第124話 【Sideシャーロット&メリス】冷めやらぬ興奮
シャーロットとメリス視点のお話です!
「はぁ……。なんだか疲れちゃったな……」
エレミーテ王都エメラフィールにある勇者パーティの拠点として与えられた邸宅の自室で私は寝間着になってベッドへと身体を投げ出した。
つい先刻まで、私たちは魔族領決戦に向けた決起の宴席にいた。
私たちだけでなく、エレミーテ王国騎士団のトップであるシュナイゼルさんを始めとする要人が何人か参加していただけに、結構な賑わいを見せた。
「リュウトがいたからなんだよね……」
天井を見つめながら、私は独りごちた。
あの宴席にリュウトが参加すると知った瞬間、胸がはねた。
けれど、そこで私が感じたのはただの楽しい思い出だけではなかった。
「……やっぱり、あんなに愛されて、信頼されていたんだな。リュウトは」
私は会場でリュウトの同僚である遊軍調査部隊の第六班の一員であるシーナさんとアンリから部隊にいた時の彼の人となりについて聞いた。
しがない一介の冒険者から転身した経緯。
困難を極めるだろう任務を完遂してみせた数々の武功。
そして何より、彼がどれほど仲間に慕われ、その不在を今の部隊がどれほど惜しんでいるか。
彼女たちの瞳がリュウトの名前が出るたびに誇らしげに、そして少しだけ寂しそうに輝くのを私は見逃さなかった。
「……私の知らないことばっかり」
少しだけ、胸の奥がチクリと疼いた。
私がリュウトと出会う前の私が触れることのなかった彼の時間。
彼女たちが語るリュウトのエピソードには私がまだ見ていない彼の魅力がこれでもかと詰め込まれていた。
類まれな戦闘技術やセンス、仲間を守るために見せる感嘆を覚えそうになる決断力、そして時折見せる、噓偽りの無い優しさ。
今も一緒に旅をしている彼そのものだった。
「本当に素敵な人なんだよなぁ……」
私は寝返りを打ち、リュウトが私の隣で武器を振るう姿を思い浮かべた。
彼はいつだって自分の功績を誇ろうとせず、「当然のことをしたまでだ」と、安心させてくれる声で笑うのだ。
けれど今は分かる。その当然の積み重ねがどれほどの信頼を築き、どれほどの人を救ってきたのかを。
シーナさんやアンリたちが彼を語る時の熱量は一人の男として、彼女たちの心に深く刻まれている証拠だった。
知らない過去があるなら、これからもっと新しい思い出を積み重ねていけばいい。
「やっぱり、私って……」
リュウトは女としての私のことをどう思っていてくれるかな?
そんなことを考えながら、私は心地よい疲労感とともに温かな眠りの中へと落ちていった。
◇———
「ふぅう……」
シャワーを浴び終えたばかりのわたくしは実家の自室、久方ぶりに拝む天蓋付きのベッドに身を預けていました。
熱を帯びた吐息がしんと静まり返った夜の空気に溶けていく。
薄衣一枚を纏った肌に窓から差し込む美しい月光がひんやりと触れます。
窓外に浮かぶ満月を眺めていると、先ほどまでの宴席の喧騒が遠い異国の出来事のように思い出されました。
今夜の主役の一人であったはずのリュウトさんは今頃どうしているかしら……わたくしは会場で出会った彼の同僚であるシーナさんとアンリさんの言葉を反芻していました。
「本当に……。あの方は多くの方に慕われているのですね」
勇者パーティの一員としてリュウトさんがわたくしたちの前に現れるまで、わたくしは彼のことをほとんど存じ上げておりませんでした。
一介の冒険者から遊軍調査部隊に転身した腕のいいレンジャー程度の認識だったのです。
けれど、彼と共に旅を続ける中で知ったのは資料には書かれていない彼の人となりでした。
そして今夜、シーナさんたちが語ってくれたのはわたくしの知らない「遊軍調査部隊の一人のリュウトさんの勇姿でした。
類まれな実力と才覚、鋭い機転とセンスだけでなく、過酷な任務の中であっても仲間に向けられる細やかな気遣い。
先輩からは一目置かれ、後輩からは兄のように頼られる、彼女たちの瞳に宿っていた熱い信頼の色が何よりもその価値を物語っていました。
「……実際、わたくしたちもリュウトさんにどれほど救われてきたことか」
深い森での野営で冷え込む夜に彼が用意してくれる焚き火の温もりや体力を温存するために計算し尽くされたルート取り。
それらは派手な魔法や剣技のような輝きこそありませんが、血の通った優しさそのものでした。
聖女であり、わたくしの実の姉でもあるセアラお姉様からも彼の噂は聞いていました。
律儀でまっすぐな男性だと言われました。
旅を通してその言葉が確信に変わり、そして今回の一件でわたくしの中では揺るぎない真実へと昇華されたのです。
思い返せば、魔王軍の幹部シェリーとの戦い。
あの危険な戦いの中でわたくしの窮地を救ってくれたのは他でもない、彼でした。
「う、ぅ……」
不意に胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われ、わたくしは思わず自身の胸元を抱きしめました。
ここ最近、リュウトさんのことを考えようとするだけで鼓動がうるさいほどに跳ね、頭の中が彼一色に染まってしまいそうになるのです。
わたくしは聖女。安易に異性に現を抜かす行為は決して好ましいものではありません。
戒律、世間からの評価、家名がわたくしに自制を促します。
……けれど、どうしてでしょう。
リュウトさんにだったら……。あの方になら、仮に超えてはいけない禁忌の一線を越えてしまっても……。
そこまで考えて、わたくしは激しく首を振りました。
熱を帯びた頬を両手で押さえますが、指先から伝わる体温がかえって妄想を加速させるようです。
あの方が向ける、穏やかで少しだけ不器用な微笑み。
もし、あの視線がわたくし一人だけに向けられたなら……。
「いえ……。今は、この想いは胸の内に秘めておきましょう。告白するのは魔王軍との戦いが終わってからでも、遅くはないでしょう……」
そんな独り言を呟き、わたくしは気持ちを切り替えます。
すぐ近い日にまた、勇者パーティの聖女として、毅然とした姿で皆様の前に立たなければなりません。
けれど、今夜だけは……神様もお許しくださるでしょうか。
リュウトさんのことばかり思うことを……。
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