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ブラックな冒険者パーティを脱退した俺は自由気ままに誰かの役に立ちます~このレンジャー、いろんな意味で凄かった件~  作者: カワチャン
第五章 突入。魔王城!

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第177話 【Sideアンリ】待っている人

久しぶりにアンリ視点のお話です!

 これはエレミーテ王国の勇者パーティが魔王城に乗り込もうとする数日前の話。


「「「「カンパ~~イ!!」」」」


 ジョッキとジョッキがぶつかり合う音が響く。

 エレミーテ王国の城下町の石畳の路地裏に店を構える酒場には魔導ランプの柔らかな光が暖かな木のテーブルを暖かく照らし、店内に満ちるほど良い喧騒が今日の疲れを解きほぐしていく。


「ぷはぁっ!明日が非番で仕事終わりに流し込むこのエール。これぞ人生の至福ってやつだね!」

「そうですね……って、もう空っぽ寸前じゃないですか!」

「まぁまぁ、いいじゃん!」


 一杯目から飛ばすようにエールを煽ったのはエレミーテ王国騎士団遊軍調査部隊の第六班の副班長を担っているシーナさん。

 エレミーテ王国騎士団遊軍調査部隊随一の酒豪であるこの人の豪快な飲みっぷりは相変わらずだった。


「シーナ、気持ちはわからなくもないが、最初から飛ばしすぎるのは飛ばしすぎるのも考えものだぞ。このセリフを言うのも何回目になるのやら……」

「あははは……今日は無礼講ってことで。ね?」


 達観しつつもどこか楽しげに口角を上げているのは私の実の姉であり、遊軍調査部隊の副隊長を務めるソフィアお姉ちゃんだ。

 それでもってもう一人。


「それにしても、リリナ。貴女には貴女の予定もあっただろうに、急な誘いに乗ってくれて感謝するよ」

「いいえ。ちょうどお仕事が一段落して、タイミングよく予定が空いていただけですから。お気になさらないでください」


 お姉ちゃんに挨拶を交わしているのは王族専属の医療部隊に所属する僧侶であり、私が尊敬するリュウトさんの冒険者時代からの仲であるリリナさんだ。

 実を言うと、今日のこの集まりを企画したのは私だった。本当はリリナさんと二人きりで積もる話をゆっくりするつもりだったのだけれど、それを聞きつけたお姉ちゃんとシーナさんが成り行きで合流し、今に至る。


「それにしても、アンリとリリナが既にお茶をするほど仲良くなっていたなんて驚きだよ。あたしたちの知らないところでいつの間に?」


 シーナさんが興味津々といった様子で身を乗り出す。


「本当に偶然だったんです。数週間前、私の非番の日に城下町で買い物をしていたら、バッタリ遭遇して。せっかくだからとお茶をしたら、話が弾んで……。今度はぜひお酒でもって約束していたんです」


 リリナさんは冒険者から王宮の医療部隊という全く異なる環境に身を置きながらも、驚くほどその場に馴染んでいた。

 礼儀正しくて謙虚ながら、その瞳の奥には冒険者として修羅場を潜り抜けてきた者が持つだろう特有の揺るぎない芯の強さを感じさせる。


「ほらほら、リリナ!グラスが空だよ。もう一杯、いっちゃう?」

「あ……ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

「すいませーん!エールもう二杯追加で!あと、この店の名物もね!」

(聞いてはいたけれど、本当にこの人よく飲むなぁ……)


 陽気に笑うシーナさんの隣でリリナさんはどこか圧倒されながらも、楽しそうに笑っていた。

 おつまみのソーセージやチーズを突きながら、話は自然とそれぞれの近況へと流れていく。

 お姉ちゃんやシーナさんの苦労話、リリナさんの王宮での出来事など、笑い声が絶えない時間がしばらく続いた。


「それにしても……」


 お姉ちゃんがふと、真剣な眼差しでリリナさんを見つめた。


「リリナを見ていると、かつて冒険者としてやって来たとは到底思えないほどに所作が洗練されている。相当な努力をしたんだろう?」

「……恐縮です。ただ、私一人の力ではありません。周囲の方々に支えられ、導かれた結果ですから」

「ふふ、謙虚だな。シーナなんて、騎士団に入ってからもしばらくは『~っす!』なんて、タメ口と敬語が混ざったような言葉遣いだったんだぞ。あの時は矯正させるのに一苦労したよ」

