第十二話「変わるのは一瞬、ただそれを知った」
ーー「誕生日、おめでとう!」
千夏がそう言ったのと同時に、俺は後ろに隠していた誕生日プレゼントを差し出した。
「俺と千夏、二人からだ」
「ありがとうございます、まさかほんとに祝ってくれるとは思いませんでしたが…」
深冬は少しニヤけた顔で呟く。
顔でバレバレじゃねぇか…
「また、皮肉を…まあ、ツンデレだからしょうがないよな」
「ツ、ツンデレじゃないですよ!」
そういうところがツンデレなんだよ。
深冬は咳払いをすると、「そんなことはどうでもいいんです」と話を切り替えるようにして、包装に包まれた誕生日プレゼントを開けた。
「ブルーレイ…ですか」
ニヤけを抑えることを諦めたのか、深冬は満面の笑みを見せた。
「嬉しそうだな、深冬」
「…はい、とても」
「随分と素直だな」
ツンデレも嬉しすぎると素直になるらしい。
「まぁ…はい」
恥ずかしそうに深冬は頷いた。
そして、少しブルーレイの中身を見ると、早く見たくなったのか、テレビに目を向けた。
「見るか?」
「…いいんですか?」
「ああ」
「…ありがとうございます」
「つけるから待ってろ」
「はい」
俺はベッド横のテレビにブルーレイを入れて、チャンネルを切り替えた。
そして、転女は始まった。
気付けば、興奮を抑えきれないのか、深冬はテレビに釘付けになっている。
そんなに喜んでくれたなら、ほんと選んで良かったわ…
俺は千夏の近くに寄って小声で囁く。
「よかったな。ブルーレイで」
「そうですね。ほんとによかったです」
「こう見ると深冬も可愛いな」
「…それはどういう」
「も、もちろん妹的意味だ」
ここで嫉妬って発動するものなのか…ほんと女の子って難しい!
「そうですか…ならいいです」
ふと深冬を見ると、小声で話す俺達に何か思ったのか、こちらをジッと見つめていた。
「深冬、どうした?」
テレビを見ると、一時停止されている。そこまでして何か疑問に思うことがあるのか?
「なんか距離近くないですか」
瞬間、俺と深冬の体がビクついた。
即座に距離を取る。
「そんなことないぞ」
「はい、まったく、何言ってるんですか深冬」
なるほどという顔をして深冬は呟いた。
「イチャコラするなら家でやったらどうですか?」
「んな、おま!お、」
「めっちゃ分かりやすいですよ。二人。てか最初から雰囲気的に分かりやすかったですし」
そんなに分かりやすいか…?あ、そういえば受付のおばさんもニヤニヤしてた気が…え、嘘…
「千夏、俺達は分かりやすいらしい」
「そうみたい…ですね」
なんか気まずいんだけど…ねえ…
「ま、まあとりあえず気まずいのはよそう!せっかく誕生日なんだから、な?深冬」
「まあ、そうですね」
それから、気付けばいつもの雰囲気に戻っていて、結局、なんだかんだテレビを見たり、喋ったりして、楽しく終わった。
「じゃあな、深冬」
「はい、また明日ーーお兄さん」
俺は振り返った。
え、今深冬なんて言った?お兄さんって、え、え!?
「おま、今、おにい…」
「う、うるさいです!!もう言いません!!早く忘れてください!!」
深冬は顔を真っ赤にして叫んでいた。
それはどこか楽しそうで、今日は本当に来て良かったーーただ、そう思った。
ーー目覚ましの音ともに、今日も目を覚ます。
窓から俺を照らす温かい朝日は、冬の寒い空気を消し去るような気持ちよさで、俺はすんなりと布団から出ることが出来た。
そして、目覚まし用に横に置いているスマホを開く。
「千夏からなんかきてるし、」
朝早くからそんなに俺と会話したいのか、まったく!
俺はラインを開く。
ーー深冬の病状が夜中、急に悪化しました。颯太さんには悪いのですが、しばらくは会えないです。本当にすみません。
「…は?」
いや、まてよ。病状が悪化って、どれくらいだ。大丈夫なのか、深冬は…
「とりあえず、電話を…」
俺はすぐに着信ボタンを押した。
「千夏、どういうことなんだ。大丈夫なのか、深冬は」
「…落ち着いて聞いてください。深冬は今、とても危険な状態なんです…ドナーが必要かもとも言われていて…実は最近思ってたんです。ふとしたときになんか顔が暗いなって…まあ、ほんとに少しなので気にすることはないと思ってたんですけど…やっぱりで…」
そんな…俺はそれを気付けなかったってことかよ…一年も一緒にいて…その変化を俺は気付けなかった…ってことか…?
