第209話 真の意味で分かり合いたい姿勢
ファミーナの『魔族と人間が手を取り合う』時代を築く基盤の一端が垣間見えます!
会合の翌日。
「あちらの丘から向こうに見えます境目までのエリアでは、主に農作物や畜産物の生産を行っておりまして、現在も開墾を進めている最中にございます」
「ふむ……。自給自足の精神で足元を固めているのだな」
「はい。その通りでございます」
「……」
魔族領の新たなる統治者となったファミーナの先導により、エレミーテ王国のルーフェン国王陛下とセレーヌ王女殿下の視察が執り行われていた。
俺は勇者パーティのリュウトとしてその護衛の列に加わっており、周囲には騎士団トップのシュナイゼル団長や俺の直属の上司であるモーゼル隊長の姿もある。
誰もが油断なく周囲へ鋭い視線を走らせていた。
「それにしても、魔族領と言われる割には緑もそれなりに生き生きと生い茂っているのだな」
「はい。元より植物や作物を育てることを得手とする魔族の者たちが熱意を持って開墾に勤しんでおりますので……」
「なるほどな。では、生活に必要なライフラインの整備も同時に進めているところかね?」
「はい。最優先で進めております」
国王陛下の言う通り、魔族領とフォーペウロの国境の狭間にあるこの土地は当初は戦争の傷跡が深く残る廃村寸前の荒野だったらしいけど、ファミーナが主導権を握ってからはここを共生への第一歩としての住みやすい場所にするため、たゆまぬ開墾活動が行われてきたのだ。
彼女の掲げる高潔な理念に賛同し、集まってきた魔族たちの必死の努力もあって、まだまだ発展途上の段階ではあるものの、今では立派な農村としての体裁を整えつつあった。
他にも、民の生活基盤を安定させるための共同施設や治安を維持するための自警集団をどのような組織図で作り上げようとしているかまでを丁寧に説明してくれた。
ファミーナたちの熱意溢れる案内のおかげで懸念されていた視察そのものは順調に進んでいく。
しばらくして、ルーフェン国王は満足げに深く頷いた。
「ファミーナ殿。此度は改革を進める魔族領の現状、そして貴殿らが歩もうとする不屈の情勢について包み隠さず共有してくれたことを心より感謝する。願わくば、古より伝わる人間と魔族の悪しき禍根を我らの代で完全に断てるような良き付き合いを始めたいものだな」
「……ありがたきお言葉にございます。申し上げてくださった言葉に恥じぬよう、必ずや目に見える成果を出せるよう、一層精進していく所存にございます」
張り詰めていたファミーナの表情が歓喜と緊張に小さく震える。
そうして、ルーフェン国王とファミーナは種族の違いを越えて、ガッシリと固い握手を交わし合ったのだった。
王族同士がこうして頻繁に直接会う機会はここから先、そう易々と巡っては来ないだろうけど、これが人間と魔族の間に連綿と続いてきた血塗られた悪縁を断ち切る、歴史的なきっかけになればと心から願わずにいられなかった。
こうして、視察を終えた俺たちに残された任務があるとすれば、ルーフェン国王とセレーヌ様を安全にエレミーテ王国へと帰還させることだけとなった。
滞在先である建物へと戻ろうと歩き出した時、背後から凛とした一人の女性の声が響いた。
「勇者パーティの皆様方」
「おっ?」
「視察へのご同行、お疲れ様でございました。そして……改めてお久方ぶりでございます、皆様」
恭しい洗練された所作で深く頭を下げていたのはファミーナの右腕であり、彼女と同じ志を抱いて戦い抜いた側近の一人であるカリュミノだった。
こうして正面から向かい合うのはあの最終決戦以来、本当にしばらくぶりのことだったけど、彼女の纏う凛とした佇まいと美しい身のこなしには一切の隙がない。
「もし少しでもお時間が許せばでよろしいのですが……。ファミーナ様とお会いしてはいただけないでしょうか?もちろん、プライベートな訪問でございますが……」
「……」
カリュミノの誘いを聞いて、俺は即座にシャーロットやメリス、ロリエやジャードと視線を交わし合わせた。
俺たちは互いの顔を見て、力強く首を縦に振るのだった。
◇——
俺たちはファミーナと平地より少し高く位置する丘まで来ている。
「この土地の開墾もだけど、魔族領内部の方も改革が順調に進んでいるのかしらね?」
「順調そのものと胸を張れるほどではありません。けれど、立ち止まることなく一歩ずつ前に進んでいる、それだけは断言できます」
シャーロットの問いにファミーナは迷いなく伝える。
見渡せば、かつての不毛な荒野が今や一つの集落の形を成しつつあった。
彼女と彼女を慕う者たちが泥にまみれながらも、積み上げてきた営みの証だと思う。
それは彼女やその取り巻く人たちを含め、協力してくれた者たちの働きあってだと思う。
「俺たちも見て回ったけど、住民たちに人間を敵視するような殺気は皆無だな。穏健な魔族たちの姿に希望を感じるよ」
ジャードが感慨深げに呟くと、ロリエとメリスが活き活きと語る。
「魔法障壁の補強と水利設備の効率化をすれば、防衛も生活ももっと盤石になるわね!」
「はい。日々の生活に不安がない平和。それこそが、何より尊いことですから。何にしても、平和に過ごすだけの生活基盤ができつつあるのは何よりも素晴らしいことですよ」
優しい言葉の数々にファミーナは潤んだ瞳で応えた。
「……ありがとうございます。そう言っていただけると、努力した甲斐があります。ですが、私が目指すゴールはこんなことではありません」
「ファミーナ……」
そう言うファミーナは憂いと確固たる決意が入り混じったような表情を浮かべていた。
初めて会った時や聞かされた話から変わらない、揺るぎない信念に満ちた目をしている。
「リザエラを倒した時がゴールだなんて思っていません。むしろ、ようやく私の理想へ進むためのスタート地点に立てたのですから!」
未来を見据えるその横顔は誰よりも輝いて見えた。
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