「ちょっ!その話はここでは禁句ですよぉ!」


 シーナさんの慌てぶりに私とリリナさんは顔を見合わせて吹き出した。

 ひとしきり笑った後、私はふと、心の中に浮かんでいたある人物の名前を口にした。


「……思い返せば、リュウトさんもそうでしたよね。元冒険者だなんて信じられないくらい、誰に対しても誠実で……」


 その瞬間、ジョッキを置く音が重なり、卓を囲む三人の表情が一瞬だけ止まった。

 リュウトさん。

 リリナさんの元パーティメンバーであり、私やシーナさんと同じ部隊に所属していて現在、エレミーテ王国の勇者パーティに同行し、魔王討伐の旅に出ている。


「……そうだね。あの日々がもう随分と昔のことのように思えるよ」


 お姉ちゃんが少しだけ寂しそうに、けれど誇らしげに目を細めた。

 話題は自然とリュウトさんのことへと移り変わる。


「あいつ、今頃どうしてるかな。思い返せば、新参者として遊軍調査部隊に入ってきた時からただ者じゃないような感じが確かにあったな。モーゼル隊長やゾルダーさんがあんなに早く信頼を寄せるなんて、普通じゃありえないもん」


 シーナさんが追憶に耽るように天井を仰いだ。

 リュウトさんは転職してきてすぐに、その類まれな実力だけでなく、それ以上に卓越したセンスやポテンシャルで数々の功績を挙げてきた。

 それは私たち遊軍調査部隊だけでなく、騎士団本隊からも一目置かれているくらいだ。


「私は初めて出会った時から、リュウトさんは強くて優しい人だと思っていますよ。それは今でも……いえ、離れていても変わりません」


 私の言葉に三人が神妙な顔で頷く。


「そうだな、アンリ。リュウトは今やエレミーテ王国騎士団のホープの一人だ。あの日、彼を採用すると決めた私の判断は間違っていなかった。彼は私の、いや、この部隊の誇りだよ」


 お姉ちゃんの言葉にシーナさんが力強く続く。


「あたしも心から認めてる。あいつがいない第六班はやっぱり、どこか火が消えたみたいでさ。一日でも早く、あいつが全部終わらせて帰ってくるのを待ってる。……信じてるからね。あいつならどんな絶望も超えていくって」

「お二人はリュウトのことを心から信じているのですね」


 二人の強い信頼に触れ、リリナさんが静かに口を開いた。


「……お二人の気持ち、よく分かります。リュウトは冒険者時代からずっと私たちを支えてくれました。戦闘の技術だけでなく、私たちが迷った時、苦しい時、一緒にいると安心させてくれる何かを持っているんです。今の私があるのは彼のお陰でもあるんですよ」


 喧騒さえも遠のくような穏やかで熱い時間。

 ここにいる全員が違う立場、違う出会い方をしたけれど、一人の人間を心から信じ、その帰りを待っている。

 そして私にとってもあの人は……リュウトさんは……暗い闇に差し込んだ一筋の光のように現れるヒーローであり、憧れの人だから。


「よし!しんみりするのはここまでだ!」


 お姉ちゃんが仕切り直すかのように声を発した。


「今日は夜通し語り明かそうじゃないか!リュウトの失敗談とか、かっこよすぎるエピソードとか、全部出し合おう!リリナ、冒険者時代のネタ、期待してるからな!」

「えっ? あはは……。そうですね。それなら、いくつか面白い話があるかもしれません」


 リリナさんが悪戯っぽく笑う。

 外は冷え込んできたけれど、この場所だけはリュウトさんへの想いという光に照らされて、暖かかったような心地を感じる。

 こうして、日を跨ぐまでの間、私たちはリュウトさんに関する話で盛り上がるのだった。


 私は待っていますよ……リュウトさん。


 帰りも……そして、あなたの気持ちも———。

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