161話 潜入開始
勇者パーティと魔王軍の戦いが勃発しようします!
「何事だッ!?」
「城門付近で爆音を確認!黒煙が上がっています!」
「すぐに向かえ!手分けして状況を確認しろッ!」
静寂に包まれていた魔王城は瞬時にけたたましい喧騒へと変わった。
武具が擦れる不快な音や慌ただしく石床を叩く軍靴の響き、指示を飛ばす上官の声や無理やり叩き起こされた末端兵たちの怒号が混じり合う。
「敵襲か?それとも事故か!?」
「分からん、とにかく現場で状況を把握するのが先だ!急げ!」
「オォオッ!」
混乱が波紋のように城内へ広がる中、玉座の間だけはいたずらに広がる冷徹な静寂が居座り続けていた。
「リザエラ様!城門近辺で爆発が発生。直ちに状況判断を――」
「……騒ぎすぎだ。分かっている」
報告に駆け込んだ部下の狼狽に対し、魔王リザエラは一瞥だけで黙らせた。
彼女は頬杖をついたまま、視線すら動かさない。
「これは余興のような些末なこと。確認に回すのは十数名で十分。残りは定位置に戻り、城内の守りを固めなさい。それから、速やかに幹部を全員集めよ!」
「ハッ……!御意に!」
下がる部下を見送り、リザエラは不愉快そうでいつつも、どこか愉しげに細い指で玉座の肘掛けを叩いた。
「小賢しい真似をしてくれるわね」
そんな中で彼女の唇が三日月のような形に悪辣に歪む。
「いいだろう。その勇気、じっくりと絶望に染め上げてあげるわ」
(ここまで来なさいよ。ファミーナ……)
◇———
地響きのような轟音と遠くから聞こえる怒号。
そんな折、裏口から侵入した俺たち勇者パーティとファミーナは城内の廊下をひた走っている。
そんな時にシャーロットと俺が呟く。
「……ふふ、どうやら相手は今ごろ、トラブル対処と侵入者探しで手一杯みたいね」
先頭を走るシャーロットが不敵な笑みを浮かべて肩越しに俺へ声をかけてくる。
「リュウトの精密射撃はもちろんだけど、カリュミノが上手くやってくれているお陰でスムーズに入ることができたわ」
「全くだ。あんな有能な側近を従えてるファミーナが羨ましくてしょうがないぜ」
俺の軽口に後ろを走るファミーナが自分のことのように胸を張り、嬉しそうに頷いた。
「ありがとうございます。彼女は私の自慢の側近ですから……」
今から数分前、俺は城の裏口から二本の“爆撃の矢”を同時に放った。
空を裂き、放物線のような山なりに描かれたその先には事前にカリュミノが潜入して正門付近に設置しておいた爆薬や音響弾の集積ポイントがあった。
俺の矢が起爆剤となり、連鎖的に発生した大爆発は城の防衛網を物理的にも精神的にも混沌とさせたはずだ。
今の魔王軍の城内は蜂の巣をつついたような騒ぎになっているだろう。
その空白の時間こそが、俺たちが最短ルートで玉座の間へと駆け抜けるための唯一と言ってもいいような勝機だった。
「だけど、あまりうかうかしていられないからな」
最短ルートを選んだ代償として、俺たちの足を止めている暇は少しも無く、敵と鉢合わせれば、その場で全てをなぎ倒して進むしかない。
「……」
ふと見ると、メリスの表情が不安げに曇っていた。
「カリュミノさん……本当に大丈夫でしょうか。一人であの混乱の中を、上手く立ち回れるとおっしゃってはいましたけれど……」
「心配いりません。彼女は影を歩く術に長けています。それに、この城の構造は私以上に彼女が熟知しています。必ず、最小限のダメージで切り抜け、私たちに追いついてくれます。……信じましょう」
ファミーナの力強い言葉は自分自身に言い聞かせているようでもあった。
「メリス。斥候としてのあの人の腕前は本物だ。俺が保証するよ」
俺は走りながら、短く言葉を添えた。
道中、隣でその仕事ぶりを見てきたけど、その技量はまさに一流の仕事人そのものであり、俺たちがこの魔族領をこうして比較的万全な状態で進んでこれたのは彼女の影の支えがあったからだ。
「ここはファミーナの言葉を信じよう」
「リュウトさん……。……はい。そうですね」
メリスは小さく深呼吸をして、再び前を向いた。
そこへジャードとロリエも会話に入ってくる。
「おいおい、そんなにしんみりするなって!カリュミノがあれだけ身体を張って道を作ってくれたんだ。俺たちがここで立ち止まってたら、あいつに合わせる顔がねえだろ!」
「ええ、その通りよ。彼女のためにも思いっきり暴れてやるわ!」
その言葉を合図にするように、シャーロットが一段と速度を上げ、行く手を阻む重厚な扉を見据えた。
「皆、その意気よ。この先に何が待ち受けていようと、私たちの絆は断ち切れない。……魔王リザエラ、必ず私たちが倒すわよ!」
俺とジャードが挑戦的な表情で「おうよ!」と応え、メリスが真剣な表情で「はい!」と応え、ロリエが不敵な笑みを見せながら「当然よ!」と応える。
仲間たちの力強い咆哮が城内の殺伐とした空気を塗り替えていく。
その熱にファミーナの顔にも迷いのない決意が宿った。
俺は拳を強く握り直し、集中力を研ぎ澄ませた。
「行くぞ……!」
俺は静かながらも、熱い覚悟をその一言に込め、仲間と共に扉を突き破った。
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