第205話 一人の隊員として
遊軍調査部隊に復帰からの……。
俺がエレミーテ王国騎士団遊軍調査部隊に復帰してから一ヶ月半が過ぎた頃。
「酒を楽しむのもいいが、羽目を外すのは程々にしておけよ」
「あげげげげ……す、すみません……」
夕暮れ時の淡い街灯が灯り始めた王都の城下町。
巡回の任務に就いていた俺は酒盛りで酔った勢いのあまり、往来で大声を上げて店に迷惑をかけていた客の手を引いて宥めていた。
「ああ、助かりました!本当にありがとうございます、リュウト様!」
「いえいえ。怪我人が出なくて何よりだよ」
平謝りする酔っ払いを連れて去る俺に酒場の店主が頭を下げる。
無事にトラブルを解決し、ようやく隊舎へ戻ろうと歩みを進める中、俺は周囲からのただならぬ視線に小さく息を漏らした。
「……」
魔王討伐の旅に出る前、いや、このエレミーテ王国騎士団の遊軍調査部隊に入隊したばかりの頃に比べ、今の俺を取り巻く環境に大きな変化があった。
「見て!あの人よ!」
「勇者様と一緒に魔王討伐を果たしたって……」
「本物よ!」
こうして普段通りに街を巡回しているだけですれ違う人々から羨望の眼差しを向けられたり、至る所から黄色い声援や好意的な言葉を掛けられたりするのだ。
勇者パーティの一員として魔王リザエラを討ち果たし、無事に帰還できたのは何よりだ。
けれど、こうして公務に励む時はもちろん、ただプライベートで変装なしで街を歩くだけでも一目で気付かれ、それなりに……いや、相当に目立つようになってしまった。
命懸けの働きを褒め称えてもらえるのは素直に嬉しいだが、あまりの熱烈さに顔から火が出そうなほどの気恥ずかしさを覚えずにいられないのも事実だった。
「戦いとは別の意味でこれはこれで参ったな……」
誰もいない路地の影で、俺は苦笑交じりにそんな小声を呟く。
それからまた一週間、世界の平和を実感すると同時にそんなこそばゆい日々が続くのだった。
◇——
エレミーテ王国の王城にある一室。
「以上の方針により、今回のフォーペウロへの外交には遊軍調査部隊にも同席してもらう」
騎士団本部の作戦会議室。
その空間には俺の直属の上司であるモーゼル隊長やソフィア副隊長だけでなく、エレミーテ王国騎士団のトップであるシュナイゼル団長をはじめとする本隊の幹部や国の政務を司る重役たちまでもがずらりと顔を揃えていた。
だが、集められたのは軍や国の関係者だけではない。
「……」
シュナイゼル団長のすぐ傍らにはシャーロットを筆頭に、ジャード、ロリエ、メリスといった、俺にとって見慣れた勇者パーティの仲間たちが毅然とした面持ちで着席していた。
ふと、俺に気付いたシャーロットと視線がぶつかる。
彼女はほんの少しだけ口元を緩め、小さく頷くようなアイコンタクトを俺に送ってきた。
シュナイゼル団長が眼光を鋭くして再び口を開く。
「此度の外交はルーフェン国王陛下やセレーヌ王女殿下の直接のご移動、つまりは王族の護衛も兼ねている。そのため、道中の安全性や今後の国際情勢を深く踏まえ、騎士団本隊の精鋭に加え、魔王を討った勇者パーティの全メンバーにも正式に参加してもらうこととなった」
その言葉を聞いて、俺はその決定の裏にある真の意図を瞬時に理解できたような気がした。
外国との単なる親善外交だけではない。
その根底には間違いなく魔族領の戦後処理と新体制へのアプローチという重大な思惑が含まれている。
魔王リザエラが討たれた後、ヤツの義理の娘にして、やがて魔族と人間との共存の道を模索し続けているファミーナが新たな統治者として崩壊した魔族領の再建を図っているのは周知の事実だ。
旅を終えてすぐの謁見で俺たち勇者パーティは彼女との顔役を命じられたのは記憶に新しい。
ならば、今回のフォーペウロでの会談にシャーロットたちを同行させるのは必然と言っていい流れだった。
おそらく、生きた懸け橋である勇者たちの存在が必要不可欠なのだろう。
「それで遊軍調査部隊の隊長や副隊長も含め、貴公らにはこれまでの経験を活かし、安全なルートの選定から本隊の索敵・隠密補助に至るまで、全行程の陰の主導権を担っていただく。当然、その中には……」
それからシュナイゼル団長からの具体的な作戦説明や秘匿性の高い共有事項を交えた綿密な話し合いが続けられた。
地図の上にいくつもの駒が踊り、緊迫した空気のまま数時間が経過した頃、ようやく長い会合はお開きとなった。
「国境を越えて、あのフォーペウロにまた赴くことになるとはな……」
参加している人たちが静かに退室していく中、俺の胸中には言葉にできないほど複雑だけど、熱い様々な感情が濁流のように渦巻いていた。
魔王討伐に向けて寝食を共にして戦い抜いたあの掛け替えのない盟友たちと再び同じ空気を吸って旅ができるという純粋な嬉しさ。
同時に平和になった新時代を繋ぎ止めるための勇者パーティの一員としての新たな責務。
そして、俺は押し寄せる高揚感と緊張感を静かに噛み締めながら、一人の騎士団の隊員として、次なる責務への決意を固めるのだった。
「むしろ、これからかもしれないな……」
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