第192話 【Sideシャーロット】帰りの旅路へ
シャーロット視点の魔王リザエラ戦の後日譚のようなお話です!
「もう、発たれるのですね……」
旅立ちの朝。魔族領の境目辺りにファミーナの寂しげな声が響いた。
「いつまでも長居するわけにはいかないからね。ファミーナにとっても、国に戻って報告をしなきゃいけない私たちにとってもね」
長い髪を朝風に揺らしながら、シャーロットが努めて明るい声で返す。
魔王リザエラを打倒した私たち勇者パーティは傷を癒やすための短い休息を終え、ついに魔族領を発つ日を迎えていた。
見送りに来てくれたのは新たに魔族領を統べることになったファミーナだ。
彼女のすぐ両隣には固い忠誠を誓う側近のカリュミノとジュウロンが立ち、その後ろには数多くの魔族たちが静かに控えている。
彼らの瞳にかつて人間に向けられていたような狂気や憎悪の色はもうなかった。
そこにあるのは本当の意味で人間と手を取り合い、リザエラが恐怖で支配していたこの不毛な場所を内側から変えていこうとする強くて清らかな意思だ。
ファミーナは一歩前に進み出て、真摯な眼差しをシャーロットへと向けた。
「皆様はこれから真っ直ぐに自国へ戻られるのですか?」
「ええ。だけど、エレミーテ王国に向かう道中、まずはフォーペウロにも立ち寄って、女王陛下にリザエラ討伐の戦果を報告するつもりよ。もちろん、ファミーナ。例の話についてもね」
シャーロットの言葉にファミーナは胸を打たれたように目を見開いた後、愛おしむように微笑む。
「何から何まで、本当にありがとうございます……。私のお父様であり、先代魔王ギラドルスが夢に描き、志半ばで潰えた人間との融和。その夢を叶えるための確かな礎をあなた方と共に築くことができて、私は心から幸せです。魔族の代表として、深くお礼を申し上げます」
ファミーナが深々とお辞儀をすると、カリュミノとジュウロンもそれに続いた。
彼女たちの気高い姿を見つめながら、私は自分の胸に去来する変化を実感していた。
かつては討つべき邪悪でしかなかった魔族への見方がこの旅で私たちは確かに変わったのだ。
それはリュウトたちも同じだろう。
もちろん、ファミーナや彼女の理想を支持する優しい魔族たちに限っての話だけれど。
「じゃあ、私たちは行くね。身体には気をつけるのよ、ファミーナ」
「はい、シャーロットさんたちも」
互いが同時に手を伸ばし、力強い握手を交わした。
するとファミーナが視線を動かし、斜め後ろに立つリュウトに目を留める。
「リュウトさん」
「えっ? あ、俺?」
名前を呼ばれ、リュウトが少し意外そうに目を丸くする。
けれど、ファミーナのどこか熱を帯びた潤んだ瞳を見れば、彼女が何を求めているのかはすぐに分かった。
彼もまた、戸惑いながらもファミーナの前へと歩み出る。
「リュウトさんには言い尽くせないほどの感謝しかありません。あの絶望的な戦いの中、私と共に前を向き、リザエラを討つために戦ってくれたのがシャーロットさんとあなたで本当に良かった。私は……あの瞬間を生涯決して忘れません」
「俺の方こそだよ、ファミーナ。お前が諦めずにいてくれたから、俺たちは勝てたんだ」
リュウトがはにかみながらそっと右手を差し出すと、ファミーナは愛おしい宝物に触れるかのように自らの両手で優しく包み込むようにして彼の手を握りしめた。
あれ?私の時は片手で力強い握手だったのにリュウトの時は両手で包み込むわけ?
