第182話 真の戦いが始まる時
ここから戦いが加速します!
「なっ……何なの、あれは……?」
ファミーナの戦慄に震える声が大広間に響いた。
カオティックドレスを纏ったファミーナの反撃により、一瞬だけ生じた硝煙の向こう側には信じがたい光景が広がっていた。
「シャーロット。あれって、まさか……?」
「ええ、間違いないわ。そんな……どうして……こんなタイミングで……?」
シャーロットの顔が驚愕に歪んだ。
リザエラの周囲には生き物のように不気味な軌道を描きながら漆黒を基調とした禍々しさを感じさせずにいられない武具の数々が浮かんでいる。
俺とシャーロットはそれらに見覚えがある。
魔王軍の幹部にして最強戦力とされるバリオルグの重厚なる漆黒のグレイブとメーディルの禍々しい宝石を戴く魔杖。
同じく幹部にして激闘を繰り広げたギルダスの戦斧とメルミネの鞭。
俺と死闘を演じたシェリーが愛用していたクロスボウ。
そして、俺が勇者パーティに加入する前のシャーロットたちが倒したであろう亡き幹部が武器にしていたかもしれない得物。
俺たちが血の滲むような死闘の末に討ち倒してきた魔王軍の幹部たちの武具は戦場から消え去っていたため、ただの敗戦処理として放逐されたものとばかり思っていたけど、いつの間にかリザエラの下に回収されていたことを証明するには充分だった。
俺たちの動揺の暇さえ与えないように、リザエラは妖艶にに唇を釣り上げた。
「ふふふふ……。勇者とレンジャーはこれらの武具をよく覚えているようだな。当然だ。勇者パーティが直々に命を奪った我が忠臣たちの得物なのだからな」
「リザエラ……それをどうするつもりだ?」
俺は問い質すように口を開くと、ヤツはこう答える。
「どうする、だと?違いするな。これらは元より、ただの武具ではない。我の強大なる魔力と魂を分け与えて作られた我の肉体の一部なのだからな!」
「「「なっ……!?」」」
その事実を突きつけられた瞬間、脳裏に一つの仮説が浮かび上がり、背筋に冷たい戦慄が駆け抜けた。
俺たちが命を懸けて倒してきた幹部たち。
彼らの強さの源泉たる武具に大なり小なりリザエラの力が乗り移っていたのだとしたら、彼らを倒したことは散らばっていたピースをここに集めさせただけに過ぎなかったというのか。
「そう……これらは我が分身であり、我が力そのもの!そして今、贄としての役目を終え、我が肉体へと還るのだ!」
リザエラが両腕を天へと広げ、狂気的な声高で宣言した。
刹那、浮遊していた武具がどす黒く、それでいて眩い邪悪な光を放ち始める。
辺り一帯を包み込む圧倒的な魔力の奔流に俺たちは思わず腕で顔を覆い、目を瞑るしかなかった。
耳を突き刺すのは鉄が溶け合うようなおぞましい融解音と表現しがたい高音。
「なっ……何が起きてるの……!?」
「ふっ、はははは……。あはははははははっ!」
光の渦の中心から不遜極まる笑い声が響く。
やがて発光が収まり、俺たちが恐る恐る視線を向けたその先には光の残滓を払いのけて現れたそれを視界に捉えた瞬間、全身の血液が凍りつくのを感じた。
「取り戻したぞ……。これこそが我が真の姿にして力だ!」
高揚しながら狂ったように笑うリザエラの姿は、完全に変貌を遂げていた。
大きく見開かれた双眸には瞳孔が縦に裂け、正気の一片も残っておらず、ヤツの全身を包み込んでいるのは漆黒の闇の中に鮮烈かつ不吉な緋色が狂おしく織り混ざった、仰々しいまでの魔力のオーラであり、立っているだけで周囲の床が重圧に耐えかねてパラパラと砕け散っていく。
その背中からはなコウモリの異形な翼が生え出ており、心なしか、さっきよりも一回り大きく見える。
「ファミーナ。あれがリザエラの本当の姿だとでも言うの?」
「いいえ……私の知るあの人はあんな……あんな怪物のような姿ではなかった……!」
シャーロットがファミーナに短い問いを投げ掛けるも、返って来たのは否定の答えだった。
「あぁ、そうだろうな。お前が最後に我を見た時は既に賛同してくれた者たちへ力を分散させておいた頃だったからな。お前がこの姿を初めて拝むことになるのはある種の必然よ」
「くぅうっ……!」
冷酷に言い放つリザエラに対し、ファミーナは悔しげに奥歯を噛み締めた。
彼女に隠された奥の手があったように、リザエラにもまた、誰も知らない最悪の切り札が存在していたことを想定しきれなかった己の甘さを呪っているようだった。
いや、それは彼女だけではなく、俺やシャーロットも同じだ。
魔王リザエラは甘い相手ではない……と。
「真の力を取り戻した我に勇者パーティなど敵ではない!勇者とレンジャーの首を撥ね、我が魔王軍の新たなる門出の見せしめとしてくれよう!そしてファミーナ……お前は我が手の中で永遠に絶望に飼い殺されるがいい! フハハハハハハハッ!」
狂気をまざまざと孕ませた、傲慢極まる笑い声が辺りを揺らす。
絶望的な状況だけど、俺たちの心は不思議と折れていなかった。
俺はセレスティアロの弦を引き絞り、シャーロットはエクスカリバーを青眼に構え、ファミーナは自身を纏うカオティックドレスのオーラをさらに燃え上がらせる。
それぞれの視線を交わすことなく、俺たちは生きるために、そして託された未来のために再びその大いなる災厄へと武器を向けた。
俺たちは揺るぎない確信を胸に抱きながら、心の中で断じた。
本当の死闘は……ここからである……と……。
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