第十一話「神崎千夏」
ーー「はい!!」
あの約束から2日。
ショッピングモールの入り口ーー俺は壁にもたれながら周りをチラチラと見回す。
やばい、リア充見るたび体が反応する…
まじで神崎来てほしいけど来てほしくない。何言ってんだ俺。
「…喉渇いた」
まだ来ないっぽいし、なんか買うか。
たしか自販機あったよな。トイレの近くに…
そういえばなんでトイレの近くなんだろうな…って何考えてんだよ…
「あーくそ…頭回らん」
ーーガシャンッ
自販機、160円のブラックコーヒーを手に取る。普段ならワンコインのいちごミルクを買うところだが…さすがに恥ずかしいのでやめておく。
「地味に初めてなんだよな、ブラック」
息を吹きかけ、気持ちだけ熱を冷ます。
正直こういうのって、実際は全然冷めてないんだよな。
そして、コーヒーを口に含んだ。
「にっ、にが…」
一瞬、目がビクついた。顔をしかめる。
ブラックってこんな苦いのか…
「ふふっ、見栄を張るからですよ」
後ろから笑いを堪えた、からかうような声がした。
「おい、なんでこのタイミングなんだよ」
俺はツッコミ交じりに呟きながら、ゆっくりと後ろに振り返った。
ーーその瞬間、自然と口が開いた。
そこにいたのは、学校とは違う、いつも以上に身なりの整えた神崎の姿だった。
長い茶髪を括り、一束にまとめたポニーテール。そして、白い大きめの服にもふもふとした上着。下はストッキングにより寒さをカバーすることで足を出した、女子高生定番のショートパンツ。
それはコーデに鈍感な俺でさえ気合を入れていることの分かる、そんなコーデだった。
「ほんと、このタイミングに来て良かったです!ふふっ」
口を抑えながら笑う神崎。
やばい…俺全然コーデとか気にしてねえ…
「だとしたらタイミング良すぎだ!」
俺はいつも通りツッコミ交じりな言葉で神崎に返す。
俺、いつも通り、いつも通り…とりあえず落ち着け…
「とりあえずいくぞ、神崎」
「そうですね」
さっきまでリア充が通っていたように、また俺も神崎と二人、リア充に紛れるようにして歩く。
これって周りからはやっぱり…
"デート"って思われてんのか?
うっ…まじで母さん、父さん、産んでくれてありがとう。俺今、青春してるよ。
「あの、高橋くん?」
「あ、ああ、すまん。考え事してた」
「深冬って何がいいんでしょうか…」
「俺も考えたんだが…中々な…」
さすがに本という訳にもいかんだろう…誕生日にラノベというのもな…
やっぱり女の子はアクセサリーか?最近だとシールとか…いや、深冬がシール好きな訳ないか…
「あの、一つ提案なのですが、本とかどうでしょうか」
おいおいお姉ちゃん大丈夫かそれ!?
「いやぁ〜本ならいつでも買ってやれるしな…」
「たしかに…」
「うーん…」
考えるだけ無駄な気がしてきた…
「とりあえず全体回るか」
「たしかにその方がいいかもですね」
俺達はとりあえず、2階から見ることにした。なんとなく二階からの方が定番に感じるんだよな。
二階へのエスカレーターを上がると、すぐに服屋が目に入った。
「…服屋か」
「少し覗いてみますか?」
「そうだな」
そう言ってから数十分。
ーー「これ、どうでしょうか?」
試着室から神崎が出てきた。
ピンク色のカーディガンを着た神崎が左右に体を揺らしながら、全体を確認している。
深冬のを選ぶはずだったのに…これじゃあ…本当にデートみたいなんですが…?
こういうときってどんな反応すればいいんだ…もう、あれか?直球で良いのか…?