……まぁ、あの死闘を制したのはあいつがいたからなのも事実だし、今回は大目に見てあげることにしようかな。
やがて、本当の出発の時が訪れる。
私たちは背を向けた。
「皆様!!本当に、本当にありがとうございました!またいつか、必ずお会いしましょう!」
振り返ると、ファミーナは今度こそ堪えきれずに大粒の涙を頬に伝わせながら、大きく手を振っていた。
その後ろの魔族たちも歓声と共に手を振り返してくれている。
「ええ! 約束よ!必ず!」
私が振り返りながら声を張り上げる。
リュウトが「ああ! 必ずだ!!」と少年のような弾ける笑顔を見せ、メリスが「その素晴らしい日が来るのを心からお待ちしています!」と柔和に微笑みながら応え、「当然よ!」とロリエが迷いのない笑顔を輝かせ、最後尾のジャードが「漢に二言はねえ!」と豪快に笑って力強く拳を突き上げた。
背後に響く温かい歓声を受け止めながら、私たちは確かな絆を胸に一歩一歩、自分たちの帰るべき場所へと歩き出す。
いつか遠くない未来、人間と魔族が本当の笑顔で笑い合える日の再会を強く……強く信じて……。
◇————
魔族領を出てから一週間が経った頃だった。
「面を上げなさい」
白亜の壁に囲まれ、精緻な金細工の装飾が施された謁見の間に一人の女性の厳かながら、清い声が響き渡った。
「まずは本当に……見事な大義であったぞ。偉業を成し遂げた誇り高き勇者パーティたちよ」
玉座から慈悲深い眼差しを向けるのは魔族領に最も近い城塞都市国家フォーペウロを統べる女王陛下、エリザナ・ドゥ・フォーペウロ様その人であった。
赤絨毯が敷かれた玉座への道の両脇には国の政治を担う重鎮や着飾った貴族にフォーペウロが誇る四聖女のうちの三名が並ぶ。
女王のすぐ傍らで鋭い視線を光らせるのはこの国の騎士団長のアルベルト。
そして、この国の第一王女にして、四聖女の筆頭にしてエリザナ様の実子でもあるレイニース様だ。
国家の権威を象徴するような壮麗な光景を前に、私たちは深く膝を突き、恭しく傅いていた。
パーティのリーダーとして、私が代表して口を開く。
「ありがたきお言葉にございます、女王陛下。魔王軍を統べるリザエラをこの手で確かに討伐したことを見届けてまいりました」
「うむ。世界の命運を賭けた戦いにおいて、魔王リザエラ打倒という過酷な使命を見事に成し遂げたこと、心から誇りに思う。この歓喜は我が国だけでなく、同盟国であるエレミーテ王国の国王陛下ルーフェン・フォン・エレミーテも同じ気持ちであろう!まずはフォーペウロを治める我が出迎え、代表して最大の礼を言わせてもらおう」
「もったいなきお言葉でございます」
私は魔族領への決死の突入からリザエラとの息詰まる決戦はもちろん、その後の動向に至るまで、簡潔かつ的確に報告を告げていく。
人間と魔族の共存という未来の火種についても、過不足なく。
報告を静かに聞き届けたエリザナ様はゆっくりと玉座から立ち上がり、その美しい瞳に確固たる光が宿る。
「此度の武勇は我がフォーペウロやエレミーテのみならず、大陸全土にその栄誉を轟かせるであろう! そして、勇者パーティがもたらした新たな世界の形への願いを受け、その要望を我らも叶う限りに最善を尽くし、全面的に支援することをここに約束しよう!本当に見事であった!」
女王陛下の高らかなお達しを合図に、謁見の間は割れんばかりの拍手喝采に包まれた。
重鎮たちも騎士たちも、誰もが興奮に顔を紅潮させながら俺たちを称えている。
命懸けの旅が報われ、これだけの賛辞を浴びるのは率直に言えば嬉しい。嬉しいのだけれど……。
余計な心労が爆発的に増えそうと直感しているのは……私だけじゃないはずだ。
◇——
エリザナ様のご厚意で宴席を開いてもらった後、泊めてもらった王城の客室で私たちは個室を与えられて各々で一夜の休息を得るのだった。
だけど……。
「お、おい……?」
「「……」」
静かに燃えるような思いを抱きながら、リュウトが泊まる部屋に赴いている。
その空間に私と……メリスを交えて……。
最後までお読みいただきありがとうございます。
評価はページの下にある【☆☆☆☆☆】をタップして頂ければ幸いです。
『面白かった』『続きが読みたい』と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、コメントやレビューを頂ければ幸いです。
面白いエピソードを投稿できるように頑張っていきます!




