第148話 【Sideジャード&ロリエ】もぎ取った勝利
それぞれの戦いも終止符が打たれます!
「ウラァアアアッ!」
「フゥウン!」
大気を叩き割るような咆哮と共に黒い魔力を帯びた戦槌が振り下ろされる。
俺は引き続き、魔王軍の精鋭ゴレドアと正面から火花を散らしていた。
縦横無尽に荒れ狂う鉄塊の嵐を前に、当初はその圧倒的な質量と勢いに飲まれかけたが、今の俺の心に恐れはない。
むしろ、焦燥を募らせているのはゴレドアの方であり、奴の凶悪な笑みの裏側に拭い去れない疑念が影を落としているのを俺は見逃さなかった。
「オラァッ!オラァッ!死ねェッ!」
(……おかしい。さっきからこの盾に何発も叩き込んでるはずだ。壊れるどころか、凹み一つ付きやしねえ。どうなってやがる……!?)
奴の抱いた疑問は戦士として正しい。
並の防具であれば、今の一撃で粉々に砕け散り、俺の腕の骨も消し飛んでいたはずだが、この盾は違う。
「ハァアアアッ!」
「ぐおっ!?」
一瞬の隙を突き、俺は盾を真正面から突き出した。
身体の奥底から火山の噴火のように湧き上がり、盾を介して放たれた不可視の衝撃波がゴレドアを戦槌ごと後方へと弾き飛ばした。
「よし……!」
「グォオオオオオッ!」
巨体が地面を派手に削りながら滑っていく。
ゴレドアは獣のような動きで跳ね起き、信じられないものを見る目で俺を睨みつけた。
驚きと屈辱がその顔を醜く歪ませている。
「ぐぅうう!」
(この俺が……力で負けただと?どうなってるんだ?)
「テメェ……何の魔法を使いやがった!?」
「魔法じゃねえよ」
だが、その本質は魔法に近いモノだ。
俺が握るこの盾には一つの特殊な術式が刻まれている。
受けた衝撃を一時的に貯蔵し、自らの膂力へと変換する、シンプルに言えば、俺が握る盾に付与されたダメージの受けた分を自身の力に変えていくモノだった。
そのお陰で俺は強力な魔族を相手に大ダメージを与える術を得たのだった。
「ふざけるなぁあああッ!」
理屈を理解できない恐怖を振り払うようにゴレドアが再び突進してくる。
俺はその怒りに任せて振りかぶられた最大出力の戦槌を逃げることなく真っ向から迎え撃つ。
「ここだッ!」
「ぐぅ、う……!?」
戦槌が盾に激突した瞬間、その勢いを失い、宙に浮いた戦槌と共にその死に体となったゴレドアを俺は盾の縁で強引に絡め取り、一気にこじ開けた。
「ハァアアアッ!」
「ガァアッ!?」
返しの斬撃がゴレドアの胸元を深く切り裂く。
鮮血が舞い、俺の身体には奴がこれまで叩き込んできた衝撃の残滓が漲る力となって脈動している。
「どうにも実戦じゃピンとこなくてな。だが、皮肉なもんだ。お前のおかげで、ようやくコツをやつが掴めた気がするぜ」
「テメェ……ッ……!」
絶望の色を濃くするゴレドアを前に、俺は無意識に口角を吊り上げていた。
「うるせぇ!最後に立ってるのは……この俺だぁッ!」
ゴレドアは地に落ちた戦槌を掴み直し、全身の魔力と気迫を集中させた。
だが、その突進を俺はドンと盾を構えてその一撃を待つ。
「死ねェッ!」
「フンッ!」
「なっ――!?」
激突の刹那、俺は溜まったエネルギーをタイミング良く放出しながら跳ね返したことでゴレドアの態勢を大きく崩すことに成功した。
そこから間髪を入れずに……。
「これで終わりだ!螺旋突牙!」
「ガバァアアアアッ!」
俺の剣が螺旋状の凄まじい回転を伴った突きでゴレドアの胸部中央を貫いた。
肉を断ち、骨を砕き、心臓部にある核を真っ向から撃ち抜く。
「ガハッ……あが……」
「ふぅう……」
風穴が空いたゴレドアの身体は糸の切れた人形のように仰向けに倒れ込んだ。
静寂が戻り、俺の荒い呼吸だけが響く。
奴の身体からは徐々に漆黒の魔力が霧散し、末端からさらさらと黒色の塵へと変わっていくのが見えた。
魔族の命の終焉だ。
「ちくしょう……こんな……ところで……この俺が人間に……」
最期の恨み言を塵になるのと引き換えに、ゴレドアの存在は完全に消失した。
そこに残されたのは激戦の跡と俺の手の中に残る戦いの感触だけだ。
「……ふぅ」
俺は一度だけ深く息を吐き出すと、まだ戦いの音が鳴り止まぬ方角へと視線を向けた。
◇———
あたしは魔王軍の精鋭の一人であるリチェナスを相手にメリスと共に交戦している。
繰り出される魔法と魔法が空中で衝突し、互いに決定打を欠いたまま、戦況は煩わしくなりそうな膠着状態に陥っていた。
だが、その均衡が不意に音を立てて崩れ去る。
「……え?なっ、これは……!?」
リチェナスの余裕に満ちていた顔が驚愕に染まった。
「ありがとう、メリス。最高のタイミングよ」
「……お待たせしました、ロリエさん。もう、準備はよろしいですか?」
「ええ、充分。とびきりのお返しを叩き込んでやるわ」
あたしは勝利を確信し、口角を吊り上げた。
リチェナスを確実に屠る手筈を整えたのだから。
「ぐぅうう!」
(まさか、あの聖女がこんな罠魔法を仕掛けてくるなんて……)
リチェナスが苦悶の声を上げる。
魔術師でありながら、鋭い機動力を誇っていた彼女の右脚には白銀に輝く光の鎖が絡みついていた。
メリスのセイントチェーンを地雷のようにあらかじめ設置しておく罠魔法への応用だ。
いつの間にこんな高度な設置系の魔法を覚えたのかと驚きもしたが、今はそれが頼もしくて仕方がない。
「こっちも全力でいかせてもらうわよ!」
あたしの背後には幾重にも重なる黄金の魔法陣が展開される。
それは砲門のごとき姿を形成し、大気中の魔力を集中させていき、バチバチと弾ける紫電を帯びながら、その照準をリチェナスに定める。
「クソォオオオ!こんなところで終わってなるものかぁあああッ!」
リチェナスが絶叫しながら、彼女は鎖を自らの脚を巻き込むように黒い炎で焼き払うという、狂気じみた荒業で強引に拘束を脱すると、踵を返して逃げ出そうとした。
だけど、それはできないし、させない。
「ルクシオンヴォルト!」
「エンチャント・セイント!」
あたしが左手で指を鳴らすと同時にメリスが展開した純白の魔法陣があたしの雷撃を包み込む。
一秒にも満たない刹那、極限まで圧縮された紫電の矢が聖なる光を纏って空気を斬り裂く。
「ガハッ……ッ!?」
防御も回避も再生も許さない超速の稲妻は逃げようとしたリチェナスの背中の中心を穿った。
命に届く一発なのは誰が見ても明らかだ。
「こんな……馬鹿な……。あり得ない……私は……」
崩れ落ちゆくリチェナスの口から現実を受け入れきれない掠れた遺言が零れたと同時に、その身体は黒い塵へと変じ、形を失いながら虚空に散るのだった。
あたしとメリスは顔を見合わせ、安堵の表情を浮かべるのだった。
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