第202話 かつての仲間達と墓参り
『戦鬼の大剣』時代のメンバーが揃います!
王都エメラフィールにある馬車ターミナル。
「何だか、妙に緊張してくるわね……」
「大袈裟だな……って言いたいところだけど、正直、俺も同感だ」
抜けるような青空の下、俺とリリナはどこかそわそわと周囲を見回しながらそんな言葉を交わしていた。
今日の俺たちは互いにまとまった休みが取れたということで、完全な私服姿だ。
気心の知れたリリナと二人だけでただ街をうろつくだけならば、緊張する理由なんてどこにもないけど、これからここで起きようとしていることを鑑みれば、胸の高鳴りを抑えきれない感覚があった。
一抹の気恥ずかしさが入り混じる奇妙な空気の中、大通りを眺めていた俺の視線が一台の馬車に留まった。
「おっ。リリナ、あれじゃないか?」
「え?」
「この気配……覚えがあるんだ」
少しずつこちらへと直進してくる馬車を見つめながら、俺は思わず声を弾ませた。
かつて何年もの間、互いの背中を預け合ってきた者同士にしか分からない、肌に馴染む懐かしい感触がそこにはあった。
やがて、俺たちのすぐ近くでパカパカと蹄の音を響かせながら、一台の馬車が静かに停車した。
「ふぅう、やっと着いたか」
「懐かしいわね、王都エメラフィール……」
「「……」」
御者台に代金を支払い、馬車から降り立っていく、一人の男性と一人の女性。
聞き慣れたその声と影が俺たちの視界に映し出された。
「おぉお……」
「リュウト!リリナ!久しぶりだね」
「元気そうじゃない」
「ああ。元気そうで何よりだ。アキリラ、ビーゴル」
目の前に現れたのはかつて苦楽を共にした大切な仲間であるアキリラとビーゴルだった。
今でこそ俺はエレミーテ王国騎士団の遊軍調査部隊に所属し、果ては勇者パーティの一員として世界を救う旅に出ていたが、それより前は一介の冒険者として活動していた。
その当時、Aランクまで登り詰めた冒険者パーティ『戦鬼の大剣』に俺は身を置いていたのだ。
けれど、結成から六年が経とうとする頃、様々な事柄が重なり、俺は自らパーティを脱退する道を選んだ。
その後、俺が今の騎士団に転職してからも、パーティ側にも仕方がない事情が重なり、最終的には円満な形で解散ということになった。
今ではそれぞれが別の街で転職や商売を通じて、立派に自活していると聞いている。
リリナがどこか感慨深げに、しみじみとした声を漏らした。
「こうして四人で顔を合わせるのって、あの時……『戦鬼の大剣』を解散するって決めて、二人がそれぞれの道へ進むために王都を発っていった時以来よね」
「そうね。その時を思い出しそうになるよ」
「ハハ、言えてら」
変わらない二人の小気味よい掛け合いに俺とリリナの顔から自然と緊張が消えていく。
そんな中、アキリラが俺の顔をまじまじと覗き込んできた。
「それにしてもリュウト。久しぶりに会ったからかしら、何だか雰囲気がガラリと変わったような気もするわ」
「え? そうか? 自分じゃよく分からないんだけどな」
俺が首を傾げると、ビーゴルとリリナもその話題に乗ってきた。
「いや、本当にアキリラの言う通りだよな。何て言えばいいか……纏っている空気がさ、冒険者の時よりも明らかに鋭くて、それでいてドッシリと落ち着いてるっていうか」
「二人もやっぱりそう思った? 実は私もずっと思ってたのよ。たまに再会する度にリュウトってば、信じられないような死線を何度も超えてきたような、静かながらも凄みのある顔つきになったなって」
「そ、それを言われたら……」
俺が今代の勇者パーティの一員として過酷な魔王討伐の旅に出ていることは定期的にリリナがアキリラとビーゴルの二人に宛てた文通で伝えられていた。
もちろん、俺がそこでどんな風に戦い、どんな活躍をしてきたかも含めて。
手前味噌にはなるけれど、俺自身、その旅の道中で強力な魔物だけでなく、強大な力を持つ魔王軍の幹部や精鋭たちを相手に死線を越えてきたのだ。
