第163話 避けられぬ戦いへ
勇者パーティ VS. 魔王軍の幹部勢との戦闘が勃発します!
「シュッ!」
空を裂く銀閃が魔王軍の尖兵の喉元を正確に貫く。
「「ガァッ!?」」
「ハァアアアッ!」
間髪入れず、シャーロットの聖剣エクスカリバーが十字の軌跡を描き、残る兵士たちを光の粒子へと変えた。
「「「ギャァアアアアア!」」」
断末魔の叫びが冷え切った城内に不気味な余韻を残しながら消えていく。
俺たち勇者パーティとファミーナは今、魔王城の内部に侵入しながら回廊を駆け抜けていた。
正門付近では、彼女の側近であるカリュミノが仕掛けた大規模な陽動爆発によって、その混乱の隙を突き、俺たちは裏手から深部へと突入した。
「やっぱり、一筋縄じゃいかないな」
ジャードが重厚な盾で敵の槍を弾き飛ばしながら剣で斬り裂く。
「ここは魔王リザエラの本拠地……いわば魔道の心臓部です。何が起きても不思議ではありませんよ!」
返り血を浴びることなく、凛とした佇まいでメリスが聖印を掲げた。
ここは敵のお膝元であり、一歩進むごとに緊張感が増していくのがわかる。
空間そのものが侵入者の精神を削りにきているかのようだが、俺たちはそれを承知で乗り込んできた。
魔王リザエラを倒すために。
「立ち止まるな!時間をかければかけるほど、包囲網は狭まる。最短ルートを強行突破するぞ!」
「リュウトの言う通りよ。最速で玉座の間まで駆け抜けるわよ!」
俺の指示にシャーロットが断じ切る。
「……行きましょう。この先に何が待ち受けていようと、私は目を逸らしません」
ファミーナの瞳に宿るのは亡き父の遺志を継ぎ、種族の垣根を超えようとする王女としての覚悟だった。
いくらかのイレギュラーがあっても動じない辺り、いざという時の胆力は本物だと決めるには充分だ。
「よし、突き進むわよ!」
「「オオッ!」」
「ええっ!」
「「はいっ!」」
号令と共に俺たちはさらに加速する。
次々と魔王軍の兵隊たちや這い出る魔獣たちを蹴散らしている時だった。
「むっ!」
進んでいくと、荘厳ながら、重々しい空気を漂わせる大きな扉が見えた。
大きさから見て、中には大広間かそれに近いような部屋に繋がっている可能性が高い。
それでも……。
「よし……行くわよ!」
シャーロットの手が扉にかけられ、重苦しい音を立てて開門する。
予想通り、そこは広大な空間だった。
予想していた通り、天井は遥か高く、戦いになれば存分に立ち回れる広さがあるものの、それ以上に恐ろしいのはそこを支配する静寂だった。
「……リュウト、何か感じる?」
シャーロットの問いに俺は五感を研ぎ澄ませた。
「今のところは……。いや、むっ……?」
レンジャーとしての本能が心臓を直接掴まれたような悪寒を告げる。
床の影が一瞬だけ不自然に揺らめいた。
「皆!避け――」
しかし、俺の警告は間に合わなかった。
突如として足元から噴き上がった漆黒の霧が空間をぐにゃりと歪める。
「なっ、これは?」
「リュウトさん!?」
叫び声さえも遠ざかっていく。
物理的な距離を無視して強引に引き剥がすような黒い空間は魔王の罠か、あるいは……。
◇———
「シャーロットさん、この空間……妙に空気が重苦しいですわ」
「ええ、見覚えがあるわ」
(魔王軍の幹部が使う亜空間を生み出す類ね)
メリスの懸念やシャーロットの洞察通り、周囲の壁が陽炎のように揺らぎ、出口のあったはずの場所はどす黒い虚無に飲み込まれている。
瞬間的にどのような状況に置かれているかを判断した。
敵の罠であることを……。
「ッ!」
「ファミーナ、大丈夫か?」
シャーロットが咄嗟に声をかけると、彼女は鋭い視線を闇の一点に据え、低く身構えた。
「ええ……。ただ、この禍々しい魔力、覚えがあります」
闇の中からヒタ、ヒタと優雅な足音が近づいてくる。
「流石はファミーナ様。……と言ったところですかね……。……いえ、反逆者であるなら、敬語や敬称も不要かしら?」
挑発的な声と共に姿を現したのは思わず引き込まれそうになる宝石のような赤い瞳、腰まで伸びた黒に近い深紅色の髪に凹凸のハッキリとした身体つきをしており、それをまざまざと売りにしているかのように露出度の高い黒いドレスを着ていた。
その上には紫がかかった長大なマントを羽織っており、手に握る柘榴色の魔石が埋め込まれた長杖を優雅に振ってみせた。
「あの御方への供物と忌々しい贄を同時に捧げられるなんて。僥倖とはまさにこのことでしょうね?」
「……メーディル」
ファミーナがその名を憎々しげに呼ぶ。
魔王軍幹部にして美しき処刑人がシャーロットたちにその牙を剥く。
◇———
金属の靴音が辺りに響き渡る。
「ふっ、ふふふ……。かの当代の勇者シャーロットの姿がないのは些か興醒めだが、その翼をもぐのも一興。貴殿らと相見えることもまた意義深い糧と捉えよう」
立ち塞がる男が放つ圧倒的な威圧感に俺とロリエ、ジャードの肌は粟立ち、微かに強張った。
闇を煮詰めたようなザンバラ髪に鮮血のような赤黒い瞳。
身に纏う漆黒の甲冑とその手に握られた大剣の刀身にそれよりも長い柄を付けたような豪快なグレイブからはどす黒い魔力が溢れ出し、周囲の空間を不気味に歪めていた。
「……何者だ、お前は」
絞り出すような俺の問いに、男は不敵に、そして残酷なまでに優雅な所作で剣を掲げる。
「我が名はバリオルグ。魔王軍最高幹部の一角なり。……さあ、光栄に思うがいい。貴殿らの命が我が魔王軍とあの方の栄光の礎となることを」
「……」
ジャードは剣と盾を、ロリエは杖を、俺は聖弓セレスティアロを構える。
別々の空間で戦いが勃発しようとする中、俺たちはこう悟った。
目の前の強大な敵を倒せないことには魔王リザエラを倒すのは夢物語で終わってしまう……と。
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