「似合ってると思うぞ。すごく」
「そう、ですか?」
「ああ」
目が合わせられない。俺、今めちゃくちゃ恥ずかしいことしてる…ほんと、世の中のリア充はなんでこれが普通に出来るんだよ…
「あの…すみません。深冬の誕生日プレゼント買いに来たのに…私勝手に…」
「…別に良いんじゃないか?せっかく来たんだから、楽しんだって」
そうだ。せっかくだからな。これは別にデートじゃなく、友達として、ついでにだ。ついでに。そうに決まってる。
「…たしかに、せっかく、ですもんね!」
「ああ、だから、もっと気楽にいこうぜ」
神崎は試着を終えると、また服を見始めた。
「…俺も見てみるか」
何着も並ぶ服。正直どれも一緒に感じる。なんていうか、俺の服って無地ばっかだからな…まず女物とか着ないし…俺男だし…
「高橋くん!これ可愛くないですか!?」
「おお、たしかに可愛い」
結局、服屋では神崎が楽しんだだけで、特に買うこともなかった。
そして、それからも色々なところを回った。主にアクセサリー。他には…本屋くらいか。
ちなみに今はどこかと言われればーー本屋だ。
「…結局ここだな」
「そうですね…まあ、深冬ですし…」
アクセサリーとか見てて気づいたが、よくよく考えたら深冬はそんなのに全く興味がないのだ。神崎はもちろんのこと、俺だって深冬とはもう一年の付き合いだ。さすがに好きなものくらいは分かる。入院してるから単純にしていないだけとも考えたが、やっぱり深冬はそういうのは範囲外だろう。
「やっぱ本かぁ」
「あの、思ったんですけどブルーレイとかどうですか?」
ブルーレイ…そういえば深冬ってアニメもいける口だったな。転女もちょうど3期が終わったとこだし。
「ブルーレイ…たしかにいいかもな!」
ーー街中から電車に乗って数十分、近所の駅に下りる。
「今日はありがとうな」
「こちらこそ、誘いに乗ってくれてありがとうございました」
深冬の誕生日プレゼントは買えたし、無事ここまで帰ることも出来た。でも何か足りない…この気持ち…なんだ…
「なぁ、なんかあっさりと終わったな」
「そうですね。なんというか、ほんとにあっという間でした」
あっという間…か。
「なあ、神崎」
「なんですか?」
ーー「少し、話さないか?」
「それはどういう…」
「近くに公園があるだろう。そこで少し…時間大丈夫そうか?」
神崎はスマホを取り出し、時間を確認する。
「はい、大丈夫です!」
「じゃあ、行くか」
引き止めたものの、俺は何を話したいのか、まったく決まっていなかった。
本当は分かってる。今日、ここで、俺は覚悟を決めなければいけないことを。
そして今、その準備が整ったんだ。
なのに、何も考えられない…
公園までの夜道、俺と神崎は、特に何も話さないまま、ただ進み続けた。
「…着いたな」
「はい」
くそ…体が震えてる…緊張してるのか…なんで……さっきまでは普通に話せてたじゃないか…
「とりあえず、ベンチ座るか」
「…そうですね」
神崎が困ってる……
俺と神崎は、荷物を地面に置くと、少し距離を取りつつ、同じ椅子に座った。
公園は電灯が一つ、二つ程度で明かりが少ない。しかし、それはこのどこか静かな雰囲気を強調しているような、悪くない背景を生み出している。まさに"告白"には最適な雰囲気。夜の冷たい空気が体にまとわりつく。
寒い…でもなんでだろう…鼓動が止まらない…体の震えが止まらない。
緊張って、こんなにするもんなのか…
「なあ、俺達ってさ。もう長い付き合いになるよな。桜の木から始まって、それから深冬と出会って、毎日、毎日ーーほんと、色んなことがあった。でも、だけど、なあ、神崎…いや、ーー千夏」
俺はベンチから立ち上がり、千夏の目の前に立った。
真っすぐ、真っすぐ千夏を見ろ。
彼女の目を、見続けろ。
…ここで決めるんだ…じゃないと…後悔するから…だから…俺はーー
「俺は、君が、君のことが、好きだ!!大好きだ!!俺と…俺と付き合ってくれ!!」
俺は目を閉じ、勢いよく頭を下げた。
…怖い…前を向けない…目を開けられない…周りの音が聞こえない…。ただ聞こえるのは、胸の音とそしてーー彼女の息遣いだけ。
不安で頭がいっぱいになる…たった数秒…なのに…なんでこんなに遅いんだ…はやく返事をーー
ーーバッ!!
勢いよく、千夏が立ち上がった。
「…高橋くん、前を向いてください」
俺は、言葉を発することなく、ただ前を向いた。
「高橋くん…高橋颯太くん…私もーー」
ーー「ずっと…ずっとずっと前から、貴方のことがーー大、大、大好きでした!!」




