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ドッペルゲンガーは死んでいる  作者: アオトユリ
第一章「高橋颯太」
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第八話「手がかりを求めて」

 昼ご飯を食べ終えると、一人一人が好きなようにダラダラと過ごし始めた。特に言ノ葉に関しては、一人でソファーとテレビを占領し、自分の家のように怠けている。おい。

 さすがにどうするか考えたい。

 俺は一度、大きく息を吸うと、口を開いた。

 「お前ら!」

 俺が呼びかけると、言ノ葉は大きくあくびをしながら、「なんですか〜眠いんですけど…」と言わんばかりの怪訝な顔をしてこちらを睨んできた。一方颯太の方は…

 「…」

 完全に寝ていた。

 霊に寝るとかいう概念あんのか…

 「おい、颯太、起きろ」

 俺は床で横になっている颯太を揺らす。

 「ん、あ、あ?」

 「起きたか?」

 目を覚ましたのか、颯太はあくびを一つして、体をゆっくりと起こした。

 「なんだぁ?坂口」

 「なんだってな…これからお前の妹を探すために色々聞くんだよ」

 「ああ、なるほど」

 ほんとに分かってるのか…?

 颯太の微妙な返事に少しの不安を感じながらも、俺は質問を始めた。

 「まずお前の妹はどんな容姿なんだ?それが分からないと何も始まらないだろ」

 「それがわからないから困ってんだよ…」

 「分からないって…お前、妹の顔が分からないのか?」  

 俺は予想外の颯太の答えに少し驚きが隠せなかった。

 「妹と最後に会ったのは生きてた頃、つまり5年ほど前だ。覚えてるわけがないだろ。第一、5年も経てば、俺が知ってる妹とはまったく違う姿になってる可能性だってある」

 颯太の言葉を聞き、俺ははっとした。

 たしかに言われてみればそうだ。5年も経てばどれだけ大切な人であっても、薄っすらと覚えてるか覚えてないか…その程度の記憶しか残らない…ましてや相手は子供。成長が早すぎて誰か分からない。なんてことも考えられる。

 「…だとすれば…やっぱり聞き続けるしかないのか…」

 ん…?…いや、まてよ…まずなんで颯太はこの5年間妹に会おうとしなかった…?普通そんなに気になるなら会いに行くものだろう…

 「なあ、思ったんだが、なんでお前はこれまで妹に会おうとしなかったんだ?」

 颯太の顔が不意に曇る。

 しまった…聞かないほうがよかったか…

 「颯太、すまん、今の質問は忘れてくーー」

ーー「怖かったんだ…たしかに俺はドナー登録してて、俺の心臓はドナーとして役にたっただろ…でも、それが妹に渡ったのかは分からなかった…だって、俺はあいつのーー」

 話そうとした矢先、急に颯太の口は止まった。

 「…すまん、忘れてくれ」

 颯太は申し訳なさそうに謝る。

 「…いや、いいんだ…俺こそ、変なこと聞いて悪かった…」

 重く、気まずい空気が流れた。それはまるで、颯太の今までの苦しみを具現化したような、それほどの重い空気。

 「坂口、もっと後に話すつもりだったけど…もう話すよ。言ノ葉は寝ちまってるしな…」

 そう言われて気づいた。たしかに今、言ノ葉は寝ていた。

 それでも、俺に話してもいいのか…?

 「なぁ、別に今じゃーー」


ーー「俺が、俺が高校2年の頃だった…」

 

 しかし、この空気の中、颯太は震える、不安げな声で話を始めた。

 「颯太、無理はしなくても、」

 「…いや、話させてくれ…その方がきっと…俺のためになる…」

 颯太の声はたしかに震えている。しかしその声は力強く、決意を固めた。そんな声だった。

 「…分かった、お前の話、聞かせてくれ」




ーー桜が舞っていた。舞っている花びら1枚1枚が美しく、そしてどこか儚い。それを見るだけで俺はこの学校を選んで良かった。そう思えた。

 高校一年の初登校にして入学式。この日ばかりは、桜の木がこの学校の中心となり、学校を鮮やかに染める。それはまるで、俺達新1年生を祝っているような、そんな気分にさせるーーそれほどの美しさだった。


ーー「桜、綺麗ですね」


 隣から透き通った声が聞こえた。

 隣を向くとその瞬間ーー俺は、目が釘付けになった。

 そこにいたのは、一人の女生徒。

 長くさらりとした黒髪が春風に揺らされ、凛とした横顔はまるで絵画のように整っている。そして何よりも、学校全体を彩るほどのあの桜でさえも背景になるほどに彼女は美しい。

ーー胸の鼓動が速まった。

 それは俺にとって、初めての体験。そう、"一目惚れ"の瞬間だった。


ーーこれが彼女との出会いであり、そしてまた、"彼女"の妹ーー神崎深冬と出会うこととなる始まりでもあった。


ーー「同じクラスでしたね」

 そう話しかけてきたのは、さっきの女生徒だった。

 「ああ、さっきの」

 「あ、えっと、名前言ってませんでしたね、すみません。神崎千夏です。よろしくお願いします」

 少し慌てた様子神崎は答えた。

 「高橋颯太。こちらこそ、よろしく」

 それから、俺と神崎はたまに話すようになった。それで分かったのだが、神崎は中学時代、その優等生ぶりが気に入られなかったのか、あまりクラスの輪にはいれたいないことが分かった。

 もっと、俺みたいに違う中学から来てるのがザラザラいる高校ではあまり関係ないことだ。特にこの学校は頭の良し悪しが大きい高校としても知られる微妙な偏差値の高校。特に何か思われることもないだろう。それどころか、めちゃくちゃ人気になる予感しかしねぇ…

