでもない。魔族の変革をこの目で確かに見届けることができ、我々も大いに視野が広がった。有意義な時間であったよ」
会合を終えたルーフェン国王陛下とファミーナがしっかりと握手を交わし合う。
その光景を俺たちは固唾を呑んで見守っていた。
魔族領が着実に開墾を進めている新たな希望の土地の視察とそれを含めた今後の行く末についての対話を終え、俺たちは再びフォーペウロへと戻る帰路に就くこととなった。
今回の視察で得られた成果や未来への展望をフォーペウロを治める女王陛下であるエリザナ様をはじめとする同盟国の王族たちへ共有するという、極めて重要な役割が俺たちには残されているからだ。
「……」
馬車に乗り込む間際、ふと後ろを振り返ると、見送りの陣頭に立つファミーナが優雅な所作で小さく手を振ってくれている姿が目に映った。
その顔には満面の笑みを浮かべながらも、その気高き瞳はこれからの魔族の明るい未来や人間との真の共存を心の底から信じているようだった。
俺たちと再会できた純粋な嬉しさだけではない、新時代を切り拓く気概に満ちた若き指導者の横顔がそこにはあった。
「ファミーナも、前を向いて元気そうにしているようで本当に何よりだな」
「ええ、そうね。魔族領の健全な開墾がこれほど進んでいるのを実感できて、私も胸が熱くなったわ!」
「次に彼女と会う時はこの場所が今よりもっと、笑顔の溢れる良い場所になっていることでしょう!」
「ふふ、だったら最高ね!あたしたちも負けていられないわ!」
「それは言えてらぁ!」
馬車の窓から遠ざかる景色を眺めながら、シャーロットやメリス、ロリエやジャードもそれぞれの想いを口々に呟く。
道中の護衛任務に気を引き締め直し、馬車がガタゴトと揺られること数時間。
日が暮れる頃には無事にフォーペウロの王城へと辿り着き、その夜は城内に用意された客室で身体を休めることとなった。
一つの大きな節目を終えた安堵感が心地よい疲労と共に満ちていくのを感じながら。
◇——
フォーペウロ城内の一室。
「皆様、この度は魔族領の開拓地への護衛、ならびに詳細なご視察に携わっていただき、誠にありがとうございます」
その部屋の中心に立ち、気品に満ちた丁寧な一礼を捧げたのはフォーペウロの女王陛下であるエリザナ様の愛娘にして、第一王女であるレイニース様だ。
この場にいるのは俺たち勇者パーティの五人と彼女に付き従う数名の従者を含めて十人程度。
俺たちが赴いたファミーナたちの開拓地における視察結果を共有するため、こうして非公式の会合の時間を設けてくれたのだ。
ちなみに、ルーフェン国王陛下とセレーヌ様は現在も別室でエリザナ女王陛下と国家間の本外交について深く話し合われている。
「そして、エレミーテ王国の勇者パーティの皆様とこうして個人的にお話しできる機会が巡ってきましたこと、心より嬉しく存じます」
そう言って頭を上げたレイニース様は花が咲いたような混じり気のない明るい笑顔を見せられた。
その穏やかな表情こそが彼女本来の優しさなのだと改めて強く実感させられる。
その後は形式的な挨拶もそこそこに、俺たちは視察の報告へと移った。
リーダーであるシャーロットを筆頭に現地で何を感じ、魔族の若き共同体にどんな未来の可能性があるかまでを熱を込めて語り尽くした。
ファミーナが掲げる人間と手を取り合う姿勢やお互いの文化を尊重し合う考え、そして共存へ向けた具体的な開墾活動の進捗まで、俺たちが持つ限りの情報を差し出した。
「本当にありがとうございます。あなた方のような架け橋がなければ、今の魔族領と我がフォーペウロの間に築かれつつある、この穏やかな関係は決して実現しえなかったでしょう。感謝してもしきれません」
「いえ、勿体なきお言葉です。我々だけでなく、未来を信じてくれた多くの人々の力があってこそですから。……それから――」
和やかな雰囲気のまま、しばらくの有意義な時間が流れていった。
やがて報告が一通り終わった頃、レイニース様は深く息を吐き、感じ入るように言葉を紡いだ。
「皆様が命を懸けて魔王リザエラを打倒してくださったことにより、フォーペウロ周辺の国々や辺境の街々にも、いま確かな平穏がもたらされつつあります。リザエラの恐怖に怯えていた日々を思えば、かつては考えられなかった奇跡のような事実です」
「私たちだけの力ではないですよ」
シャーロットが謙虚に微笑む。
「魔族の側にも、命を懸けて人間との共存を願い、立ち上がってくれた者たちがいたからこその結果です」
「ええ、確かにその通りですね。だからこそ……皆様のお話を伺っていて、私はこう思えてならないのです」
レイニース様はふっと、どこか悪戯っぽさを孕んだような愛らしい微笑みを浮かべられた。
「人間と魔族の遥か昔から続いていた悪しき因縁。その鎖を真の意味で断ち切ったのが皆様方で本当に良かったです。改めて、そう確信いたしました」
そう言い切った彼女の横顔には陽だまりのように温かくも優しい信頼の笑顔が浮かんでいた。
その美しい笑顔を目の当たりにして、俺たちの胸には言葉にならないほどの熱い感情が込み上げていた。
これまで苦しいことも多かったけれど、心の中で同じような言葉を噛み締めていた。
あの日々を必死に頑張って本当に良かった、と。
最後までお読みいただきありがとうございます。
評価はページの下にある【☆☆☆☆☆】をタップして頂ければ幸いです。
『面白かった』『続きが読みたい』と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、コメントやレビューを頂ければ幸いです。
面白いエピソードを投稿できるように頑張っていきます!




