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仲裁屋の小吉  作者: 生クリーム
5/8

水中の声

「とにかく上げろ!上に、こう、ぐいって!!」







「そんなもん最初からやってるわ!!」






「本気出せよ!!本気出せば絶対出来る!!」







誠三のあまりにも必死な姿に僕はただ声をかけることしか出来ない。それも訳の分からないことばかり。いつのまにか誠三から少し距離を取った場所で、水に浮かぶ自分がいた。






「何言ってんだよ!!そんな馬鹿げたこと言ってる暇あったら兄ちゃんも手伝ってくれよ!!」






「え!?…………お、おう」





怒鳴られたこともあり、少し尻ごむ僕。いまいちどうしていいのかが分からず、とりあえず力付くで誠三もろとも引っ張ってやろうと、おそるおそる誠三に近づき、誠三の腕を掴むが、すぐにそれを誠三に振り払われる。







「上からじゃ駄目だ!!下から押してくれよ!!」






「し、下?」






「この人を下から押し上げるんだよ!!とりあえず少しでも顔を出してもらわないと、このままじゃ沈んじまう!!!」






「う、うん!!分かった!!」






誠三の決死の叫びと表情に圧倒された僕は、誠三の指示するがままに水の中へと潜った。





もう一度、誠三が必死に掴んでいる「人」を確認する。男だ。意識を失っているのだろう。目は閉じている。動く気配がない。年齢的に見ても若い。体つきもしっかりしている。これは重いはずだ。中学一年生が持ち上げられるものじゃない。しかしなんでこんな男が溺れているんだ?





とりあえず息が続くかぎり。僕は男の服を掴んでとりあえず上に、上に、結果は伴わなくても意識だけは上に、噴水のように打ち上げる気持ちで男を引っ張る。







しかし中々、そう簡単に持ち上げられるものでもない。何せ水の中。力が思うように入らない。





…………水の中じゃなければ………クッソ…………

力が思うように入らない………息も…………続かない………もう駄目だ……………諦めるしか……………



心の声が徐々に弱気になっていく。





……………でも…………誠三は僕が来る前からずっとこの男を引っ張り続けているんだ。明らかに自分よりも重いものを、助けたいという一心だけで。







………ここで僕が上がってしまえばどうなる?人一人を見捨てることになるのか?……………見捨てる?…………いや、これはしょうがなかったんだ。どうしても持ち上がらないんだもの…………だから誠三、まずお前が手を離せ。そうすればお兄ちゃんも安心して諦められる。だからほら、誠三、早く手を離すんだ…………早く…………







「さすがだな」







「誰だ?」








「安定してネガティブ感を発揮してくれているじゃないか」







「………?」








「まだ助けられると諦めない弟と、もう駄目だとすぐに諦めた兄」








「それは……………だってどうしても………」





どこからともなく聴こえてくる声に、とりあえず返してみる。








「どうしてもなんだ?持ち上がらないか?だから諦めようってか?最初は水遊びをしているだけだと馬鹿にしていた弟が、蓋を開けてみると生死を賭けた人助けをしていて、慌ててやって来ては見たけれど、何をしたらいいか分からず、さっきまで馬鹿にしていた奴に指示を仰ぐ始末。それに加え指示通りに動いてみたものの、数秒で諦め、終いには弟が先に手を離せだと?そうすれば安心して手を離せるだと?最後の最後までお前は自分を出さないつもりなんだな」







「……………………」









「………………いつもそうじゃないか、お前はいつもそうだ。常に周りの目を気にして、とにかく嫌われないように、煙たがられないように、それしか考えていない。友達を作ったって深い関係になればなるほどに、喧嘩をする可能性だって増える。どうしよう。今まであんなに仲が良かったのに、あれだけ沢山遊んだのに、僕があんなことをしなければ、僕があんなことを言わなければ………嫌だ………一人になるのなんか嫌だ………… 皆が離れていく………皆が僕を無視し始める…………違うんだ………待ってくれみんな…………違うんだ…………そうなるのを恐れているんだ」







「…………………………」








「だったら……………そうなるくらいだったら…………僕は始めから一人でいい。話しかけたいけど、みんなでワイワイおしゃべりしたいけど、くだらないことで大笑いしたいけど、僕は一人でいい。ムカつくけど、一発ドカンと言ってやりたいけど、言ってしまえば嫌われる。だったら自分の中で我慢しよう。それがお前だ。にもかかわらず、一丁前に馬鹿みたいな夢を掲げやがって、都会に行って自分の居場所を見つけるだあ?こんなちっぽけな村で自分の居場所一つ見つけられないようなごみくず野郎なんか、都会の人の多さにびびってごみくずがチリくずになるだけだよ」







「……………何なんだよお前…………」









「お前の行きつく先を教えてやるよ。お前の行きつく先はなあ、馬鹿な夢だけを抱え無計画で都会に出ていき、案の定、都会の人の多さにびびってすべてを失い早々に逃げ帰ってはみたものの、立派に働いているかつての同級生や、後輩の姿を目の当たりにし、自分のクズさを改めて思い知らされると、すべてがどうでもよくなり、どうせなら有名になって死んでやろうと、「こんにちはプータローです」と印刷されたTシャツを着て村中を歩き回り、大美村の恥という立派なレッテルを貼られたまま、誰からも惜しまれずに死んでいく。それがお前の行きつく先だよ」







「…………………何だと?」









何なんだよ……








「遠からずじゃないか?怖いんだろ?そりゃそうだよなー、こんなちっぽけな人間関係の輪の中にさえ入れない自分が果たして何かを成し遂げることが出来るのだろうか?」







「…………………うるせぇ…………」








「羨ましいよなー、誠三は人間関係の輪の中心にいて、それでもって女の子にモテモテで、正義感もあって、お前が欲しいものすべてを持ってるんだよ」







「………………うるせぇって言ってんだろ………」








「本当に来るのかなあ?僕も誠三のように、周りからちやほやされる日が。もしかしたらこのまま、何年も、何十年もこの関係のままなんじゃないか?誠三が光で僕はずっと闇の中にいるんじゃないか?」







「………………うるさい」









「しょうもない持論だけを頼りに生きている僕はもしかしたら馬鹿なんじゃないか?」








「………………僕を馬鹿にするな」









「言ってやれよ、誠三に。言ってやれよ母ちゃんに、父ちゃんに。宣言してやればいいじゃないか。僕は都会に行きますって。こんなクソ田舎から抜け出して、この村の皆を、僕を蔑んだ目で見ていた皆を僕を下に見ていた皆を、僕の事なんか目もくれなかった皆を見返してやりますって」







「黙れ!僕を馬鹿にしていいのは僕だけだ!お前に僕の何が分かる!!」








「そうだよな。馬鹿にされるもんな?そんなこと言ったら。笑われるもんな?馬鹿じゃねえのって。

お前の描いているその未来。自分の中では新たな一歩と位置づけているだろうが、周りからはそんな風には見えないんだよ」









「それ以上言うな。本気で怒るぞ」







「自分でも分かってんだろ?…………」






「言っていいことと、悪いことがある」






「怖いから………」






「止めろ………」







「ここには居場所がないから………」







「止めてくれ!」







「ここにいても、自分で自分を傷つけることしか出来ないから」







「もういい」







「だったら…………」







「止めろ」






「だったら僕は……………」









「喋るな」










「ここから………」










「うるさい!!」












「逃げるしかない!!!」













「うるせええええええええ!!!!!!!!!!」









次の瞬間僕は、力いっぱい握りしめた拳を、目の前の男の腹に、思いっきりぶち当てていた。





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