第172話 勝利を手繰り寄せて……
リュウト・ロリエ・ジャード VS. バリオルグ戦に戻ります!
冷徹な静寂を切り裂く。
「カァアアアッ!」
「ウォオオオッ!!」
俺はロリエやジャードと共に魔王軍の幹部の一角であるバリオルグと交戦している。
「外すなよ、ロリエ!」
「言われなくても!ドラゴンブレス!!」
俺が放った"爆撃の矢"が空を切り裂いた直後、ロリエの杖から猛烈な火柱が噴き出しドラゴンの吐息を思わせる灼熱の劫火がバリオルグを真っ向から飲み込まんと迫る。
その猛攻の余波を避けるように、前衛のジャードが鋭くバックステップを踏んだ。
「黒流旋牙!!」
奴は得物であるグレイブを強烈な勢いで旋回させると、漆黒の魔力をうねらせながら俺たちに向かっていき、逆にこちらを圧殺せんと迫る。
まるで生きた竜巻だ。
そこへ、ジャードが再び割って入った。
「させるかぁあ!」
ジャードが盾を構え、漆黒の奔流を真正面から受け止める。
凄まじい衝撃波が辺りを吹き荒び、彼の足が数センチずつ後退を余儀なくされる。
「ほぉお……。その盾、ただの鉄塊ではなさそうだな」
バリオルグの不敵な称賛をするものの、ロリエはすでに次の詠唱を終えていた。
「ストームブレード!!」
彼女の杖から放たれた翡翠色の竜巻が漆黒の旋風と衝突した。
互いの魔力が激しく食らい合い、相殺した時、僅かにバリオルグの防壁が揺らいだ。
その一瞬の隙を、ロリエは見逃さない。
「ジャード、今よ!!」
「任せろ!」
ジャードが盾を力強く振り払い、右手の剣に渾身の力を込めた。
彼の盾には『受けたダメージを蓄積し、次の一撃の破壊力へと変換する』という、特殊な付与術式が刻まれている。
蓄えられた衝撃が放たれる。
「地雷斬!!」
「むぅう!?」
解き放たれた必殺の斬撃は空気を断ち切る鋭い音が響き、ジャードの全身全霊を乗せた刃がバリオルグの首筋へと肉薄する。
誰もが勝利を確信したその刹那。
「カァアアアッ!!」
猛々しい気合が木霊し、バリオルグのグレイブが信じられない軌道で跳ね上がった。
「この私に届くと思ったか!」
「グゥウウウッ……!?」
ジャードの全火力を乗せた一閃が無慈悲にもグレイブの刃によって弾き返された。
衝撃を殺すだけでなく、逆にその勢いを利用した絶妙な受け流し。
あの重い一撃を武の練度だけで捌き切ったというのか。
認めたくないけど、戦闘者としてのレベルの高さを見せつけてくれるようだった。
「ハァアアアッ!」
「ガァアアッ!」
流れるような動作でバリオルグがグレイブの石突を突き出した。
棒術の如き鋭い突きがジャードの頭部を狙い、彼は寸前で盾を割り込ませたが、体勢を崩した状態での防御は脆かった。
弾き飛ばされるように彼の体躯が地面を滑る。
「「ジャード!!」」
「チィイッ!」
「まだ足掻くか」
弾け飛ぶジャードの姿を一瞥したバリオルグが即座に俺へと視線を戻す。
俺が既に矢を番えていることを察知したのだ。
「フゥウン!」
俺がは一射で同時に二本の矢をち、それは空中で互いに交差するようにバリオルグを挟撃する。
だが、バリオルグはグレイブを握る腕を捻り、最小限の動きで迎撃態勢に入る。
「黒流牙突!」
バリオルグの突きが放たれた瞬間、漆黒の螺旋の衝撃波となって俺へと迫る。
当たれば俺の身体に風穴が空くのは確実だ。
だが、その瞬間――。
……視える。視えるぞ……。
ドクンと言う心臓の音が跳ねた音を感じながら、俺の視界や感性は澄み渡った蒼く優しい地平線で静かな余韻に浸っているかのように研ぎ澄まされていく。
バリオルグの肩の筋肉の収縮、グレイブの穂先が描く軌道の予兆、それらが線となって脳裏に鮮やかに浮かび上がる。
衝撃が到達するよりも早く、俺の身体は本能的に動いていた。
「ここぉおお!!」
「何……!?」
衝撃が飛んで来るよりも早いタイミングで横っ飛びしながら回避すると同時に“轟雷の矢”を射った。
雷光を纏った一矢がバリオルグの想定外のタイミングで放たれる。
予想外だったのか、バリオルグの顔に少しの焦りが浮かんだ。
その箇所へ吸い込まれるように正確に……。
「ぐぉおおおおお!!」
バリオルグの左肩を紫電の矢が深く射抜いた。
雷の衝撃が奴の全身を駆け抜け、強靭な身体が一時的に硬直する。
「リュウト!ナイスッ!」
「うぉおおおおおおお!!」
ロリエの歓喜の声と体勢を立て直したジャードの再びの突撃。
俺は着地と同時に再び矢を引き絞りつつ、その頭の中では今起きた現象が激しく反芻していた。
バリオルグの一撃が放たれる直前、その軌道や範囲が脳内を駆け巡り、まるで未来を悟ったかのように身体が反応した。
覚えがある。
フォーペウロの首都バアゼルホの大聖堂での戦いを繰り広げたシェリーとの戦いでも同じ経験を……あの時も同じだった。
刹那のようにほんの少しだけ、極限の集中状態の中で目に映る動きがスローモーションになり、敵の次の一手が確固たるイメージとして脳に直接流れ込んできたあの感覚。
数刻先の光景が視えたような不思議な何か……。
それが蘇った時、確信が芽生えた。
この目と感覚を研ぎ澄ませば、この難敵を超えられると……。
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