第176話 決戦に向かう者たちの決断
勇者パーティと魔王リザエラとの戦いまで、待ったなしに限りなく近いです!
魔王軍の最強戦力であるバリオルグやメーディルとの戦いを制し、一時の休息を取っていた俺たち。
「んっ?」
しかし、地鳴りのような震えがし始める。
「「「「「オォオオオッ!」」」」」
「なっ!?」
「リュウト、これって……!」
シャーロットが咄嗟に身構える。
リザエラの玉座へと続くこの大回廊に大多数の雑兵たちが駆け上がる声が響き渡る。
魔王城の裏口からの潜入してからのバリオルグやメーディルとの遭遇後の戦闘。
俺たちにとっては永遠にも感じられるような死闘だったが、現実の時間ではまだ数刻も経っていない。
最初に侵入してからこうなるのも時間の問題だって思い直したくもなりそう。
「身体はポーションとメリスの治癒もあって結構回復したけど……。皆はどう?戦える?」
シャーロットが俺たちの状態について質問される。
すると……。
「正直、少し疲労感はあるけど、やるしかないわね」
「ああ。上等だ。最後に魔王の首を獲らなきゃ意味がねぇからな」
ロリエが杖を握り直し、ジャードが剣と盾を構える。
「「「「「ぐわぁあああああっ!!」」」」」
激しい爆発音が轟いた。
加えて、噴き出す黒煙と敵兵の絶叫こだまし、一筋の影が音もなく俺たちの前に降り立つ。
「ファミーナ様。勇者パーティの皆様。……遅れてしまい、申し訳ございませんでした」
「カリュミノ!」
ファミーナの側近の一人にして、俺たちが裏から潜入するための工作を仕掛けてくれたカリュミノだった。
最初の攪乱を目的とした作戦から単独行動を取りながら、混乱を増幅させ、敵戦力の削減まで可能な限りこなしてくれたとのことだ。
人となりや有能さは知っているつもりだったけど、敵に回すと怖いって感じさせずにいられないくらいに頼もしい。
俺たちは最小限に交わせるだろう言葉で今の状況を伝えた。
「そうですか。まもなく、ここに勇者パーティを討たんばかりに魔王軍の大群が集結することでしょう」
「大群か……。放置すれば、リザエラの下へ向かう俺たちの背中を突かれるな」
カリュミノの報告に俺は奥歯を噛み締める。
「どういう意味でしょうか?リュウトさん?」
ファミーナの問いに対し、俺は自分なりの見解を述べた。
「仮にもって話だけど、リザエラの下へ向かってやり合う中、魔王軍の残党たちに後ろから一斉に狙われたら、それこそヤバいって思うんだよ。挟み撃ちの状況になったら、成す術も無くやられる可能性が跳ね上がるからな……」
「あり得るわね……」
シャーロットが難色を示す。
「ここで増援を全て潰してから向かいたいけれど、全員が残るわけにはいかないしな……」
全員が沈黙する。
本来ならば、全戦力で魔王を叩きたいところだが、背後の脅威は無視できない。
ここでシャーロットが取れる方法は決まり切っていたかのように口を開く。
「二つのチームに分かれましょう」
決断の表情が浮かんだ。
「一つは魔王軍の兵隊たちをここで食い止め、背後を死守するチーム。もう一つはリザエラを討ちに向かうチームよ」
ここで戦力を分散させるのは苦渋の決断と言ってもいいけど、今の俺たちにとってはそれこそが唯一の勝機へと繋がる道だと思う。
数秒の思案の末、その場にいる全員が肯定の頷きを見せた。
「じゃあ、リザエラの下に向かうのは———」
「私も行かせてください!」
チーム分けしようとした時、ファミーナが前に出て声を発した。
カリュミノが思わずといった様子で表情を歪める。
「ファミーナ様!それはあまりに危険です!リザエラは……義理の娘であるあなたであっても情をかけるような存在では……」
「カリュミノ。私は……私たちは人間と魔族が手を取り合える未来を築くために今日まで生きてきた。そのために私も力を蓄え、機会を待ち続けてきたの。今、リザエラと向き合わずして、いつその未来が来るというのですか!」
