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ブラックな冒険者パーティを脱退した俺は自由気ままに誰かの役に立ちます~このレンジャー、いろんな意味で凄かった件~  作者: カワチャン
第五章 突入。魔王城!

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第164話 【Sideシャーロット】開戦。魔王軍随一の魔術師

久々のシャーロット目線のお話です。

「「――ッ!?」


 肺の空気が一瞬で凍り付くような錯覚に陥った。

 視界を埋め尽くしたのはどす黒い魔力の奔流。

 魔王軍最高幹部の一角であるメーディル。

 彼女が高々と掲げた瞬間、大広間の大気が悲鳴を上げた。


「逃がさないわ。ダークネスソーン!」


 直後、床や壁から数多の刺を帯びた闇の鞭が激しくうねる大蛇のようにのたうちながら襲いかかってくる。

 それはまるで、死の園に咲き誇る茨の門のようだった。

 私たちの退路を無慈悲に塞ぎ、逃げ場を奪いながら、その切っ先を私たちの喉元へと集中させる。


「ふんっ!」

「ホーリーシールド!」

「ハァアアアッ!」


 間一髪メリスが展開した幾重もの神聖な光の障壁が闇の茨を弾き返し、硬質な破壊音が鼓膜を震わせる。

 だが、防ぎきれなかった死角からの追撃は止まってくれず、私は手にした聖剣エクスカリバーを振るい、迫りくる蔦を一刀の下に叩き落としていく。

 しかし、メーディルは不敵な笑みを崩すことなく、まるで舞台の上で舞うような優雅な所作ですぐさま次なる一手を繰り出す。


「逃がさないと言ったはずよ。デッドリースパイク!」

「左右に飛んで!来るわよ!」

「「ハイッ!」」


 私の叫びにメリスとファミーナが脊髄反射で応じた。

 直後、三人が立っていた場所の石床が爆ぜ、巨大な黒い剣のような突起物が姿を現していた。

 一本でも触れれば、身体を容易く串刺しにするであろうと想像するには充分だったかもしれない。

 事前にメリスから肉体を強化する魔法をかけてもらっていなかったら、全員回避がコンマ数秒遅れ、今ごろ血の海に沈んでいただろう。


「くっ……!」


 凌いでばかりではジリ貧になると直感した私は直感に従い、強引に隙を作り出すことを決めた。

 着地の勢いをそのまま踏み込みの力に変え、地面を砕くほどの加速で前方に佇むメーディルへと肉薄する。


「メリス、お願い!」

「はい!エンチャントセイント!」

「へぇ……。積極的なのね、勇者様」


 メーディルが目を細める。


(見たところ、ロリエさんのような魔術師タイプ。懐に入り込めばこちらが……シャーロットさんが有利)

「これで終わりよ!ハァアアアッ!」


 渾身の力を乗せ、上段から一気に振り下ろした剣戟。

 勝利を確信したと思った次の瞬間、私は自分の感覚を疑うことになる。


「終わり?それを言うのは、少々気が早すぎではなくて?」

「なっ……!?」


 メーディルは手にした禍々しい装飾の杖一本で私の斬撃を真正面から受け止めたのだ。

 重厚な金属音を凌駕する魔力の衝突音が空間を揺らしながら、まるで岩山を叩いたかのようにその場に静止した。


「くっ……う、嘘でしょ……!?」


 魔術師特有の脆弱さなど微塵も感じさせない膂力。

 メーディルは冷笑を浮かべたまま、手首の返しだけで杖を一閃させた。


「っ、くっ……!」


 咄嗟に防いだものの、爆発的な反動で私は数メートル後方へと弾き飛ばされる。

 石床を削りながら姿勢を立て直し、すぐさま次の一撃を繰り出そうとしたその時だった。


「勇者だからとて、我ら最高幹部を侮られては困る。我らの力、底が見えるほど浅くはないのよ」

「ブラックサンダー!」


 一瞬の隙を突くように、ファミーナの鋭い声が響き渡った。

 彼女の杖から放たれたのは漆黒の魔力を帯びた猛烈な勢いの稲妻であり、それは飢えた蛇のように虚空をのたうち、無防備に見えたメーディルの華奢な身体を正面から捉えた。

 バチバチという鼓膜を劈くような轟音と共に大広間の床から深い砂塵が舞い上がり、敵の姿が掻き消える。


「やったか……!?」

「いいえ、まだです……!ファミーナさん!」

「ッ!?」


 砂塵の奥、何かが異様に光った。

 反射的にファミーナの前に割り込んだ私の視界に禍々しい闇の光球が迫る。

 咄嗟に聖剣を盾にして弾き飛ばしたけど、衝撃の一撃の重さに肩から先が痺れた。


「大丈夫!?怪我はない!?」

「は、はい……助かりました。……でも、今のは……」


 砂煙がゆっくりと晴れていく。

 そこに立っていたのは衣服に煤一つついていないメーディルの姿だった。

 彼女が杖を握り直すたびにこの場を震わせるようなプレッシャーが膨れ上がり、周囲の空気は呼吸すら困難になりそうなほど重く澱んでいく。


「ふふ、やるわね。流石は聖剣に選ばれた勇者……少しは楽しませてくれそうね」


 メーディルの口角が不気味につり上がる。

 それは対等な戦いを楽しむ者の笑みなどではなく、獲物を弄び、ゆっくりと絶望へ沈める捕食者の特権のごとき愉悦。


「さて、こちらもそろそろ本気でいかせてもらうわ。……真の絶望というものをその身に刻んであげる」

「「「ッ!?」」」


 刹那、彼女の足元から赤黒く染まった魔力が噴水のように湧き上がった。

 肌を刺す殺気の鋭さと脳を直接揺さぶるような魔力の奔流。

 これまで戦ってきた魔王軍の幹部の一角を担っていたギルダスやメルミネといった強敵たちが子供のようだったと思えてくるほどの次元の違いという事実を……警鐘を乱打する私の本能が嫌というほど理解させられていた。

 目の前の女はこれまでの敵とは実力を含めて格が違う。


 強烈な死の影が私たちの喉元にじわりと……確実に食らいつこうとしていた。

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