その過酷な経験の積み重ねが俺に確固たる自信と誇りを植え付けてくれたのだと思う。
少し気恥ずかしくなった俺はあえて肩をすくめ、大袈裟に胸を張ってみせた。
「フッ……まぁ、伊達に幾多の修羅場は超えてきていないからな……なんてな!」
「ちょっと、リュウトったら!何よその芝居がかった言い方は!」
「「「「ハハハハハハ!!」」」」
そんな俺の言葉にリリナがすかさずツッコミを入れ、四人の笑い声が響き渡った。
積もる雑談もほどほどに、俺たちは肩を並べて王都の城下町へと足を運んだ。
冒険者時代、この王都を歩く時は決まって新しい武具の品定めや次の依頼に役立つ消耗品アイテムの買い出しといった用事ばかりだった。
けれど、今はそれぞれが別の仕事に務めて自立している身だからこそ、俺たちはあの日々には決して味わえなかった、穏やかな観光を楽しむのだった。
夕方に食事を終えたアキリラとビーゴルは王都にある宿屋で滞在することになっている。
◇——
翌日……。
王都の喧騒から少し離れた木々の葉を揺らす風の音だけが聞こえるその場所に俺たちは足を運んでいた。
丁寧に並べられた墓石が静かに立ち並ぶ一角。
「ここに、あいつが眠っているんだな?」
「うん。そうだよ。ここに来るのも久しぶりだね」
ビーゴルの問いに隣に立つアキリラがどこか遠い目をして頷く。
俺の手には道中の街角で買っておいた白い花束が握られていた。
一つの墓石の前で、俺は静かに足を止める。
「久しぶりに来たぞ。……ガルドス」
その名を口に呟いた瞬間、後ろに控えていたアキリラとビーゴルの表情が一転して真面目でいつつ、どこか哀切を帯びた面持ちに変わった。
ガルドスはかつて俺が所属していた『戦鬼の大剣』のリーダーを張っていた男だ。
結成されたばかりの初期から俺も籍を置き、共に冒険者の高見を目指して走ってきた。
だが、ボタンの掛け違いをきっかけに、いつしか俺たちの間には決定的な歪みが生じ、最終的に俺は自らパーティ去った。
俺が脱退した後、あいつは俺への劣等感や嫉妬、怒りに任せて暴走し、あろうことか魔族の力に魂を売り渡してしまう悲惨な末路を辿った挙句、命を落としたのだ。
最後は袂を分かち、敵対すらしてしまったけれど……。
それでも、俺たちに冒険者としての夢やロマンを見せてくれて、苦楽を共にして笑い合っていたあの楽しかった日々は紛れもなく本物だった。
「ガルドス。お前を歪ませ、貶めた魔族の……その頂点に立つ魔王リザエラを倒したよ。少しでも、お前の魂に報いれたらと思って……今日、ここに来たんだ」
静かに語りかけながら、俺は墓前に瑞々しい花束をそっと添えた。
それから俺たちは墓石を囲みながら、かつて『戦鬼の大剣』にいた頃の思い出話をぽつりぽつりと語り合った。
辛かった依頼のこと、安酒で泥酔したあいつの悪癖など、気がつけば、空は茜色の夕暮れに染まり始めている。
「ガルドス。またみんなで来るからね」
「もしもいつか、俺がそっちに行ったらさ……今度は喧嘩抜きで、美味い酒でも飲み交わそうぜ」
墓前に一歩近づき、アキリラとビーゴルがそれぞれ手向けの言葉を零す。
俺たちはあいつの墓石を背にして、夕陽に照らされた坂道をゆっくりと下り始めた。
「リュウト」
「ん?」
少し前を歩いていたアキリラが振り返って微笑んだ。
「ありがとうね。あたしとビーゴルを、こうして王都に招待してくれて」
「いや、そのくらいはな……」
「本当にお前って奴は……。だけど、嬉しかったよ」
「……それなら、どういたしまして」
並んで歩き、他愛のない冗談を交わしながら家路に就く。
長く苦しい回り道をしてしまったけれど、この温かな空気はあの『戦鬼の大剣』が本当の意味で固い絆を確かめ合えていた、一番輝いていた頃の距離感そのものだった。
……そんな最良の一日が静かに暮れていく。
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