 

 高校生活が始まって少し経った頃、俺の予報通り、神崎はすぐに一年生の中心人物となった。それは俺みたいな凡人には届かないんだと思い知らされるほどの勢いで、俺が彼女と話せることなんて、あのとき限りでもう二度とないんじゃないか。そう思い始めるほどだった。しかし、そんな俺の考えとは裏腹に神崎は毎日話しかけてくれた。どうやら、俺の誰にでも対等に立つ態度に一番目の"友達"という肩書きも相まって、神崎は俺を気に入ってくれたらしい。

 これでも一応、惚れてはいるんだけどな…

 そう思いながらも、その心を隠し神崎との他愛のない会話をただ楽しんだ。

 

 「千夏ちゃん、今日良かったら遊ばない?」

 「あ、あのすみません。今日も用事があって…」

 申し訳なさそうに誘いを断る神崎。でもこれは今日に始まったことではなかった。

 

 神崎は少し変わっている。勉強も運動も出来て、性格も良く、誰にでも優しい。なので勿論友達も沢山いる。男に関しては、惚れない奴なんて誰もいないだろう。しかしそれなのに、放課後は部活もやらず、友達と遊ばない。帰りのホームルームが終わると、すぐにいなくなっているのだ。

 俺は少し、そのことが引っかかっていた。

 別に、ただ早く帰りたいだけかもしれないし、何か他の用事があるのかもしれない。

 それでもなんとなく、せっかくの学校生活なのに勿体ないのではないかと、考えてしまっていた。

 

 ある日の放課後、俺は母さんの付き添いとして、病院に来ていた。

 「母さん、大丈夫だったか?」

 診察が終わり、戻ってきた母さんに声をかける。

 「うん、お医者さんからはこの調子なら薬を飲むだけでいいって」

 どうやら特に悪化していたりという様子はなく、このままいけば治るとのことだ。

 「そうか、なら良かったよ」

 待合室で、薬を貰うまでの時間、ぼぉーとカウンターのところを眺める。

 病院の静かな雰囲気はどうもなれない。俺は静かな雰囲気が嫌いだ。何か置いて行かれているような、一人にされたような、そんな気持ちになるから、、、

 「神崎深冬の見舞いに来たのですが…」

 そう言ってカウンターの看護師さんに話しかけていたのはーー神崎千夏だった。

 な、なんでここに…

 俺は即座に下を向いた。

 やばい…今会うと、平気でいられない…

 顔が…ニヤける、

 くそ…なんでこのタイミングでいるんだよ…頼む…バレないでくれ…!

 下を向き、床をひたすらに見続ける。

 しかしそんなことをしたところで意味もなく…

 「高橋くんじゃないですか」

 「お、おう、神崎、こんなところで、奇遇だな」

 「ほんと、奇遇ですね。それにしても、何かあったんですか?病院になんて…」

 「ああ、いや、少し母親の付き添いに」

 そう言うと、割り込むように母さんが話に入ってきた。

 「こんにちは、高橋の母です。えっと、颯太のお友達、かしら。颯太と仲良くしてくれてありがとうね。ちなみに、颯太とはどんな関係なのかしら?ふふ」

 こ、こいつ…

 「あ、えっと、高橋くんとは友達で…」

 戸惑いながら母さんと話す神崎を俺はじっと見つめる。

 早く話終わってくれ…恥ずかしすぎて心がもたん…

 そういえば、深冬…さん?の見舞いとか言ってたな…誰なのだろうか。

 「そういえば、神崎はどうしたんだ?」

 「えっと、私は妹の見舞いに」

 「妹…妹さん、大丈夫なのか?」

 「ええ、今はだいぶ落ち着いてて、」

 落ち着いてて、ってことは…ずっと入院してんのか…あまり聞かないほうがよかったな…

 「そうか、なら良かったよ」

 神崎は何かを考えているのか、少し黙り込んだ。

 「…あの、高橋くん、良かったらなんですが、高橋くんを妹に紹介してもいいですか?」

 「え?」

 「あ、いえ、嫌なら別にいいんです」

 「別に、嫌じゃないけど…紹介するのが俺なんかでいいのか?もっと良い友達がいるんじゃないか?」

 「またそんなこと!だから私は高橋くんのことをちゃんと友達だと思ってるんです!だから妹にもちゃんと紹介したいんです。私、中学では本当の友達とか結構少なかったので…」

 そう言った神崎の顔は、嘘を言っているようには見えない、本気の顔だった。

 でも、"友達"か…

 俺は恋愛対象として見られていないことに少しのショックを受けた。

 まあでも、"友達"って肩書きがついてるだけまだ幸せだよな。よし、ポジティブにいこう!まだこれからだ高橋颯太!

 「…分かった。妹さん、俺に紹介させてくれ。」

 俺が了承した瞬間、神崎の顔は一気に明るくなった。

 「ありがとうございます!じゃあ、早速なのですが、妹のところに行きましょう」

 「ああ、分かった。その前にちょっとだけ待ってくれ」

 聞いてるとは思うけど、母さんに一応言っとかなきゃな。

 「母さん、先帰っててくれ」

 「うん、分かった。遅くなるなら連絡してね」

 「ああ、分かってる」

 母さんにそう一言伝えると、俺は神崎の後を追った。

 

 神崎とたまたま出会っただけ、しかしその出会いは俺の人生を大きく変える、俺と深冬が初めて出会うーーその日のことだった。

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