第179話 いざ、決戦の場所へ
決戦の地へと……。
「リュウト、敵の気配は……!?」
「今のところ無い!トラップもだ!」
石造りの無機質な廊下に俺たちの足音だけが激しく反響する。
魔王リザエラを討つため、魔王城へと乗り込んだ俺たち勇者パーティ。
その道に通ずるだろう、人間が通るには大きくも殺風景な廊下をひた走るのはパーティのリーダー格であるシャーロットとリザエラの義理の娘であるファミーナ、そしてこの俺だ。
そんな中でファミーナが人琉の問いを投げ掛けてきた。
「あの……お二人とも」
「どうした、ファミーナ?」
「カリュミノも……いえ、残ってくださった勇者パーティの皆様は本当に大丈夫なのでしょうか……?」
その問いに俺とシャーロットは一瞬だけ言葉を詰まらせた。
ここにはいないメリス、ロリエ、ジャード、ファミーナの側近の一人であるカリュミノ。
本来ならば、この最終決戦こそ全員で挑むべきだったけど、リザエラという巨大な絶望と対峙している最中に魔王軍の残党に背後を突かれれば、全滅は免れない。
だからこそ、俺たちはリザエラを倒すチームと退路を死守するチームに分かれるという苦渋の選択をしたのだ。
「……しょうがないって言えばそれまでかもしれない。だけどな、ファミーナ。俺たちがリザエラを倒したとしても、帰るための道が閉ざされていたら、勝利を掴んだのに何もかもが無駄になってしまう。あいつらは俺たちが背後を気にせず戦えるように命を懸けて帰る場所を繋いでくれてるんだ」
俺がそう告げると、シャーロットが追随するように優しく微笑んだ。
「神武具に選ばれた私とリュウトが最大火力をリザエラにぶつける。それがこの戦いに勝つための最短ルートよ。それにファミーナこそ、私の仲間たちの力と覚悟を近くで見てきたはずじゃない?」
シャーロットの言葉には揺るぎない信頼があった。
それを聞いたファミーナの瞳からわずかに滲んでいた不安の影が消えていく。
足止め役に残っているジャードは実力やタフネスも折り紙つき、ロリエは強力かつ広範囲の魔法を自在に操れるから大人数相手の戦闘ではその真価を存分に発揮できる。
彼女の側近であるカリュミノは諜報だけでなく、戦闘能力も十分高い。
何より、回復やサポートのエキスパートであるメリスもいる。
今いるメンツの特徴や適性を考えれば、このチーム分けはむしろベストと言える。
「……そうですね。カリュミノの実力と有能さはよく知っておりますし、今はここにいないジャードさん、ロリエさん、メリスさんの力と人となりをずっと見てきました。信頼に足る素晴らしい人間であるのは間違いありません。そのような方々を疑うなど、失礼でした。ならば……」
ファミーナの顔つきが気品の中に鋭さを帯びる。
「私の成すべきことはお母様。いいえ、魔王リザエラをあなた方と共に討つこと。それだけです。……行きましょう。リュウトさん、シャーロットさん!」
決意の宣誓を胸に俺たちはさ再び歩を進めていく。
それから体感では数分ながら、数時間が経ったように感じられる静寂の中を突き進む。
「……妙だな。一人も敵と出くわさないなんて」
「ええ、不気味なくらいに静かだわ」
シャーロットが眉をひそめる。
玉座の間まであとわずかだというのに、雑兵どころかトラップ一つとしてまるで出くわす予兆が無かった。
迎撃の準備を整えて突入した身としては拍子抜けを通り越して、肌が粟立つような予感が背筋を駆け上がる。
だが、奥へ進むにつれ、空気はその密度を増していった。
そして……。
「ここか」
「はい……この先です」
突き当たりに現れたのは常人の数倍はあると思わせるほどに重厚で巨大な扉だった。
禍々しい彫刻が刻まれたその扉からは冷徹な死の香りが漂ってくる。
力を込めて押し出そうとしたその時。
「……っ!?うおっ?」
予想に反し、軽く触れただけで扉が開いた。
刹那、内部から溢れ出したのはこれまでのプレッシャーを遥かに凌駕する暴力的なまでの忌々しさを覚えそうになる魔力の奔流。
「「「ッ!?」」」
一歩踏み出しただけで全身の細胞が警鐘を鳴らす。
視界が開けた先、そこは天空を切り取ったかのような暗く巨大な広間だった。
その最深部、階段の上に据えられた玉座にヤツは座っていた。
「……うふふふ。よくぞここまで辿り着いたものね。勇者パーティ。そして……ファミーナ」
冷たくも甘美な毒を孕んだような女性の声が広間に響き渡る。
魔族特有の頭部からは捻じれたヤギの角が伸びている。
赤黒い長髪は腰まで届き、その隙間から覗く瞳は凝固した鮮血のように美しく、そして残酷な光を放っていた。
黄金比のように整った女体を際立たせるような黒に近い紫色の煽情的なドレスの上には王者の風格を漂わせんばかりに肩から流れる漆黒のマントはまるで世界を覆い尽くす闇そのもののようだった。
「総出で相対してもよかったのだけれど……。神武具に選ばれし二人の強者と我が娘。ふふっ……。最期の晩餐の面子としては悪くない贅沢かもしれないわね」
リザエラがゆっくりと玉座から立ち上がる。
その動作一つで周囲の空間がひび割れるような圧倒的な威圧感が俺たちを襲った。
膝が笑いそうになるのを必死に堪え、俺たちは身構える。
「我が糧となるがいい!勇者パーティ。ファミーナ!お前たちの絶望と終わりこそが我の野望の始まりとなるのだから!」
リザエラの足元から深淵を見せんばかりのどす黒い魔力が吹き上がり、辺りを包んでいく。
勇者パーティと魔王軍の雌雄を決さんばかりの戦いが今……この場で開幕の狼煙を挙げるのだった。
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