第150話 一種の区切り
勇者パーティ VS. ザルヴァらの戦いにピリオドが着きます!
「ガフッ……」
(これは……致命傷だ……助からねぇ……)
俺はシャーロットと共に魔王軍の幹部の一人であるザルヴァとの死闘を制した。
後に残されたのは鼻を突く焦熱と鉄錆の臭いだけだ。
胸に刻まれた深い斬痕からは命の灯火が魔力と共に溢れ出し、何もない空気の中へと霧散していく。
じっくりと観察するまでもなく、風前の灯火であるのはもはや自明の理だった。
「……ッ!?」
不意に背後の茂みが騒いだのを気取り、反射的に聖弓セレスティアロを構える俺の前に、聞き慣れ声が響く。
「シャーロット、リュウト!」
「「ッ!?」」
「そっちは終わったみたいだな」
「「ジャード!」」
声の主はジャードであり、少しボロボロになっているが、自力で歩いて戻って来れるくらいに足取りは元気なようでホッとした。
その姿を見て、俺の肩から僅かに力が抜けた。
「おーい!皆ー!」
続いて響いたのはどこか誇らしげに声を出すロリエであり、隣には煤けながらも凛とした表情を崩さないメリスが並んでいる。
「ロリエ、メリス!そっちも終わったんだな」
「ええ!リチェナスとかとか言う魔王軍の精鋭らしき女魔術師をバッチリ倒したわよ。最後はメリスとの合わせ技が綺麗に決まったんだから!」
「少々手こずりましたけど、彼女の機転に救われました」
「何にせよ、全員五体満足で合流できたことを喜ぶべきね」
シャーロットの言う通り、倒すべき相手を倒し、こうして集合できたことを喜ぶべきだろう。
そんな時だった。
「ん?」
「リュウト?」
「……待て。誰か来る」
俺が再びセレスティアロを引き絞り、闇の向こうを睨みつける。
カサリっと力なく草を分ける音がし、そこから這い出すように一人の女性が姿を現した。
「うぅ……っ……あぁ……」
「貴女は……カリュミノ!?」
茂みから現れたのは魔族と人間の友和を望むファミーナの側近であるカリュミノであるが、その姿は凄惨の一言に尽きる。
魔族の強靭な肉体をもってしても隠しきれない数多の裂傷や顔色の悪さ、彼女は俺たちの姿を捉えると安堵したのか、あるいは限界を超えていたのか、片膝を地面に付きながらその場に崩れ落ちた。
「ぐっ……すまない、こんな醜態を……」
「カリュミノ!おいおい、相当やられてるじゃねぇか……」
「メリス、すぐに治療を!」
「はい!マルチヒール!」
シャーロットの指示に即座に反応し、メリスが祈りを捧げる。
虹色と青白さが混じり合った幻想的な光の粒子がカリュミノの身体を包み込んだ。
切り裂かれた衣服の下からみるみるうちに傷口が塞がっていく。
魔族にも効くのかって思いもしたけど、悪い結果にならなくてよかった。
「はい。治りましたよ。あまり無理はなさらないで下さいね」
「……あぁ。身体の芯に残っていた痺れが霧散していくようだ。感謝する。勇者パーティの聖女よ」
「いいえ。お安い御用です。……でも、あまりご無理はなさらないでくださいね?」
「分かっている」
しっかりとお礼を述べるカリュミノに対し、メリスは柔和な微笑みで応える。
その光景に僅かな温もりを感じつつも、俺とシャーロットの視線は再びヤツへと戻った。
「ぐぅ……あぁ……」
地面に横たわったまま、ザルヴァが低く、震える声で笑った。
皆も釣られるようにその方角を向いた。
戦うこと自体はもう無理だろうが、まだ死なないだけでもタフネスぶりに賞賛を覚えそうになる。
だが、その眼には人生の終わりを迎えることを悟ったかのように諦観にも似たような表情を浮かべている
「……死に際を間違えるほど、俺も愚かではない。この通り、俺は死に体だ。殺すがいい……」
「待て。死ぬ前に一つだけ答えなさい」
上半身を起こしながら、カリュミノは問い詰めた。
戦場と化した魔族が住まう集落も隠し通してきたはずなのに、それがバレてしまう理由を知りたくなるのは当然のことだ。
「どうやってこの場所を突き止めた?ここは外からは決して見つからないようにできていた。いくらヒディニスがいようとも、居場所を特定するのは不可能なはずよ」
ザルヴァは消え入りそうな声で、血を吐きながら言葉を繋いだ。
「今更……理由を知って、何になる……?だが、一つだけ……冥土の土産に教えてやろう……」
彼は天を仰ぎ、呪いのような言葉を吐き出した。
「あの方……リザエラ様は……ファミーナを手中に収めることを……野望の核心に据えておられる……。俺たちが退けられた程度で……終わる話ではないのだ……」
その瞬間、ザルヴァの指先から黒い灰がこぼれ落ちた。
身体が崩壊を始めているのは魔族が今まさに、命を落とす現象だ。
「ファミーナは……リザエラ様の野望を成就させるための……不可欠な鍵だ。……俺がここで果て、部隊が全滅したことで……あの方や残りの幹部も本当の意味で本気になるだろうな……」
ザルヴァの瞳から光が消えていく。
「……俺はここで死ぬけど……。先に……待っているぞ……。地獄にお前らが来たら……盛大に……笑ってやる……よ……」
そして、静かにして呪詛のような言葉を遺しながら、その身体を虚空へと消すのだった。
後に残されたのは風に舞う黒い灰と重苦しい予感だけだ。
こうして、魔王軍の精鋭をかき集めた部隊と勇者パーティの戦いは幕を閉じるのだった。
だが、不吉さを感じずにいられない嫌な棘が胸に残ってもいた。
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