第136話 変わる見方
魔族への意識や見方が変わるだろうお話です。
「……と言うことなのです」
「なるほど……」
魔族領のすぐ近くで見つけた集落に身を潜めるファミーナと邂逅した俺たち。
ファミーナの正体が当代の魔王であるリザエラの血の繋がらない娘であることを彼女の世話役であるジュウロンから聞かされた時には驚きを隠せなかった。
何より、リザエラの一つ前の魔王にして、ファミーナの父であるギラドルスが人間との友好や和睦を試みていた話を聞いて俺たちは一種の混乱を覚えかけた。
「それにしても、魔族が人間と和平を結ぼうとしていた時代があったなんてな……」
「その相手がファミーナの父親なんだから、驚くしかないよ」
「だよな……ってシャーロットは知らなかったのか?」
「私は……私たちは子供の頃から、魔族は憎むべき存在だと叩き込まれてきたわ」
「わたくしもです。教会の教えに魔族との共存などという言葉は一文字もありませんでした」
「俺だって同じだ」
「……」
だよね、一般常識みたいなものだからね。
そんな中、ロリエだけがひどく神妙な顔をして黙り込んでいた。
「ロリエ、どうした?気分でも悪いか?」
「え?あぁ、あたしも最初はシャーロットたちと同じ気持ちだったんだけど、こうしてファミーナの話を聞いて、書物で読んだ通りの時もあったんだなって再度思ってさ……」
「書物?」
「あっ、言ってなかったっけ?」
ロリエによると、俺がシャーロットやメリスとエレミーテ王国へ一時帰還していた時、彼女は王城の書庫である伝承記を閲覧したとのことだ。
「お伽話の類だと思ってたけど、そこに記されていた思想とさっき聞かされた話とあまりに一致するのよ。確かタイトルは『人間と魔族の融和物語』だったかな……?」
その言葉にファミーナが勢い良く身を乗り出した。
「えっ……?それって……!ジュウロン!」
「はい!」
「何?どうしたの?」
何かを思い出したかのように、ファミーナとジュウロンが慌しい様子を見せている。
「ロリエさん。不躾なお願いとは存じますが、その書物で印象に残っている言葉を一節でも構いません。教えてはいただけませんか?」
「え?はぁ……」
(何なの急に?)
それからロリエは読んだ書物で印象深かったとの文節やワードを思いつく限り伝える。
「あぁ……。……やはり、そうだったのですね」
「あたしが呼んだ本に何か引っかかることが何かあるの?」
納得がいったような表情を見せるファミーナに対し、ロリエが質問する。
「ロリエさんが読まれた『人間と魔族の融和物語』。その書物を執筆したのは……私の父、ギラドルスなのです」
「「「「「えぇえええ!?」」」」」
リビングに驚愕の唱和が響く。
あの時ロリエが手にした本は単に物語を記しているだけの物ではなかった。
先代魔王ギラドルスが人類と分かり合うために重ねた対話の記録であり、彼が遺した魂の遺稿だったのだ。
「にしても不思議だよな。なんだってそんな場所に……」
「でも、エレミーテ王国の王城の書庫にはそんな物置いてなかったわよ」
「フォーペウロに流れ着いたのは恐らく、運や偶然が重なったのだと思われます」
「なるほどね……」
(でなきゃ、あんなところでお目にかかれるはずがないからね……)
ロリエが頷いた。
「……さて。私からも一つ、聞かせてください。ずっと不思議だったのです」
「何を?」
「この集落へ至る道にはジュウロンたちによって隠蔽するための細工が施されていました。感知できないような仕様になっていたはずなのですが、どのようにして辿り着かれたのでしょうか?」
「あぁ、それは……」
仲間の視線が一斉に俺に集まる。
「お、俺が答えるよ。実は……」
まぁ、隠し通路を見つけたのは俺だからね。
俺はファミーナにこの集落まで来た経緯を話した。
「……なるほど。まるで技術を超えた魂の研ぎ澄ましですかね。貴方のような方が人類の側にいることを私は恐ろしくも、喜ばしく思います」
「どうも」
ファミーナの純粋な称賛に俺は思わず視線を逸らした。
魔族でありながら、その表情は純粋無垢な少女のようなモノであり、嬉しいと思う反面、どこかリアクションに困る。
だが、人類の敵だと思っていた魔族とこうして言葉を交わし、認め合っている。
ここでシャーロットがファミーナに一つの問いを投げかける。
「話が変わるようだけど、ファミーナたちはこれからどうするつもり?ずっとこの集落で隠れ住むつもりなのかな?」
「現状はそのつもりです。この集落の者たちの半分以上は戦う術を持ちません。先ほどもお話しましたが、この集落に住む者たちは争うことを望んでおりません」
「そうか……」
今いる建物に来るまでに何人かの魔族を見て、すれ違いはしたけど、ほとんどが俺たちを歓迎しているような雰囲気だった。
本当に人間と仲良くなりたいのが伝わって来る。
「それでも、魔王を……リザエラを討伐するのが私たちの使命であり、人類の悲願です。それだけは譲れないわ」
「分かっております」
するとファミーナは控えていたジュウロンに合図を送った。
「ジュウロン、あれを」
「御意に」
一分後、ジュウロンが持ってきたのは大分年季が入っているだろう三束の書簡だった。
その中の一つの黄ばんだ羊皮紙をテーブルに広げる。
「これは……?」
「魔族領の全図。そして残り二束は、魔王城内部の構造図、および隠し通路の設計図です」
俺たちは絶句した。
魔族領に乗り込むと意気込んではいたが、実のところ、それに関連する情報は不足気味だったのだ。
それだけに、これらは大変ありがたい贈り物だった。
「受け取ってください。言ったはずです。私たちは魔族と人間が手を取り合い、健やかに生きられる世界を作りたい……と。ですから、私はあなたたちを信じます」
俺には分かる。ファミーナは俺たちを信頼していることを……。
そして、人間と魔族は協力し合えることを感じるのだった。
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