第200話 【Sideメリス】家族に紹介
メリス視点のお話です!
リュウトさんが勇者パーティの邸宅で過ごした翌々日の昼下がりのこと。
「……」
「リュウトさん。本当にありがとうございます。いろいろとお忙しい身ですのに、このような用事に付き合わせてしまいまして……」
「いや、それは気にしなくていいんだよ。ただ……」
深く頭を下げるわたくしにリュウトさんは苦笑を返しつつ、目の前に広がる光景へと視線を向けた。
わたくしたちが立っているのは王都に位置する閑静な貴族街。
その一角を占める、わたくしの実家であるフォルティーネ侯爵家のタウンハウスの前だった。
「これまた豪勢なお屋敷だな」
「冒険者やエレミーテ王国騎士団の一人として生きてこられたリュウトさんから見れば、そう思われても仕方がありませんよね……」
「まあね。正直、ちょっと圧倒されそうだ」
白亜を基調とした洗練された外壁に職人の手によって完璧に整えられた瑞々しい庭園。
そこにあるのは上位貴族たる侯爵家の権勢を象徴するかのような大邸宅だった。
たとえ家長がどれほど高潔な思想を持っていようとも、貴族社会という面子としがらみの世界においては相応の振る舞いや拠点の立派さを誇示し続けなければならない側面も強い。
そんな場所にリュウトさんを巻き込むのはわたくしとしてもどこか心苦しくもある。
けれど、リュウトさんは小さく息を吸い込むと、気持ちを切り替えるように微笑んだ。
「まあ、俺も王城や王族関連の立派さを少なからず感じている身だし、この間謁見の間を経験したばかりだからな。侯爵家のお屋敷くらいで足をすくませてはいられないよ」
流石と言うべきか、修羅場をを潜り抜けてきたリュウトさんの瞳に怯えの色はなかった。
今日の彼は見慣れた衣装ではなく、紺色をベースにした仕立ての良い貴族服に身を包んでいる。
フォーマルでありながらも適度なカジュアルさを残した装いは彼の身体によく馴染んでおり、わたくしは不覚にも胸の高鳴りを覚えてしまいそうになる。
「……頼もしいですね。何にせよ、私事にお付き合いいただき心から感謝します。さあ、参りましょうか」
「ああ。行こう、メリス」
意を決したわたくしは彼の隣に並び、真っ直ぐに前を向いた。
重厚な鉄格子の門が静かに開かれ、わたくしたちはお屋敷の中へと一歩を踏み進めるのだった。
◇——
「……して、其方がリュウト・ドルキオス殿であるのだな?」
「はい。お初にお目にかかります」
「……うむ」
お屋敷にある客人を招き入れるのに使用される中々に豪華な客室。
わたくしとリュウトさんの正面に腰掛けているのは短く整えられた白髪と立派な髭を蓄え、深緑色を基調とした上質な貴族服に身を包んだ壮年の男性。
その隣で肩まで切り揃えられた薄い亜麻色の髪を揺らし、露出を控えた上品な薄紫色のドレスを纏う気品溢れる貴婦人。
このお二方こそ、フォルティーネ家の現当主クロード・フォルティーネであり、その妻であるマリアンナ・フォルティーネ。
そう、わたくしの実の両親です。
更にはお父様の左隣に座っているのは……。
「こうしてお会いするのは随分とお久しぶりになりますね。リュウトさん。無事のご帰還、心からお祝い申し上げます」
「セアラ様、ご無沙汰しております。そちらもお変わりないようで何よりです」
わたくしと同じ聖女であり、実の姉であるセアラお姉様です。
張り詰めた空気を破るように、お父様が静かに口を開きました。
「さて、堅苦しい挨拶はこのくらいにして、話を進めさせてもらおう。まずはリュウト殿、この度は急な誘いであるにもかかわらず、我々と顔を合わせる機会を作っていただき、感謝する」
「いえ、滅相もございません」
前振りもそこそこに、わたくしとリュウトさんはこれまでの魔王討伐に至る旅路の過程やその結末について概ねまとめた内容を報告しました。
勇者パーティの進捗については旅の合間に手紙や伝書で王城へ定期連絡を入れており、当然、実家であるフォルティーネ家にもその情報は共有されていました。
ですから、魔王軍との決戦についても、お父様たちは把握されています。
「貴殿を含めた勇者パーティの活躍は我々の耳にも届いておる。国王陛下からも直々に労いの言葉を賜ったのだろうが、この私からも言わせてもらいたい。誠に大義であった」
そう言うと、お父様がリュウトさんに敬意を表するように頭を下げ、お母様とお姉様も続くように優雅に頭を下げます。
「勿体ないお言葉です。ですが、最終的に魔王討伐が叶ったのは勇者であるシャーロットを筆頭にパーティの仲間や陰で支えてくれた多くの人たちが一丸となって力を合わせたからに他なりません。自分個人の力など微々たるものです。誰か一人でも欠けていたら……こうして全員が生きて戻って来られたかさえ、分かりませんでしたから」
謙虚でありながら、共に戦った仲間たちへの強い信頼が滲むリュウトさんの言葉を聞いたお父様は一瞬だけ目を見開いた後、フッと笑みを零しました。
「……ふふっ。勇者パーティに身を置きながら、傲ることなく、そのように周囲を思いやれる言葉が自然と出るとはな。メリスやセアラが言っていた通りだな」
「ええ、本当に。わたくしも以前、彼とお話しする機会がございましたけれど、実力だけでなく、本当に素晴らしい人格を備えた誠実な方だと思っておりますのよ」
「まぁ、セアラもメリスも揃って一人の異性の方をここまで絶賛するなんて、我が娘たちながら初めてのことですもの。興味を抱いて、紹介したくなる理由が分かったわ」
お姉様が嬉しそうに頷けば、お母様も同意するように悪戯っぽい微笑みを浮かべてリュウトさんを見つめます。
お父様やお母様までがこうして初対面でリュウトさんを高く評価し、好意的に受け入れてくださるのはわたくしにとって少し意外であり、同時に胸がしそうな誇らしさがありました。
それからお茶を嗜みながらしばらくの間、旅の裏話などの雑談を交えた和やかな対話が続き、場がすっかり温まった頃、お父様が何気ない調子である提案を寄こしてきたのです。
「そうだな……リュウト殿。もしよければ、少しばかりメリスと二人で我が邸宅の庭園でも散策しながら話をしてきたらどうかね?」
「え……?」
不意を突かれたリュウトさんがきょとんとした声を上げます。
「手前味噌にはなるのだが、よその貴族を招いてそれなりに大きなお茶会を開けるくらいには庭も広く綺麗に整えられていてね。二人でゆっくりとしてくるといい」
お父様のその言葉にお母様とお姉様が「あらあら」と言わんばかりに顔を見合わせて微笑んでいます。
これが親としての気まぐれなのか、それともリュウトさんの人柄を認めた上での粋な計らいなのかは分かりませんが、わたくしは内心で両手を突き上げたいほどの衝撃を受けていました。
「ありがとうございます、お父様。よろしければ、わたくしがご案内いたしますね?……リュウトさん」
……何たる、何たる僥倖なのでしょう……と。
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