151話 ファミーナの決断
一つの決断が物語を動かします!
人間と融和を願うファミーナが治める集落にそれを不服と思わんばかりの魔王軍の襲撃を受けてすぐのことだった。
「皆様……本当にありがとうございます!何とお礼を言ったらよいか……」
ファミーナが深く頭を下げており、彼女の背後には怯えながらも難を逃れた魔族たちが身を寄せ合っている。
襲って来た魔王軍の戦闘部隊を殲滅した旨を伝えると、凄く感謝をされ、同胞の命を繋ぎ止めることができた安堵の涙が浮かんでいた。
「いいわよ。魔王軍が相手なら、どの道倒さなきゃならなかったからさ」
「それを含め、本当に感謝します」
彼女や生き残った魔族の人々を助けることは叶ったものの、一つの懸念点が浮かんでしまった。
「だけど、シャーロット……ファミーナ……」
「うん」
「はい。感謝の念に嘘はございませんが、ここはもう……」
俺の言葉に周囲の空気が一段と冷え込み、二人が浮かべたのは憂慮で満ちたような表情だった。
この集落はかつての放棄されたダンジョンを基盤に、人目を忍んで築かれた隠れ里だ。
だが、魔王軍の精鋭がここまで踏み込んできた事実はその居所が割れ、いつ、どのタイミングで同じことが起きる可能性が大きく高まってしまったことを意味している。
今回はどうにかなったものの、また同じことが起きれば、魔王リザエラはそれ以上の戦力やなりふり構わない方法で攻め込むのは明白であるのは間違いない。
そうなれば、非戦闘員を抱えるこの集落に抗う術はないし、同じ結果になってくれる保証も無い。
勇者パーティの俺たちが自分の身を守るだけならともかく、集落に住まう者たちはその度に命の危険に晒される恐怖に怯え続けることになる。
「となりゃ、ここから別の場所に引っ越すか適当な場所を見つけて隠れ住むってことになるよな……?」
「ですが、かつてはダンジョンだったここを基に作るとなれば、その時と同じかそれ以上の時間や手間を労する可能性は大いにありますよ。その間にファミーナさんを筆頭にする争いを好まない魔族の方々が悪戯に命を奪われる事態にも繋がりかねませんよ。今から同じ、あるいはそれ以上の場所をゼロから作り上げる間にリザエラの追っ手が黙っているはずがありません」
「そうよ。あたしたちが二十四時間張り付いて守るにしても、いろんな意味でキツイわよ」
ジャードやメリス、ロリエの考えや意見は最もだ。
俺たちはいいけど、他の町に生き残った穏健な魔族たちがどっと押し寄せてきたら民衆がビックリすることは間違いない。
仮に争いを望んでいないとファミーナが訴えても、受け入れてもらえる保証はどこにもない。
ここを捨てて人間の住む領域に近づけば、今度はフォーペウロの騎士団や魔族を憎む民衆が出張ってくるだろう。
隠れれば魔王軍に殺され、表に出れば人間に狩られる。
「詰んでる……って言いたいのかよ……?」
俺は拳を握りしめた。
ここに来て大きな問題に直面してしまった。
ファミーナたちが住まう土地の魔族は穏やかで争いを好まないのは見ていて分かる。
しかし、近くの町や村に白旗を振って危害を加えないことをアピールしたとしても、すぐに迫害されてしまうだろう。
それでも、俺はファミーナたちを見捨てる選択肢を取ってしまいたくない。
その時だった。
「皆様。……一つ、よろしいでしょうか」
「「「「「ん?」」」」」
「私に提案があります」
「提案……?」
静寂を裂いたのはファミーナの凛とした声だった。
彼女は俺たちを見渡し、それから自身の側近であるジュウロンとカリュミノへと視線を向けながら語った。
その話を聞いた俺たちは……。
「……なっ、何と仰りました!?」
「ファミーナ様!それはいくら何でも、正気の沙汰ではありません!」
彼女の側近であるジュウロンやカリュミノは驚いており、俺たち勇者パーティも自分の耳を疑った。
「ファミーナ!協力するつもりなのは本当だけど、それじゃ……」
「いくらなんでも無茶だぞ!」
「そうよ!下手したらファミーナどころか、ここに住まう魔族たち全員が危険な目に遭うんだよ!」
「それに、失敗したら夢どころか命もないですよ」
「一度考え直した方がいい」
俺たちは必死に説得しようとした。
だが……。
「私は正気です。この方法以外、ここに住まう方たちの命や安全を守れないと考えています。それに、これは機会とも見ています」
「機会だと……?」
「はい。ですので、もう一度お伝えします。ここに住まう魔族の皆様を連れて、近くの町まで避難します」
彼女はまっすぐに俺たちを見つめた。
それは悠久に及ぶ人間と魔族の闘争の歴史において、無謀とも言える挑戦。
武装を解いた魔族の集団が人間が住まう場所の門を叩くことが何を意味するか、彼女が理解していないはずがない。
それでも、彼女の決意は本物だ。
……はは。まったく、とんでもないお嬢様だ。
◇———
「あそこが私たちの隠れ住む集落に一番近い町なのですね」
「ええ……」
ファミーナたちを連れて足を踏み入れようとしているのは魔族領の境目辺りの町であり、俺たちが最近まで訪れていた場所だ。
彼女を含めた集落に住まう魔族たちはフード付きのローブやコートを羽織らせており、一目でどんな人物かを分かりにくくさせているものの、あくまでも気休めのようなモノだ。
「可能性があるって意味ではあの町が最良だと思う」
「分かりました」
俺の言葉を聞いたファミーナに決意の光が宿った。
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