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ブラックな冒険者パーティを脱退した俺は自由気ままに誰かの役に立ちます~このレンジャー、いろんな意味で凄かった件~  作者: カワチャン
第五章 突入。魔王城!

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第180話 切って落とされる火蓋

リザエラ戦、開幕です!

「ふっ、ふふふふ……」

「「……」」

「……リザエラ……」


 静寂を切り裂いたのは、氷のように冷たく、それでいて心まで震わせるような声だった。


「……リザエラ……」


 俺はシャーロットやファミーナと共に魔王リザエラと相対している。

 その異形の角や禍々しい衣装を排してしまえば、この世のものとは思えないほどの絶世の美女と言われても相違ないだろうけど、その身体から溢れ出すのはどす黒く重厚な殺意を孕んだ魔力の奔流だ。

 立っているだけで、まるで深海の底に沈められたかのような凄まじいプレッシャーが全身を圧し潰そうとしてくる。


(……これほどとはな。今まで戦ってきた幹部連中がまるで赤子に思えるほどの圧力だ)


 これまでやり合った魔王軍の幹部格とは一線を画しているだろう圧力を肌や本能で感じたシャーロットはエクスカリバーを、俺はセレスティアロを構える。

 ファミーナもまた、継母と呼んだ存在を前に決死の覚悟を宿した険しい表情で臨戦態勢に入っている。


 刹那、リザエラの左手に、歪に捩じれた漆黒の杖が顕現し、彼女が右手を優雅な所作と同時に死を宣告するように真横にかざすと――。


「くぅうううっ!」

「ハァアアアッ!」


 一拍にも満たない、予備動作さえ希薄なまま虚空に浮かび上がった漆黒の魔法陣から螺旋を描く黒炎が咆哮を上げた。

 シャーロットは反射的にファミーナの腰を抱き寄せて真横へと跳躍し、俺は斜め後ろへ飛ぶ。

 <感覚操作(センス・コントロール)>の発動と共に集中力と全神経を研ぎ澄ました俺は詠唱を始めていく

 周囲の時間が緩やかに引き延ばされていく感覚の中で俺は短い詠唱を紡いだ。


「炎の精霊よ。我が持つ矢に焼き尽くす爆ぜる焔を与えよ」

「ほう……」


 リザエラが愉しげに目を細める。

 俺は狙いを違わず、ヤツの脳天と心臓を貫く軌道で二本の"爆撃の矢"を放った。

 風を切り裂き、必殺の弾道を描く矢が捉えたと思ったその瞬間。


「甘いわね」


 リザエラが杖の石突きをコンッと軽く床に鳴らした。

 すると、ヤツの足元から黒紫色の魔力が噴き上がり、物理的な衝撃さえ遮断する障壁を顕現させた。

 直撃した矢はその場で激しく爆発し、視界を覆い尽くさんばかりの硝煙が立ち込める。


「シャーロット! ファミーナ、来るぞ!」


 爆煙の向こう側から、尋常ではない熱量が膨れ上がるのを気取った俺が叫んだ。

 その時だった。


「フゥウン!」

「シャーロット!」

「ありがとう!大丈夫よ!」


 硝煙を裂いて、蛇のようにうねりながら標的を追尾する黒炎が迫るも、シャーロットは咄嗟にエクスカリバーを一閃させ、魔力を帯びた光刃でその炎を強引にかき消した。

 火の粉が舞う中、二人は何とか無傷で体勢を立て直す。


「さっさと消えよ!勇者よ!レンジャーよ!」

「「ッ!?」」


 リザエラの声に少なからぬ苛立ちが混じる。

 まるで思い通りにならないと荒れる権力者のように、リザエラは縦横無尽に破壊の魔法を繰り出し始めた。


「くぅうっ!」

「シィイイッ!」


 それはもはや猛攻という言葉では生温いほど、暴力的なまでの魔力の蹂躙だった。

 意思を持つかのように降り注ぐ黒い弾丸の雨、虚空から生え出る赤黒い刃、紫紺の稲妻が広間を走り、俺たち追い込むように襲う。

 俺たちは死力を尽くし、それらを捌き、迎撃し続けた。

 猛襲が始まってからわずか三十秒だけど、たったそれだけの時間が一昼夜にも感じてしまうくらい、息を吐き出す暇さえ惜しい。


(リザエラの魔力は底が知れない……。まともに打ち合っていては、こちらが先に力尽きる)

「ハァアアアッ!」

「天聖乱舞!」


 シャーロットがファミーナを庇うように立ち回り、飛び交う凶弾を剣捌きで打ち払う。

 俺もまた、リザエラの死角から牽制の矢を放ち続けているけど、ヤツは苦も無くいなしている。

 それからもう一つの仮説が浮かび上がった。


(……やはり、執拗にファミーナを狙っている。リザエラの本当の狙いは……)


 俺はファミーナがその背中で密かに蓄えている何かをリザエラが危惧しているのだと気づいた。


「むぅっ?」


 リザエラの鋭い双眸が俺たちを越えてその背後に焦点を合わせる。

 そこには俺たちの影に隠れ、瞳を閉じて祈るように魔力を練り上げるファミーナの姿があった。


「もう少し……もう少しだ……」


 俺は彼女のために一瞬でも長くリザエラの注意を引きつけなければならない。

 たとえ防戦一方に見えようと、今の俺たちの役割は前衛で敵の攻撃を引き付けるタンクだ。


「小癪なァアアアッ!!」


 剥き出しの焦燥感を露わにしたリザエラが広範囲へ黒い魔力の濁流を解き放った。

 弾幕が広間を埋め尽くす。

 俺は針の穴を通すような隙間を<感覚操作>で強引に見つけ出し、シャーロットは光の障壁を展開するスクロールを使い捨てながら、ファミーナの盾となる。

 時間にして十秒ほどだけど、短くも長く感じられたその沈黙の後……。


「……時間を稼いでいただき、ありがとうございます」


 ファミーナの声が辺りに響き渡った。

 それは絶望の淵に咲く一輪の花のように美しく、鋭い響き。


「ここまで蓄えてきたこの力を今、解き放ちます。リザエラ。あなたを討ち、私は私の未来を掴み取ります!」


 俺たちが振り返った先。

 そこには、漆黒の中に薄紫と鮮烈な紅色が織り混ざった、荒々しくも神々しいオーラに包まれたファミーナが立っていた。

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