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ブラックな冒険者パーティを脱退した俺は自由気ままに誰かの役に立ちます~このレンジャー、いろんな意味で凄かった件~  作者: カワチャン
第四章 魔族と人間の友和を願う者との出会い

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第144話 【Sideカリュミノ】袂を分かつ

魔族との友和を夢見るファミーナの側近であるカリュミノ視点のお話です。

 時は先代魔王であったギラドルス様が魔族と人間の友好を結ぶ理想を作るために邁進している頃だった。


「ギラドルス様。ただいま戻りました」

「カリュミノ、ヒディニス。よくぞ戻って来た。早速となるが、調査の結果を聞かせてもらおうかね」

「はい。まずは隣国の状況ですが……」


 当時の私はギラドルス様に仕える従者の一人であり、人間と魔族が手を取り合っていく世界を作ろうとする理想に共感した。

 無益な殺生は誰のためにもならないことを常々訴え、魔族領を豊かにするための開拓の重要性を説くだけならば考えられない話ではなかった。

 だが、人類と手を結び、共に未来を歩もうとする道を本気で模索していくその姿は当時の魔族にとっては異常にも等しいと言ってもおかしくはなかった。

 私やヒディニスもそれは到底叶うはずのない理想論だと心の中で断じていた。


「私は本気だ。何も生まない争いや憎しみの連鎖という負の遺産を次の世代に引き継がせてはならん。だからこそ、我々が今、この手で終止符を打つのだ。きっと……いや、必ず成し遂げて見せよう」


 ギラドルス様の眼を見れば分かった。

 この方は本気なんだと……。

 元々、いたずらに誰かと争うことを好んでいなかった私はギラドルス様の理念に賛同するようになり、あの方の叶えたい夢を実現するために力を振るう決心をした。

 他国との和平を結ぶための調査から護衛任務、それに関連する雑務まで、来る日も来る日も働いた。

 そんなある日だった。


「今日も精が出てるわね」

「ヒディニス」


 廊下でヒディニスと遭遇した。

 同じ時期に魔王軍の一員となってからは共に切磋琢磨してきたと思っている。


「最近、魔王様から仕事をもらっては積極的に動いているようね。魔族と人間が手を取り合う世界をあなたも見たくなった感じかしら?」

「そんなところでしょうね」


 そんな会話を交わしていると、聞いていて引っ掛かるところがあり、私は敢えて問うた。


「ヒディニスはその……。ギラドルス様が追い求める理想には興味ないの?」

「ないこともない。だけど、本当にそれができるのかどうか、私の中ではどうにも定まらないところね。仕事だからやっているだけよ」

「なるほど……」


 そう返すヒディニスはどこかドライな表情だった。

 仕事ぶりそのものは真面目で丁寧なヒディニスだけど、どこか打算的な面があり、利得を求める一面もある。

 自分の成果に繋がらない事には興味を示さない様子を見せる時もしばしばあった。


「では、私はこれで失礼するわ」

「うん」


 最低限の会話を終えると、ヒディニスはそそくさと去って行き、私はその背中を見送った。


「彼女も積極的に協力してくれたら、私も助かるんだけどね……」


 そう呟きながら私は自分のやるべき仕事へと戻った。


 ヒディニスもいつか、本当の意味で同じ方角を向いてくれることを信じて……。


◇———


「ヒディニスッ!」

「カリュミノォッ!」


 集落から離れた原野に火花を散らす鋭い金属音が響き渡る。

 互いに手にしたロングナイフが舞うような速度で幾度も交錯した。

 突き、払い、いなし、そして切り上げる、寸分違わぬ技の応酬。

 最後の一撃を正面からぶつけ合うと、反動を利用して二人の距離が大きく開いた。


「はぁ……っ、ふぅ……」

「フンッ……」


 私は荒い呼吸を整えながら、じりじりと重心を落としているのに対し、ヒディニスの表情は傲慢な笑みに支配されている。

 同じ魔王軍に籍を置き、初めて出会った頃の彼女からは想像もできない……いや、これこそが本来の彼女だと断ずるには充分だった。

 ギラドルス様が描いた美しい夢の裏で彼女がどれほど冷徹な野心を抱いていたのか。

 気づけなかったその事実が今も胸の奥で後悔の棘となって疼いている。


「向こうではゴレドアやリチェナス……それにザルヴァ様が楽しそうに勇者パーティと遊んでいるみたいよ?カリュミノ、さっさとあなたを始末して、私も合流させてもらうわ」


 ヒディニスは戦場となった方角を、退屈そうに見やりながら呟く。

 その隙を逃さず、私は袖口から二本の投擲ナイフを滑り込ませ、同時に放った。


「ハッ!」

「フッ!」


 空気を裂くようなスピードだけど、ヒディニスは身体を少し捻りながら紙一重で回避してみせた。


「……よそ見なんて随分余裕ね」

「余裕?まさか。あなたの手の内は嫌というほど知っているもの」


 ヒディニスは曲芸のようにナイフの柄を回した。


「確かに、あの頃の私たちは同僚と同時に良きライバルだった。技のキレや体術はほぼ互角。けれど、暗器の使い方、指先の器用さと精度だけはいつもあなたが一歩先を行っていたわね。これでも私はさ……あなたの才能には一目置いていたのよ?」


 不意に言及された過去への言及に視界の端でかつての訓練風景や組手の稽古で泥にまみれながら武器を合わせた日々が蘇る。

 全戦全勝とはいかなかったが、確かに私が勝ち越していた。

 私が彼女にいろいろとモノをを教えることの方が多かったのも事実だ。

 だけど、力量に関する要素は全て()()()()


「……まさか?」

「あら、もう気づいた?昔の私になくて、今の私にある決定的な差が何なのか!」


 ヒディニスの口から不敵な笑みが零れ落ちた瞬間、彼女の足元から黒く禍々しい魔力が噴水のように噴き出した。

 それは粘り気を含めたようなドロリとした奔流となり、彼女の細い身体を繭のように包み込んでいく。


「そ、その姿は……!?」


 砂塵と魔力の霧が晴れた時、そこに立っていたのは私の知るヒディニスであって、同時に異形の姿だった。


「答えを教えてあげる。それは……。リザエラ様から賜ったこの力よ」


 装いは変わらないけど、露出した肌は闇に染め上げたような漆黒へと変色し、胸元から頬にかけて、赤黒い血管のような紋様が波打つように走っている。

 側頭部の角は禍々しく伸び、瞳は鮮血のような紅へと塗り潰されていた。


「本当にどっちが強いのか、ここでハッキリさせてあげるわ!カリュミノ!」

「くっ……!」


 ヒディニスの狂気的な叫びと共に大気が震えるほどのプレッシャーが押し寄せる。

 私は漏れそうな恐怖を抑えながら、手に持っているロングナイフを握り直した。


 そして悟った。もう、この女(ヒディニス)と分かり合えることはない……と。

最後までお読みいただきありがとうございます。


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