第195話 【Sideシャーロット】あるレンジャーの生き様
この話のタイトルの一部を回収します!
「ふぅう……。ちょっと、飲み過ぎちゃったかもねぇ……」
ネウリオの町を挙げた盛大な祝勝会が終わり、あてがわれた宿の個室に戻るなり、私はベッドの端にどさりと身体を預けた。
火照った肌を冷ますために急ぎ足でシャワーを浴び、ゆったりとした薄手の部屋着に着替える。
窓から吹き込む夜風が心地よく髪を揺らすのを感じながら、私は今日という一日やこれまでの長い旅路の余韻に深く浸っていた。
「クラーク……。あの街で初めて身を寄せた頃よりも、ずっと元気になっていて本当に良かったな」
ふと、先ほど再会したかつての戦友の笑顔が脳裏をよぎる。
今いる勇者パーティの一員であるリュウトの前のレンジャーがクラークだった。
魔王軍の幹部の一角であったギルダスとの初めての戦いで再起不能の重傷を負ってしまい、この町で悔し涙を呑んで療養生活を送ることになった男。
あいつには何度も助けられたし、今でも感謝している。
だけど……。
「リュウトを基準にして考えちゃうと……う~ん、どうしてもね……」
頭に浮かぶのは決まってリュウトの姿だった。
クラークの突然の戦線離脱という穴を埋めるため、後釜として勇者パーティに迎え入れられた。
一番最初の出会いを思い返してみれば、エレミーテ王国騎士団の遊軍調査部隊に所属する、少しばかり上層部に目をかけられているだけの一介の若手隊員くらいにしか見ていなかった。
しかし、彼の素性や驚異的な実戦での活躍ぶりが次々と明かされていく過程を経て、認めざるを得ない力を示してくれた。
「付き合いの長さで言えば、間違いなくクラーク。でも……この旅で私たちにもたらしてくれたモノの大きさで言えば、やっぱりリュウトなんだよね……」
あいつが伝説の神武具の一つである聖弓セレスティアロに選ばれたこと。
それが私たち勇者パーティに選ばれる決定的な決め手となった。
だけど、リュウトただの強い男じゃなかった。
一歩間違えれば、命を落とす熾烈な戦闘の最中から日々の野宿の準備まで、私たちの過酷な旅路を陰日向から支えるため、あいつはいつだって自分にできるベストを尽くし、いつだって私たちに誠実に向き合ってくれた。
そんなあいつに、全滅寸前の大ピンチを劇的に救われてからだったろうか。
いつの間にか、私は勇者としてではなく、一人の異性として、彼を強く意識するようになっていた。
認めるのはちょっと気恥ずかしいけれど、私は少しでも隙があれば、宴席だろうが移動の馬車だろうが、何としてでもあいつの隣の席をキープしようと、常に虎視眈々と機会を伺ってしまうくらいになっていた。
療養中のクラークにはちょっぴり申し訳ないなんて思わなくもないけれど、こればかりは理屈じゃない、抗いようのない確かな事実なのだから仕方がない。
あの魔王リザエラとの最終決戦を誰一人欠けることなく乗り越えられたのは他でもない、リュウトがいてくれたからだって……。
私は木製の丸机に力なく突っ伏しながら、夜の静寂に溶けていくような深い溜め息を吐き出した。
「ふぅう……」
果たすべき使命をようやく終えたからだろうか、勇者としての肩の荷が下りた圧倒的な安堵感と同時に胸の奥からもう一つ、制御できなくなりそうな熱い感情が湧き上がってくる。
それは今に始まったことじゃないけれど、平和になった今だからこそ、より鮮明に私を焦がす。
「無事にここまで来られたのは、ジャードやロリエ、メリスのみんなのおかげ。ファミーナやカリュミノたち、種族の壁を越えて協力してくれた人たちのおかげなのは本当に間違いないんだけど……。でも、それもこれも、リュウトがいてくれたからだって……そう思えてならないんだよね」
もしも、あの時あいつが仲間に加わってくれていなかったら、私たちはどうなっていただろう。
全滅の未来を含め、思わず背筋に冷たいものが走るような場面が本当に何度もあった。
心が折れそうなほど厳しかった戦いや旅を笑顔で超えていけたのも、戦いの合間の他愛のない安らかな時間が何より有意義で愛おしく思えたのも全部、あいつが隣にいてくれたからなんだよね。
本当の意味で勇者パーティとしての果たすべき使命を成し遂げられたのはリュウトの存在があったからに他ならない。
あいつがどれほど優しくて、どれほど凄まじい男なのかを私だけの秘密にしておくのは勿体ない。
世界中の人々へ後世の隅々にまで伝えてあげたくてしょうがないくらい、私の胸はあいつへの賛辞で破裂しそうだった。
「うぅん。エレミーテに帰還したら、絶対に形にしよう!」
ベッドの上に寝転がり、天井を見上げながら私は拳を小さく握りしめた。
目的地にして私たちの帰るべき場所であるエレミーテ王国に到着し、国王陛下に魔王討伐の正式な報告を済ませたら、私たち勇者パーティにはいくらかの自由な時間が与えられる予定になっている。
その時間を使って、私は後世の子供たちが目を輝かせて読むような、勇者の王道たる大冒険伝の書物を執筆するつもりだ。
けれど、それとは別にもう一つ、私の個人的なわがままでどうしても手掛けたい物語がある。
勇者パーティの一員であり、陰の立役者である一人の気高きレンジャーに焦点を当てたとびきりの外伝を書きたいのだ。
「そうだな……。もしも、その本にタイトルを付けるとするならば……」
リュウトの強さと素晴らしさ、数々の凄まじい偉業を表現するのに私の全精力を注ぎ込むための書物。
もしそんな本を世に送り出すなら、ちょっとコミカルだけど、これ以上ないほど真実を突いたような、こんな題名はどうだろう?
『このレンジャー、いろんな意味で凄かった件』
「……ふふっ、なんてね」
自分で考えたあまりにもふわっとしたようなタイトルに思わず吹き出しながら、私は愛しい人の顔を思い浮かべ、幸せな眠りへと落ちていくのだった。
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