溺れている!!
ここまで長々と説明してきたが、要は何が言いたいかというと、溜まりに溜まったものが、ほんの些細な出来事で爆発してしまったんだということが分かってほしくて、別に誠三が僕のジュースを飲んだことだけに怒りを覚えたんじゃないんだということを僕は一生懸命説明しているつもりなのに………コイツは…………
「兄ちゃんは入んないのーー?」
誠三が何かを叫んでいるが、滝の音が大きすぎて何も聞こえない。
しかし誠三の野郎。何を楽しそうに滝に打たれてやがるんだ。どうせ無駄だよ。仲直りなんか出来やしない。第一仲直りってなんだ?お互いがごめんなさいをすればそれでいいのか?どれだけ互いに遺恨が残っていようとその言葉を言いさえすればそれでよしとするのか?それじゃあ何も抜本的な解決にはなっていないじゃないか。頭を冷やせって言ったって何をどう冷やすんだよ。氷でも乗っけて置けばいいのか?そんなもん頭頂部だけが異様に冷たいっていう違和感で更にイライラが溜まるわ。
洗い流すったってこんな滝に打たれたくらいで僕の苛立ちはそう簡単に流れないぞ。それに正直に言えばジュース論争の後に起こる家の中をめっちゃくちゃにした誠三との大喧嘩でちょっと色んなところを切っちゃってんだよ。誠三はあのようにピンピンしてるからおそらく何も怪我して無いんだろうけど、僕は嫌な感じに切っちゃってるから多分これ染みるんだよ。それにプラスして滝に打たれる傷みとなればもう耐えられないかもしれない。
でもそんなこと誠三に言おうものなら、無駄な心配をさせるかもしれない。無駄な心配というのは別に有難い意味じゃなくて、強いものが、弱いものを倒した後にする、「あれ?これちょっとやり過ぎちゃったのかな」っていう本当に勝敗とはまったく関係のない勝者のちょっとした後悔をする部分のことだ。申し訳なさそうに、それでも君だってよくやったよと言わんばかりに求めてくる握手ほど悲しいものはない。そこには必ず「でも勝ったのは俺だけどな」が隠れているに違いない。むしろ隠しきれていないほどな。そんな目を弟にされるくらいなら、打ち明けないほうがましだ。
そんな僕の思いなど露知れず、誠三は更に声を荒げる。正確に言えば荒げているようだ。誠三の声が先程よりもなんとか、滝の音を掻い潜ろうとしているのが伝わってくる。
……何をそんなに叫んでいるんだ………
…どれだけ僕を呼ぼうと行かないと決めたのだから行かないんだ。
…………手を振ったって無駄だ……うん………こっちは楽しいよじゃないんだよ水面の方指差して………
突然誠三が水の中に潜った。
………実際に泳いでみせたって無駄だよ………ったく……なんで僕がそれでやっぱり行こうかなってなると思ったんだよ………これだから子供は………
中々誠三が上がって来ない。もうすでに水面は静まっているぞ。
…………いつまで潜ってるんだ、早く顔を上げろよ………誠三…………誠三…………?
次の瞬間、静まった水面が一気に暴れまわる。そして決死の表情で何とか水面から顔を出そうとする誠三の姿。
「誠三!!!」
そう叫ぶや否や、僕は水の中に飛び込んで行った。
染みるなんて言ってられない。緊急事態だ。誠三が溺れるなんて。この場所はもうすでに何百という数訪れているがこんなことは初めてだ。
「誠三!!!どうした!!!」
猛スピードで誠三に駆け寄る僕。
「………兄ちゃん………ガハッ……………助け……て…………」
誠三が今にも沈みそうだ。僕はとりあえず誠三の腕を掴む。
急いで引っ張っていこうとするが中々動かない、あれ?
「馬鹿野郎!なんで抵抗するんだ!死にたいのか!」
「違う!!違うんだ!下を見て!下!」
「…………下?」
僕は顔を水の中に突っ込む。誠三の手の先にあるもの、それは人だった。




