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ブラックな冒険者パーティを脱退した俺は自由気ままに誰かの役に立ちます~このレンジャー、いろんな意味で凄かった件~  作者: カワチャン
第三章 魔王軍との戦い、本当の意味での死地へ

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第126話 過ちを糧に前へ

久々にリリナが登場します!

 窓外から差し込む午後の陽光がクーフェの湯気を白く透かしていた。

 王都エメラフィールの片隅にある静かな喫茶店。

 かつて冒険を共にした戦友と向かい合うには少しばかり上品すぎる場所だったかもしれない。


「こうしてゆっくり会うのも、ずいぶんと久しぶりだな。リリナ」

「本当にね。急に帰って来たって聞いた時はビックリせずにいられなかったよ。リュウト」


 かつての冒険者仲間であったリリナだ。

 俺が所属していた冒険者パーティ『戦鬼の大剣』の仲間であり、今はエレミーテ王国の王族専属医療部隊に身を置いている。

 俺の方はパーティを抜けた後、エレミーテ王国騎士団の遊軍調査部隊を経て、今は勇者パーティの一員となっている。

 歩む道は分かたれたが、彼女が俺の人生において欠かせない仲間であることに変わりはない。


「なんだか、雰囲気が変わったな。少し……大人っぽくなったか?」

「ふふ、何それ?でも、それを言うならリュウトこそ。何て言えばいいのかな……『戦鬼の大剣』にいた頃よりもずっと、こう、芯が太くなった感じがする」


 リリナは俺の顔をじっと見つめ、人差し指を顎に当てた。


「勇者様たちと過酷な旅を乗り越えてきたからかな?今のリュウトからは静かだけど圧倒されるような強さを感じるよ」

「……そうか?自分じゃよく分からないな。毎日必死なだけだ」


 照れ隠しにカップに注がれたクーフェを口に含む。

 確かに死線を幾度も潜り抜ける中、俺の中の何かが積み重なった自覚はある。

 だが、それをリリナの真っ直ぐな瞳で見抜かれると、どうにもこそばゆい。


「……」


 久しぶりに見る彼女は以前よりもずっと明るい表情をしていた。

 自信を失いかけていたかつての面影はもうなく、背筋を伸ばし、自分の足でしっかりと立っている女性ならではの美しさがあった。


「そうだ、リリナ。エマさんの具合はどうだ?元気にしているか?」

「うん。お陰様でね、すごく順調だよ」


 俺の問いにリリナの表情がさらに柔らかくなる。

 リリナの姉、エマさんは長く難病に苦しんでいたけど、今は王都の治療院で最高のケアを受け、奇跡的に回復へ向かっているという。


「担当医の先生も言ってた。あと数ヶ月して、このまま異常が出なければ自宅療養に切り替えられるって」

「……ってことは、また二人で暮らせるようになるのか」

「うん!すぐじゃないけどね。今でも夢みたいに思うよ」


 最近ではリハビリにも励んでおり、弱っていた身体も少しずつ健康的になっているとのことだ。

 彼女にとってエマさんは唯一無二の家族だ。

 その家族が救われたという事実は、俺にとっても自分のことのように嬉しかった。


「ところでリュウト。……聞かせてくれない?あなたの話も」

「俺の話?」

「ええ。勇者パーティの皆様とどんな場所を渡り歩いて、どんな困難を乗り越えてきたのか。私が知らない、あなたの今を」


 リリナの瞳には純粋な好奇心も混じっていた。

 俺は一呼吸置き、静かに語り始めた。

 一癖も二癖もある勇者パーティの仲間たちのこと。

 魔王軍幹部との激戦の記憶。

 大陸各地の美しい景色や泥にまみれた町。

 そして、最近まで自分たちがいたフォーペウロの地で起きた()()()()()()()についても……。


「……そう。シェリーをあなたが……」


 リリナの声が少しだけ震えた。


「ああ。……あいつが魔王軍の幹部として俺たちの前に現れたときは正直、眼を疑った。そして、俺がこの手でな……」


 シェリー・ベルローズ。

