第183話 混迷と化す
魔王リザエラとの戦いは初っ端から激しいです!
「ッ!?」
魔王城に乗り込んでから、魔王リザエラと魔王軍の雑兵たちの挟み撃ちを防ぐため、メリスやロリエ、ジャードに協力者である魔族のカリュミノが退路を守るために奮戦していた。
死闘の最中、メリスは突如として背筋を駆け上がった戦慄に息を呑んで振り返った。
視線の先にあるのはリザエラがいる玉座の間へと続く回廊の奥だ。
「メリス、どうした?」
盾で敵の肉薄を受け止めたジャードが戦線から怒号を飛ばす。
「あっ……いえ、何でもありません」
「よそ見をしてる余裕はねえぞ!目の前の敵に集中しろ!」
「はいっ!」
ジャードから一喝されたメリスは必死に気持ちを切り替えるも、得体の知れない胸騒ぎは収まらない。
(あたしも微かにだけど感じたわ。シャーロットたちが進んだ先の奥から膨れ上がるような魔力の気配を……。だけど、これは……?)
ロリエも魔法で魔王軍の雑兵たちを蹴散らしながら、冷たい汗を流しながら一抹の不安を脳裏に過らせた。
当然、それはメリスも同様だった。
(どうか……無事でいてください。……リュウトさん……)
◇————
「喰らうがいい!」
「「うぉおおおおおっ!」」
「はぁあああっ!」
俺はシャーロットやファミーナと共にリザエラとの戦いへ身を投じている。
リザエラが頭上に掲げた両腕から雨あられの如き勢いで黒い魔弾が降り注ぎ、一発一発が痛烈な威力を秘めたその弾幕を俺たちは紙一重で見極め、躱し、防いでいく。
「シュッ!」
「ヤァアアアアッ!」
俺は息を合わせ、爆撃の矢を二本同時に番えて同時に番えて放ち、シャーロットは地面を蹴って聖剣エクスカリバーを激しく一閃し、放たれた白銀の衝撃波が真空を切り裂いてリザエラへと殺到する。
しかし……。
「甘いわね!」
リザエラは不敵な薄笑いを浮かべたまま、片手で煩わしい虫でも払うかのように腕を横振りにした。
それだけで俺たちの放った必殺の矢と聖剣の衝撃波が霧散する。
だが、俺たちの攻勢はそこで終わりではない。
「ダークスプラッシュ!!」
間隙を縫うかのようにファミーナの杖から彼女の杖の先端から紫電を織り交ぜた漆黒の衝撃波が大蛇のようにうねりながらリザエラへと肉薄する。
「ディストーションウォール!」
リザエラが冷淡に呟くと、空間そのものを歪ませたような漆黒の魔力障壁が顕現し、ファミーナの一撃を容易く遮断した。
激突の余波で大気が激しく震える。
数分前に邂逅した時とは比較にならない戦場の苛烈さは今や何倍にも跳ね上がっていた。
それも当然だ。
「ふぅう……!」
ファミーナの全身を包み込んでいるのは漆黒と薄紫、そして鮮烈な紅色が狂おしく織り混ざった、荒々しくも神々しい魔力のオーラであり、紫電を大気がパチパチと空気中に上げながら纏っているのはカオティックドレスという彼女の切り札だ。
そして、対峙する魔王リザエラもまた、真の姿を現していた。
「ふっ、ふふふ、あははははっ!」
不気味に笑うリザエラの身体は俺たちがこれまでに倒してきた魔王軍の幹部たちの遺した忌まわしい武具の数々を己の肉体へと取り込み、異形なる変貌を遂げていた。
全身を包むのは底知れぬ闇の中に鮮烈かつ不吉な緋色が禍々しく混ざり合った、仰々しいまでの魔力の波動。
立っているだけで周囲の物質を圧し潰し、空間を歪ませんばかりのプレッシャーを放っている。
背中からはコウモリを思わせる異形の翼が生え出ており、体躯はその威圧感も相まって、最初に相対した時よりも一回りも大きく見えた。
真の力を隠し持っていたのはヤツも同様だったのだ。
リザエラが両腕を高らかに広げ、天を仰ぐ。
「ダークバースト!!」
「「「ッ!?」」」
リザエラの背後に、巨大な三つの漆黒の魔法陣が展開された。
そこから溢れ出したのはまるで、生き物のようにうねり狂う漆黒の業火だ。
離れていても肌がチリチリと焼けるような凄まじい熱量以上に、心胆を寒がらせるような圧倒的な狂気が支配する。
「吹き飛べぇッ!!」
漆黒に染まった激烈な火炎の濁流が一瞬で俺たちを呑み込もうと迫る。
その瞬間、ファミーナが前に躍り出た。
「ディストーションウォール!!」
ファミーナが叫び、漆黒の防壁を形成する。
爆ぜる業火の凄まじい圧力にファミーナが歯を食いしばって耐える中、周囲には濃い硝煙と塵土が爆発的に舞い上がった。
威力が桁違いに上昇しているのは防御の上からでも分かるほどの衝撃だった。
「むっ……!?」
視界が硝煙によって遮られ、互いの姿が定かではなくなった刹那、リザエラが何かの気配を察知して鋭く顔を向けた。
その硝煙の舞い散る中で、俺はすでにセレスティアロを引き絞っていた。
「炎の精霊よ、我が持つ矢にすべてを焼き尽くす爆ぜる焔を与えよ。雷の精霊よ、我が持つ矢にあだなす敵を焦がす稲妻を与えよ……!」
俺は<感覚操作>によって視覚と聴覚を鋭く研ぎ澄ませ、引き絞った弦の微かな振動さえも把握する。
集中力が高まり、世界の動きが静止していくような感覚を覚える中で俺が番えているのは"爆撃の矢"が二本と"轟雷の矢"が一本。
「シュッ!」
解き放たれた三本の矢は紅蓮の炎の如き赤い魔力と迅雷の如き黄色い魔力を帯びて、リザエラの心臓目がけて一直線に突き進む。
「愚かな虫ケラがぁッ!」
リザエラは即座に反応した。
俺が息を呑む間もなく、彼女は握る杖を水平に前方へと突き出す。
「デッドリーヴォルト!!」
杖の先端から放たれたのは、攻城戦で用いる巨大な槍矢を模した、漆黒の魔力の塊だ。
俺の放った三本の矢とリザエラの放つ巨矢が空間の中央で正面から衝突する。
瞬間、鼓膜を破らんばかりの破裂音が鳴り響き、衝撃波が同心円状に広がって硝煙を一気に吹き飛ばした。
そして――。
「温いわねぇッ!!」
「クソッ……!」
魔力のせめぎ合いを制したのは、リザエラの一撃だった。
押し負けたことを瞬時に察知した俺は咄嗟に身体を不自然な角度に捩じって直撃を躱したものの、掠めた漆黒の衝撃波によって胸を切り裂かれ、鮮血が舞う。
だけど、これでいい。
俺の一撃は最初から布石なのだから。
「ハァアアアッ!!」
「なっ……!?」
硝煙が晴れた上空から空間を切り裂くような凛としつつ、力強い咆哮が響き渡った。
リザエラの鮮血の瞳が驚愕に揺れながら上を見上げる。
「覚悟しろぉおおおっ!!リザエラァアアアッ!!」
そこには天井近くまで高く跳躍していたシャーロットの姿があった。
その両手には眩いばかりの神聖な光を放ち、最大出力で金色に輝く聖剣エクスカリバー。
必殺の上段の構えからシャーロットは魔王の脳天目掛け、その刃を振り下ろさんとしていた。
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