第207話 しばらくぶりのフォーペウロ
魔王討伐を成し遂げて以来、フォーペウロに来ます!
エレミーテ王国騎士団遊軍調査部隊は本隊と共にある場所を目指していた。
「リュウトさん、あれがフォーペウロですか!?」
「そうだ。二人とも、ここへ来るのは初めてか?」
「はい! そもそも、エレミーテの国外に出ること自体が初めてでして……なんだか緊張しちゃいます!」
「僕もです!凄い迫力の城壁ですね……!」
並んで歩くアンリとトロンが心高鳴らせながら歓声を漏らしている。
彼らの視線の先、地平線から聳え立つようにして威容を現したのは……。
「意外と早いタイミングでまたあの地を踏むことになるとはな……」
俺が勇者パーティの一員として加わった直後に訪れた堅牢なる城塞国家フォーペウロだった。
本当に短い期間ではあったけど、俺が初めてそこを訪れた時には拠点にしていたし、過酷ながらも温かい思い出がそれなりに詰まっている。
感慨に耽る中、モーゼル隊長が話しかけてきた。
「何だ、リュウト?かつての戦場が懐かしくなったか?」
「いや、言うほど昔のことじゃないですから、懐かしいってわけではないですよ。ただ、俺にとっては今の道に繋がる分岐点の一つというか、思い入れがあるのも本当のことですからね。この景色を見ると、心の中で色々と去来するものはあります」
「そうかい。まぁ、お前にとってはそれも思い出の形の一つか!」
そんなやり取りを交わしながら、改めてフォーペウロの重厚な城門を潜り、その土を跨ぐ。
一歩踏み出すごとに王都バアゼルホで遭遇した数々の出来事が鮮明な映像となって俺の脳裏を駆け巡った。
フォーペウロが誇る四聖女たちの護衛任務、束の間の安らぎを感じた彼女たちとの穏やかなひと時、当代の魔王であったリザエラが容赦なく差し向けた、あの地を焦がすような魔王軍の大奇襲。
色濃かったと表現するにはそれでも足りないかもしれないほど、苛烈な経験がここにはあった。
やがて国境の厳格な入国審査と外交団としての済ますべき手続きを全て終えると、俺たちは白亜のフォーペウロ王城内へと入ることを許された。
歩調を揃えて進む中、今度はソフィア副隊長が鋭い視線をこちらに寄越す。
「リュウト。少しは気心が知れているとしても、ここにいる理由は忘れていないな?」
「はい、もちろんです。ソフィア副隊長」
ソフィア副隊長の言う通り、今回フォーペウロに来たのは私的な旅行などではなく、エレミーテ王国の王族の護衛という、一分の隙も許されない重要な公式任務だ。
今回はルーフェン国王陛下やセレーヌ王女殿下も交えての新時代を占う多国間外交が一番の目的であるため、一瞬たりとも気は抜けない。
俺たちの少し前方には周囲を圧するようなオーラを纏ったシャーロットたち勇者パーティの面々も毅然と歩を進めており、この外交に懸けるエレミーテの本気度が嫌でも肌に伝わってきた。
「ふぅう。よし、行きますか」
肺に溜まった熱い空気を吐き出し、意を決するように俺は気持ちを切り替えるのだった。
◇——
「以上をもちまして、フォーペウロならびにエレミーテ、両国における公式会合を終了とさせていただきます」
厳戒態勢が敷かれたフォーペウロ城内の一室。
豪華でありながらも機能的に洗練された広い空間に閉会の宣言が粛々と響き渡った。
俺の視線の先にはフォーペウロを統べる女王陛下であるエリザナ様とその愛娘にして王女殿下であるレイニース様が並んで座っている。
対するこちら側にはエレミーテ王国のルーフェン国王陛下とセレーヌ王女殿下、その護衛役として俺の上司であるモーゼル隊長やソフィア副隊長、シュナイゼル団長率いる本隊の重要戦力、そして勇者パーティの面々が控えていた。
時間にして小一時間はいっただろう会合だったけど、張り詰めた緊張感の中にいた俺にとって、いや、この空間にいた者にとって、それは何倍もの長さに感じられる緊迫したひと時だった。
「……ふぅ……」
周囲に露見しないよう細心の注意を払いながら、俺は胸の内でそっと安堵の息を吐き出した。
やはり、物理的な死線を多く潜り抜けようとも、こうした場には中々慣れないものだ。
そんな風に硬くなった肩を密かに揺らしていた、その時だった。
「リュウト!」
「ん……?ああ、シャーロット」
遊軍調査部隊としての警護任務が一段落し、張り詰めていた陣形が解かれた刹那、懐かしい声が俺を呼んだ。
振り返れば、そこにはシャーロットだけでなく、メリス、ロリエ、ジャードの姿もあった。
魔王リザエラを討伐し、エレミーテへと凱旋してからはその後処理やそれぞれの事情などで個別に動くことが多かった。
こうして一つの任務という形で五人が揃うのは本当に久しぶりのことだ。
なんだか旅路の記憶が蘇り、無性に懐かしい気持ちになる。
「魔王討伐という大役が終わった後なのに、またこうして五人で一緒にいられるなんて、私は嬉しい限りだよ」
「まったく、それもそうね。……ただ、今のあたしたちはあの旅の時とは違って、それぞれの立場でここにいるわけだけどさ」
ロリエが肩をすくめながら、苦笑を交えてそう指摘した。
彼女の言う通り、かつてのように一つの目的のために行動していた頃とは勝手が違う。
今の俺は遊軍調査部隊の一員であるように、ジャードは騎士団本隊の中核の一人として、ロリエは宮廷魔術師団の気鋭の一人として、メリスはエレミーテ王国を代表する親善大使として、そしてシャーロットはエレミーテ王国が誇る勇者としての象徴たる顔役だ。
実際、今回の外交ミッション中もそれぞれの職務に追われて付かず離れずの距離をギリギリ保つのが精一杯であり、こうして気安く言葉を交わす機会すらほとんど無かったのだ。
けれど、そんなもどかしい制約から解放される時が明日やってくる。
「だけどよ、明日からのお父様方からの数日間はあの頃みたいに勇者パーティの資格だけで動けるんだろ?」
「はい。わたくしは今から楽しみで仕方がありません」
「ふふ、それもそうね。久しぶりに肩の荷を下ろして羽を伸ばせそうだわ」
「ええ、本当に!」
気さくに笑うジャードと胸の前で手を合わせるメリスの表情はかつての旅路で見せてくれたように心から明るい。
シャーロットやロリエもまた、待ちきれないといった様子だ。
なぜなら、俺たち五人が本当の意味で揃わなければならない理由があるから。
「久しぶりに久しぶりに会えるからな。ファミーナと!」
魔族と人間が手を取り合うことを心より願い、共に戦った掛け替えのない同胞であるファミーナとの再会。
俺たちの胸には確かな高鳴りとなって満ちていくのだった。
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