第143話 魔王軍の幹部と精鋭
魔王軍の幹部と精鋭が出てきます!
「喰らいなさい!ドラゴンブレス!」
「「「「「グギャァアアアア!」」」」」
戦場と化した集落の只中で、ロリエの鋭い声が響き渡った。
ロリエは炎属性と風属性の魔法陣を展開すると、激しい吐息のような灼熱の炎を放ち、扇状に広がりながら数々の魔物や魔族の兵士を焼き払う。
先制で魔法を放っていたのもあって、百近くいたその数は大分減っている。
「流石はロリエだな。相変わらずえげつない威力だな」
「ええ。広範囲の殲滅戦なら、彼女の存在は不可欠だからね」
俺とシャーロットは頼もしい仲間の姿を見ながら短く言葉を交わした。
振り返ってみると、フォーペウロで魔術の勉強や鍛錬をしたって本人が言っていたな。
ロリエは頼もしい。
だが、安堵の時間は一秒も与えられない。
「むっ、来るぞ!シャーロット!」
「ッ!?」
俺は背筋を凍らせるような強大な魔力を感じ取り、シャーロットとその方角を向いた。
次の瞬間。
ズドォォォォンッ!
「うおっ!」
「ふっ!」
数メートル離れた場所から俺たちが先ほどまで立っていた地面に漆黒の衝撃波が突き刺さった。
爆鳴と共に土煙が舞い上がり、まるで紙細工のように地面が裂けている。
「ほう……。流石は勇者とその連れだ。今の一撃を躱すか」
「「……」」
立ち込める土煙を割るように、その男は悠然と姿を現した。
黒檀のような褐色の肌と鮮血を混ぜたような灰色の瞳、額から突き出した悍ましい一本角と肩まで流れる野性味溢れる白髪、漆黒の装束からは丸太のような太い腕が覗き、その両手には禍々しい黒い魔力を纏った二振りの黒い大剣が握られている。
立っているだけで放たれるプレッシャーや禍々しさは末端の魔族の兵士と比較するのもおこがましいと思いそうなほどに強大だ。
「貴様……魔王軍の幹部だな?」
シャーロットが聖剣エクスカリバーを構えながら鋭く問いかけると、男は獰猛な獣のように口角を吊り上げた。
「察しがいいな、勇者様よ。俺は魔王軍の幹部の一人、ザルヴァだ。会えて嬉しいぜ、勇者様よ~」
ザルヴァと名乗った男から放たれる殺気は物理的な質量を伴って俺たちの肌を刺す。
(確かこの集落は厳重に隠蔽されているはずだ。なのにどうやってここを見つけた?)
「お前らの目的は何だ?ここを破壊するためか?」
「まぁ、それもあるにはあるんだが、攫いに来たんだよ。リザエラ様の娘であるファミーナをな!」
「「ッ!?」」
「どこにいるか教えてくれよ」
狙いはファミーナを生け捕りにすることを知った時、俺たちは心臓を冷たい手で掴まれたような感覚がした。
殺害ではなく、拉致なのは意外であるけど、リザエラの手元に彼女が渡ってしまえば、待っているのは死よりも残酷な運命に違いない。
人間と魔族が手を取り合える未来を願う彼女の心は間違いなく踏みにじられるだろう。
「……どこにいるか教えろだと?」
「あん?」
シャーロットが静かながら、芯の通った怒りを声に乗せる。
「答えはノーに決まっているだろ。お前らのような外道にファミーナは渡さない!」
「俺も同意見だ。かかって来いよ!」
俺が弓を引き絞ると、ザルヴァは呆れたように肩を竦めた。
「あっそうかい。交渉決裂ってわけだ。なら、しらみつぶしにいろいろとブチ壊して、ファミーナを引きずり出すとしよう。ついでに、お前ら勇者パーティの首もリザエラ様への最高の土産にさせてもらうぜ!」
ザルヴァの足元で漆黒の魔力が爆発した。
◇———
「はぁ……はぁ……」
(早く皆さんの下へ合流しなければ……)
メリスは集落の魔族たちを安全な避難所へと誘導し終え、最低限の応急処置を済ませると、休む間もなく戦場へと走り出していた。
一刻も早く仲間の下に合流したい一心で駆け抜ける彼女の視界に鮮烈な魔法の光が飛び込んできた。
「ロックスコール!」
「「「「「ギャァアアアアア!」」」」」
ロリエが放つ上空から降り注ぐ鋭利な岩石の雨が群がる魔物たちを容赦なく大地へと沈めていく。
「ジャァアア!」
「くっ!」
だが、その魔法の余韻を狙い、一人の魔族の兵士が影から飛び出した。獲物を狙う蛇のごとき、鋭い刺突――。
「させません!ホーリーヴォルト!」
「ゲガァアア!」
メリスの掲げた手から光の矢を紡ぎ出し、その光が魔族の兵士の身体を貫き、追撃を阻んだ。
「ロリエさん、ご無事ですか!」
「メリス!助かったわ。……避難の方は?」
「はい。皆さんは無事です!」
「ええ。こいつら片付けて、すぐにリュウトたちと合流しましょう。……って、伏せて!」
三秒も満たないだろう僅かな気の緩みの中を狙いすまされたかを察するようにロリエがそれを気取った方角に顔を向ける。
それは空気を切り裂くような毒々しい魔力。
「ホーリードーム!」
メリスが咄嗟に展開した光の球状障壁が着弾の瞬間に激しい火花を散らす。
「ふふっ。隙を突くように狙ったつもりだったけれど、思わぬお邪魔虫がいたようね。運が悪いこと」
どこからともなく上空の方角から冷たい女の声が降り注ぐ。
宙に浮かんでいたのは柘榴のような色の魔石を埋め込まれた漆黒を基調にした杖を携えたすみれ色のローブを纏ったうなじから反り返った二本の角を怪しく光らせる女の魔族だった。
彼女は羽毛のように軽やかに着地すると、優雅な動作でロリエとメリスを見据えた。
「あら、よく見れば勇者パーティの小娘たちじゃない。顔立ちに見覚えがあるわ」
「……あんた、魔王軍の幹部ね?」
ロリエが魔力を練りながら鋭い視線を送る。
相手から放たれるのは並の魔術師を大きく凌駕する圧力と魔力だった。
「幹部じゃないけど、そんなところよ。私は魔王軍の精鋭の一人であるリチェナス。……この集落を墜とすのもいいけど、勇者パーティのあなたたちをここで始末し、ファミーナをリザエラ様の下へ献上して差し上げるわ。そうすれば、あの方もさぞお喜びになるでしょうね」
「「……」」
リチェナスの瞳に醜悪な愉悦が宿る。
勇者パーティが誇る魔法の両翼と魔王軍の魔女が向き合うのだった。
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