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ブラックな冒険者パーティを脱退した俺は自由気ままに誰かの役に立ちます~このレンジャー、いろんな意味で凄かった件~  作者: カワチャン
第五章 突入。魔王城!

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第189話 当代魔王の最期

決着です!!

「がはぁっ……!!」


 俺の放った渾身の一矢を身体の中心に受けたリザエラは糸の切れた人形のように、血反吐と共に力なく倒れ伏していった。

 魔王ならではの圧倒的な覇気や威厳はもはや無いに等しいく、ただ濁った血を流し、その場から指一本動かすことも叶わなくなっている。

 それは俺たちの勝利を意味していた。

 俺は重い足取りでリザエラの下へと歩み寄り、シャーロットやファミーナも同様だ。


「はぁ……はぁ……」

「……リュウト」

「リュウトさん……」

「シャーロット。ファミーナ……」


 極限の集中から解き放たれ、全身の傷口がにわかに熱を帯びて疼き出す。

 シャーロットがすぐに心配そうな視線を向けてきた。


「大丈夫なの?」

「……まぁ、何とかな。死にゃあしないさ」


 俺は痛む脇腹を片手で押さえながら、心配させまいと気丈に笑ってみせた。

 床に横たわるリザエラは完全に虫の息同然だが、完全に息絶えた場面をこの目で看取るまでは一瞬たりとも油断はできない。

 何より、この戦いに本当の意味で決着をつけなければならない者がすぐ側にいるのだから。


「……」

「ファ……ミーナ……っ」

「……リザエラ」


 力なく呻くリザエラの傍らまで迷いのない足取りで近づいたのはファミーナだった。

 ヤツの義理の娘であると同時に今は亡き父にして魔族でありながら、人間との友和を夢見た先代魔王ギラドルスの実の娘でもある。

 リザエラは怨念に満ちた鮮血の瞳を動かし、見下ろしてくるファミーナを睨みつけた。


「ククッ……勇者の……人間の力を借りて我が首を狙うとはな……。やはりお前も、あの忌々しい男と同じように人間と手を取り合おうなどという愚かな選択を取るのだな……」

「当然よ。お父様の選んだ道こそが私の歩むべき道だから」

「ふん……、お前一人の力では我を倒すことなど永遠に不可能なのだ。なのに……」

「そうね。あなたの言う通りよ。私一人では到底、あなたに届きもしなかったでしょう」

「わ、我は……我ら魔族は至高の――」

「まだ分からないの!?」


 ファミーナの鋭い一喝が辺りの空気を張り詰めさせた。

 彼女の美しい横顔にはこれまでの苦難や悲哀、そしてリザエラに向けられた激しい怒りと憎しみが滲んでいる。

 けれど、それ以上にその瞳の奥には悲壮なまでの覚悟が確固たる光となって宿っていた。

 彼女にとって最愛の家族であるギラドルスはリザエラの果てなき野望と強欲のために謀殺され、命を奪われたのだ。

 言うなればリザエラは彼女にとって不倶戴天の仇に他ならない。


「あなたは魔族が食物連鎖の頂点であり、他を蹂躙する権利があると思っているのでしょう。だけど、そんなものはただの傲慢よ。太古の昔から私やあなたを含めた魔族は人間と相容れず、血で血を洗う戦いを続けてきた。それは変えられない過去の歴史が証明している」


 ファミーナは一言ずつに魂を乗せるように己の想いを吐露していく。


「だけど、先代魔王ギラドルスは……私のお父様はその血塗られた負の歴史を悪しき憎しみの連鎖を断ち切るために命を削って必死に頑張ってきたの。私はその背中をずっと見てきた。だからこそ、本当の意味で人間と手を取り合える未来があるんだって、信じることができた。私はそんなお父様を今でも心から誇らしいと思っている!」


 溢れ出しそうになる涙を堪え、ファミーナは真っ直ぐにリザエラを見据えた。


「あなたが今ここで倒れ、私たちがこうして立っている理由。それは人間の希望とされる勇者たちが魔族である私の手を取ってくれたから……力を合わせてくれたからなのよ!これこそがお父様が思い描いていた魔族と人間が手を取り合える理想の本当の意味での第一歩なのよ!」

「ッ!?そんな、あり得ぬ……人間と魔族が……」


 力強い宣告を聞いたリザエラの目が驚愕に大きく見開かれる。

 そこへシャーロットがファミーナの左隣に歩み出て、その肩にそっと手を置いた。

 俺もまた、彼女の右隣に立ってリザエラを見下ろす。


「ファミーナと初めて出会った時は彼女の……もとい先代魔王が思い描いていた理想なんて、綺麗事の絵空事だと思っていたわ。人間と魔族が手を取り合うなんて、本当に可能なのかさえ分からなかった」


 シャーロットはファミーナに向かって優しく微笑んだ後、再び毅然とした目でリザエラを睨み据えた。


「だけど、彼女と一緒に過ごし、戦ううちにその理念が紛れもない本物であることを知ったの。彼女の信念に基づいた行動が私の頑なだった心を溶かしながら教えてくれた。だから私は勇者として……彼女の仲間として力を貸したのよ」


 シャーロットの言葉に深く頷き、俺もまた口を開く。


「俺からも一つ教えてやるよ、リザエラ。この戦いで勝敗を分けた決定的な要素があるとしたら、それは信念の差だ。魔族が至高の存在だと盲信し、他者を踏みにじることしか知らなかったお前の凝り固まった考えと魔族でありながら人間の可能性を信じて共に未来へ歩もうとしたファミーナの信念。自分以外の誰も信じず、傲慢なままでい続けたお前には逆立ちしたって理解できなかっただろうな」


 語る自分の顔がどんな表情をしているのかは分からなかった。

 だけど、きっとそこにはただ力だけを求めて自滅していくような哀れな怪物への深い憐憫の念が張り付いていたと思う。


「……ぁあ……」


 リザエラはもはや言葉を返す力すら残っていなかった。

 ただ、呆然と天を仰ぐことしかできない。

 ファミーナが右手に静かに魔力を収束させ始めた。

 それは黒みを帯びながらも、どこか清らかな混沌と調和の刃。

 彼女はゆっくりとリザエラの胸元へと肉薄する。


「あなたは先代魔王ギラドルスを……私の大好きなお父様を殺した。その罪は死を以て償う以外に赦される道はない。だから……」

「……」


 次の瞬間、断罪の一撃が真っ直ぐに振り下ろされる。


「お父様の無念を晴らすため。そして、これからの私たちの新しい未来のためにも、あなたの命はここで私が狩らせてもらうよ」

「ガハァッッ!!」


 ファミーナが右手に帯びさせた魔力の刃がリザエラの身体の中心を正確に突き立てた。

 ドッ、と激しい衝撃が走り、その一撃を発火点にするかのようにその身体は足元からサラサラと黒い光の粒子となって霧散していく。


「ぐぅ、ぬぉお……」


 リザエラはその唸り声以上の言葉を発することも叶わなくなった。


 それは俺たちが掴み取った勝利の証であり、そして何より……ファミーナがこれから紡ごうとする、人間と魔族が手を取り合う未来への小さくも、確かな礎の一つとなったのだった。

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