喧嘩の理由 その2
「よし!じゃあ父ちゃんは行くから!…………うん………じゃあな!」
特に言葉もないのか、父ちゃんはそれだけを言うと僕たちを家に残してまた仕事場に戻って行った。
今の状態の僕たちを、いや、この僕をコイツと二人きりにさせるということが、どれだけ危険なのかということを、父ちゃんは気づいたほうがよかったのかもしれない。今の僕は最早、自分でも何に発奮するのか、まったく予想だにしない状態だからだ。この時の僕は、自分で自分を押さえることなど、到底出来るような冷静さを持ち合わせていなかった。
誠三のすること一つ一つに、腹が立つ。
「兄ちゃん、ほら、鍵!鍵!」
チッ…………分かってるよ、うっせーな…………急かすなよ
ガチャ。
「はいどーも」
「あっ」
あの野郎………先に家に入りやがって…………開けたの俺だぞ?お前の為にドアを開いた訳じゃないんだよ……ったく……
靴もぐちゃぐちゃに脱ぎ捨てやがって。靴一つちゃんと置けない奴のどこがいいんだよチクショー。
一足先にリビングに行った誠三。遅れて行ってみると誠三の右手にはジュースが。
「あっ!誠三そのジュース俺のだぞ!」
「嘘!?違うよ俺これ買ってきてもらったもん母ちゃんに」
「違うよ俺だって買ってきてもらったんだよ………ほら」
冷蔵庫からもうすでに半分以上無くなっているまったく同じ銘柄のジュースを取り出す。
「あっ本当だ。なんだ兄ちゃんも買ってたんだ。俺それ知らないから」
「知らないじゃないよっていうか知らなかったにしたって自分が半分以上飲んだのにまた満タンのやつがあったらあれって思うだろ?」
「あー、ゴメンゴメン。俺記憶力悪いから。ほら、喉渇いてたしさ」
そう言い捨てると、自分の部屋に行く為、リビングから出ようとする誠三。
「…………喉渇いてたしじゃねえーよ」
その後ろ姿を見ながら僕は寂しげにそう呟く。
「あっ!そう、そう」
誠三が振り返って僕に話しかけてくる。
「今度から名前書いといて、ほら、分からなくなるから」
僕の返事など待たず、誠三はそれだけをいうとリビングから出ていく。
一人取り残された僕。
なんで僕が書かなきゃいけないんだよ。お前が書けや。
誠三が勝手に飲んだジュースを仕方なく手に取り、棚から出した自分のコップに注ぐ。
一口飲んであとは全部捨てた。不味かった訳じゃないが、飲む気分にはなれなかった。
そのままコップごと冷蔵庫に入れて冷やして置けばよかったと後から後悔する。
大きなため息と共にソファに飛び込むように座る。
何もかもあいつの思いのままじゃないか。僕はこれだけ我慢しているのに。
………あの野郎………好き勝手やりやがって………
…………そうだよな…………これじゃあ、あまりにも理不尽過ぎる。
………少しくらい………よし。
僕はいい案を思いついた。結果的にはこれがこの後に起きる大喧嘩の引き金となるのだが。