 俺が『戦鬼の大剣』を脱退した後に加入し、パーティを崩壊へと導いた張本人。

 彼女が人間と魔族のハーフであったこと、どうして魔王軍に与してまで人間を憎んでいたのか、その真意は今となっては闇の中だ。

 だが、バアゼルホの街を襲撃した彼女と対峙した時、俺の中にあったのは憎しみよりも、義務感に似た静かな決意だった。


「俺が引導を渡した。……あの場所で、かつての仲間としてケジメをつけなきゃいけないと思ったんだ」

「リュウト……」

「『戦鬼の大剣』が最後にああいう形で散り散りになったのは……俺にも責任があったからさ……」


 言葉が喉に詰まる。

 パーティのリーダーだったガルドスはシェリーに心まで弄ばれ、最後には魔族へと身を堕とした。

 かつての仲間をこの手で斬らねばならなかったあの感触は今も掌に残っている。


「……」

「そんなことないよ」

「え?」

「あの頃、ガルドスやアキリラ、ビーゴルからリュウトへの扱いが悪くなってきた時、私も今では後悔しているの。どんなことがあっても、あなたの味方でいるべきだったって……。もっと皆と対話すればよかったって……。そうすれば、もっと違う未来もあったんじゃないかって……」


 リリナはカップに注がれたクーフェの水面に映る自身を見やりながら呟く。


「なあ、リリナ。そりゃ、『戦鬼の大剣』時代はいろいろあったけど……それはそれでいい経験になったと思っている。それにな、『戦鬼の大剣』が無かったら、俺はリリナと出会えなかったかもしれなかったし、今こうして生きていることも叶わなかったかもしれない。失敗も後悔も、これからの自分の進むべき道への糧とすればいいんじゃないかな?」


 どんなに立派な人でも、どんなに悔恨や懺悔の言葉を口にしても、間違いを犯した過去は変えられない。

 だけど、積み重なった過去が現在に……そして、未来に繋がるのもまた事実。

 歩くスピードがゆっくりでもいいから、前進することを止めてはいけない。


「……ふふっ。やっぱり、リュウトはリュウトだね」


 リリナが不意にいたずらっぽく笑った。


「え?」

「そうだね。リュウトはいつだって、私が一番欲しい言葉を当然のように言ってくれる。叶わないなって時々思わせられるよ……」

「リリナ……?」

「あなたは自分の人たらしな部分をもう少し自覚した方がいいと思うよ?」

「なっ……!?何を藪から棒に……」


 慌てる俺を見て、リリナは鈴を転がしたような声で笑った。

 その屈託のない笑顔を見て、ようやく俺の肩からも余計な力が抜けた気がした。

 暫く話し込んだ後に喫茶店を出ると、外は既に夕暮れの気配が漂っていた。

 家路を急ぐ人々の喧騒が心地よく耳を打つ。

 俺たちは並んで、王都の目抜き通りをゆっくりと歩いた。


「リュウト、王都にはあとどれくらい居られるの?」

「……準備が整い次第だ。最短で、明後日の朝には発つことになるだろうな」

「そう……。やっぱり、忙しいんだね」


 もう一度フォーペウロに戻れば、次にこの王都の土を踏めるのがいつになるかは分からない。

 自分でも分かるくらいに魔王軍との戦いは佳境に入っており、ここから強力な幹部や魔物と戦う可能性は大いにある。

 故に、これが今生の別れになる可能性だってゼロではないのだ。

 ふと立ち止まったリリナが俺の服の袖を小さく引いた。


「リュウト。出発する時間が決まったら、絶対に、絶対に連絡して。……最後、見送らせてほしいから」


 その真剣な眼差しに俺は一瞬だけ言葉を失いながら、それから深く頷いた。


「ああ、約束する。必ず連絡するよ」

「よかった。……約束だよ?」


 リリナはもう一度、今度は少しだけ寂しそうに、けれど確かな希望を湛えた笑みを浮かべた。

 夕焼けが彼女の横顔をオレンジ色に染め上げていく。

 俺はその光景を決して忘れないようにと、深く心に刻み込んだ。


 絶対に死ぬわけにはいかないな……。また、一緒にこうして歩きたいから……。

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