「……」
「それに……」
ファミーナは、俺たち勇者パーティ一人一人の顔を見つめた。
「今の私には守るべき、そして信じ合える仲間がいます。だから、私は一歩も退きません!」
その瞳に迷いの色はなかった。
俺はシャーロットと視線を交わし、短く頷き合う。
「分かった。なら、リザエラの下に向かうのはファミーナとシャーロット、そして俺でいいな!」
「えぇ!」
人選も覚悟も決まった瞬間だった。
神武具に選ばれた俺とシャーロットが行くのは当然だろう。
「待ってください!」
すると今度はメリスが口を開いた。
そうだ、彼女がどっちに配置するかでそれぞれの結果に大きな差が生まれることを忘れるところだった。
「メリス、あ———」
「わたくしはここに残って、魔王軍の兵士たちを足止めすることにします」
「え?」
思わぬ一言だった。
「メリス、いいの?」
シャーロットが尋ねると、彼女が答えた。
「はい。リザエラの下に向かう人員はこれ以上割けられませんし、何より、ここに残って食い止める方たちの支援や回復に専念する方が生き残る確率が少なからず高まると見ています。相手が大群とあらば、戦線の崩壊だけは避けたいのです」
真剣な表情で語るメリスだったが、その意見は最もだ。
確かにこの場所で大群を食い止めるにしても、その役割を担う者たちが戦闘不能になってしまえば、それどころではなくなってしまう。
それを維持することができるのはメリスをおいて他にいないのも明白だ。
「……それから、わたくしは信じています。リュウトさんたちなら、リザエラを倒してくれると……」
「メリス……」
その表情は覚悟に満ちている。
それに触発されたかのようにロリエとジャードも声を発した。
「それなら、食い止める方はあたしに任せなさい!」
「俺もだ。敵の攻撃から味方を守るのは俺の仕事だ」
二人は決意を見せた。
確かにロリエの魔法は威力のみならず攻撃範囲や発生速度に優れたモノまで幅広く使えるし、多勢を相手取るなら彼女ほど頼りになる人物はいない。
ジャードの実力やタフネスならば、タンクとして頼もしい。
ここでカリュミノがファミーナの下に一歩前へ出た。
「私もここに残ります。先ほどの大群を概ねですが把握しておりますので、適切な対処を皆様に伝えることや援護を可能にできます」
「それはありがたい」
「ファミーナ様……どうか、お気を付けてください」
「はい」
「……シャーロット殿、リュウト殿。ファミーナ様をよろしくお願いいたします」
カリュミノの切実な願いを俺とシャーロットは頷く形で応える。
「「「「「オォオオオオオッ!!」」」」」
怒号がすぐ近くまで迫っている。
もう、感傷に浸っている時間はない。
「よし!リュウト、ファミーナ!私たちも行くわよ!」
「おぉお!」
「はい!」
シャーロットを先頭に俺たちは走り出した。
背後に残る四人の姿が遠ざかろうとした時、背中越しにメリスの声が聞こえた。
「リュウトさん!お二人とも!!」
一瞬振り返って次の瞬間。
「約束してください!必ず生きて帰ると約束してください!」
「……」
俺が答える。
「あぁあ!リザエラをぶっ倒して、三人で戻ってくる!そっちも生き残ってくれよ!」
「はい!」
そして、互いに向き合うべき方角へ再び振り返る。
前を見れば、そこには重厚な扉。
その向こう側には魔族の頂点にして悲劇の元凶であり、ファミーナの継母でもあるリザエラが待っている。
「行こう!」
「えぇえ!」
「はい!」
俺の言葉にシャーロットとファミーナも力強く呼応し、奥へと走り出す。
もう、この戦場にいる全員が本能で感じている。
泣いても笑っても、この戦いで全てが決まることを……。
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