「じゃあ俺は無理させてたのか…昨日も、一昨日も、その前も…」
「い、いえ、颯太さんを責めたかったわけじゃないんです!これは仕方ないことで…」
ーー「すまん。自分からかけといてなんなんだが…もう、話せそうにない…ほんと、すまん」
俺がそう言うと、千夏は「そうですか…」と一言言って、電話を切った。
千夏に悪いことをしてしまった。それは分かっていた。でも今は、それよりも深冬のことで頭がいっぱいになっていた。
体温の籠もった顔が一気に冷えきったのが分かった。手足が震えている…
俺…最低なことしてたのか…深冬に…なんで…なんで…気付けなかった…
「なんで…」
ーー気付けば、チャリを跨いでいた。
行かなきゃ…深冬のところに…すぐに…
ただ感情に任せ、チャリを漕ぐ。知っている道をただ進み続けて、近所を抜け、街中へ向かいチャリを走らす。何回も何回も漕ぎ続ける。
深冬の病気って、心臓だったよな…ドナーなんて見つかるわけないだろ…なんとかならないのか…なんとか…たまたまドナーが見つかったり…くそ…そんなことあるわけない…ならどうすれば…なんかないのかよ他に…とりあえず、せめてこの目で深冬を…深冬を見て、どうするんだ…?いや、でも…とにかくせめて…せめてそれだけでも…
走らせるうち、遠くに病院があるのが見えてきた。もう少しだ…もう少しで…深冬に会える…早く、早く…早く会いたい…少しでも、早く確認したい。深冬が生きてるのを…ちゃんと…生きてることを…!!
ーーあれ…?
でも…深冬は…俺が傷つけたから悪化したんじゃないか…だって…俺がもし、毎日あいつの元に行かなければ、もっと早まらなくてすんだんじゃないか…?俺がいなければ…仮に会ったとして…俺はどんな顔をされるんだ…まず…俺を…恨んでるんじゃないか…いつも俺に悪口を言ってたのは…ツンデレなんてもんじゃなく…ほんとに俺を、嫌ってたんじゃないか…だから…無理して話してたのは千夏の前だからで…俺のことなんて別に…
じゃあ…なんで俺はーー
ーー直後、体中に衝撃が走った。
瞬きをした瞬間、次には浮遊感が走る。目の前には空、そのまま落ちていくーーそれも、ありえないスピードで…
今…体が浮いて…俺…なんで…?
ーー瞬間、地面に叩きつけられる強い衝撃がきた。
ーー目の前が真っ暗になった。
あれ…俺…なんで…
気付けば、寝そべっていた。周りには、救急隊の人…
そうか…俺、事故に遭ったんだ…
ーー「目を覚ましました!」
誰かの喋る声が聞こえる。まあ、救急員の人か…
…どれくらい寝てたんだろうな、俺
てか…救急員って…これ、あれだ、救急車の中だ…。
なんとなく走ってる感覚あるもん…後、病室にしてはあきらか狭いし…
…ほんと…何してんだよ。
深冬のこと心配でチャリ漕いだのに、自分が死にかけとか…深冬が俺のことを嫌ってるとか…そんなわけないだろ…
だとしたら、一年も耐えられるわけないだろ…?馬鹿…馬鹿だよ…俺。
しばらくして、キーンという金属音のようなものが耳に響き始めた。そして、それ以外の音が何も聞こえなくなった。
なんだこれ…
てか…今さらだけど体の痛みとかまったく感じないじゃん…これ、死ぬやつだ…
死ぬってのに…何も怖くない…なんでなんだろうな…千夏とも付き合えて、深冬とも仲良くなって…人生万々歳だっただろ。なのに…なんでだろうな…
ーー思考が回らない
…そういえば俺…ドナー登録してたよな。
血縁ないし、深冬に届くとは限らない…でも、もし届くなら…お前に届いてーー




