第八十九話 守るもの
三木城を包囲してから、さらに日が過ぎた。
織田軍は城を攻めていない。
城壁へ兵を寄せることもなければ、大規模な攻撃を仕掛けることもなかった。
ただ、兵糧だけは入れない。
城から出る者は通す。
民であれば、そのまま逃がす。
兵であっても、武器を捨てて戦う意思がないことを示せば通した。
最初のうちは、それを罠だと疑う者も多かった。
だが実際に城を出た者たちが殺されず、それどころか食べ物と水まで与えられていることが分かると、三木城から出る者は少しずつ増えていった。
それでも、別所長治は降伏しなかった。
三木城にはまだ兵がいる。
戦う力も残っている。
そして何より、別所家の者たちには毛利への期待があった。
西から援軍が来れば。
織田の包囲を破ることができれば。
まだ戦える。
その希望だけは残っていた。
しかし。
希望だけでは腹は満たせない。
◇◇◇
「殿、このままでは戦う前に負けます」
三木城の一室。
別所長治の前に集まった家臣の一人が、強い口調で言った。
「分かっている」
長治は短く答えた。
「ならば兵をお貸しください」
「何をする」
「道を取り戻します」
室内にいた者たちが男を見る。
若い武将だった。
籠城が始まった頃から、何度も出撃を主張している。
「林道景継は城を攻めてきません。それを恐れていると見るべきです」
「恐れている?」
「城攻めをすれば損害が出る。それが嫌だから、我らが飢えるのを待っているのでしょう」
別の家臣が口を挟んだ。
「それは向こうの狙いどおりではないのか」
「だからこそです」
若い武将が地図を指した。
「待っているだけでは、向こうの思うままです。ならば我らから出るしかない」
狙うのは、かつて兵糧が運ばれていた道だった。
織田軍によって押さえられている。
だが、すべての場所に同じ数の兵が置かれているわけではない。
偵察によれば、そのうち一か所は比較的守りが薄い。
そこを夜襲する。
突破できれば、わずかでも兵糧を入れることができる。
それ以上に重要なのは、織田軍の包囲が絶対ではないと城内の者たちへ示すことだった。
「兵を五百お貸しください」
長治はすぐには答えなかった。
成功する保証などない。
だが。
何もしなければ食料は減る。
人も減る。
戦わずして城が崩れていく。
長治は目を閉じた。
そして。
「三百だ」
若い武将が顔を上げる。
「それ以上は出せぬ」
「十分でございます」
男は頭を下げた。
「必ず道を開いてみせます」
◇◇◇
その夜。
景継は眠っていた。
突然、外が騒がしくなった。
「若様!」
弥兵衛の声だった。
景継は目を開ける。
「何です?」
「三木城から兵が出ました!」
景継はすぐに起き上がった。
「数は?」
「三百ほど! 西側へ向かっております!」
景継は一瞬考える。
西。
そこには織田軍が押さえている道の一つがある。
「どこを攻めています?」
「坂下の陣です!」
景継の表情が変わった。
坂下。
そこか。
完全に予想していたわけではなかった。
三木城から兵が出る可能性そのものは考えていた。
だが、景継は別の場所を狙う可能性の方が高いと見ていた。
坂下は守りが薄い。
しかし、その先に兵糧を集められる場所は少ない。
たとえ突破しても、大量の兵糧をすぐに確保できるわけではない。
だから優先順位を下げていた。
「若様?」
景継は地図を広げた。
「坂下には何人います?」
「百ほどです」
三倍。
しかも夜襲。
危険だった。
「援軍を出します」
「どれほど?」
「二百」
弥兵衛が頷き、すぐに動こうとする。
「待ってください」
弥兵衛が止まった。
景継は地図を見た。
敵はなぜ坂下を狙った。
兵糧そのものが目的ではないのかもしれない。
包囲を破れることを示したい。
あるいは、一度外へ出て別の場所から兵糧を運び込むつもりなのか。
今は分からない。
ならば。
分からないまま決めつけるべきではない。
「敵を追う必要はありません」
「追わない?」
「坂下を守ってください。ただし、三木城へ戻ろうとする敵は止めないでください」
弥兵衛が景継を見る。
「逃がすのですか?」
「はい」
「なぜ?」
景継は少し考えて答えた。
「今は、全員倒す必要がないからです」
「しかし……」
「まず坂下を守る。それで十分です。敵が何を狙っているのか分からない以上、深追いして別の場所を空ける方が危険です」
弥兵衛が頷く。
「承知しました、若様」
「私も行きます」
景継は刀を取った。
◇◇◇
坂下では、すでに戦いが始まっていた。
暗闇の中。
松明が揺れる。
槍と槍がぶつかる音。
人の叫び声。
足音。
三木城から出た兵たちは、最初の攻撃で織田方を押していた。
守る側は百。
攻める側は三百。
数の差は大きい。
「押せ!」
別所方の武将が叫ぶ。
「ここを抜けば道が開く!」
兵たちが前へ出る。
織田兵が少しずつ下がる。
その時。
横から別の声が響いた。
「前へ!」
援軍だった。
弥兵衛を先頭に、二百の兵が戦場へ入る。
数の差が消えた。
別所方の勢いが止まる。
景継も少し遅れて到着した。
戦場を見る。
思ったより激しい。
すでに双方に死傷者が出ている。
「若様!」
弥兵衛が景継を見つける。
「敵を押し返しております!」
「追わないでください!」
景継が叫んだ。
「三木城へ戻るなら、そのまま行かせます!」
周囲の兵が戸惑う。
だが命令は伝わった。
別所方も異変に気づき始める。
前へ出れば攻撃される。
横へ回ろうとしても阻まれる。
しかし。
後ろへ下がれば追ってこない。
「どういうことだ……」
別所方の武将が呟いた。
普通なら逃げる敵を追う。
背を向けた瞬間こそ、最も崩しやすい。
だが織田軍は追ってこない。
戦いたくないのか。
それとも。
自分たちを城へ戻そうとしているのか。
考えている時間はなかった。
このまま戦えば被害が増える。
「退け!」
ついに命令が出た。
別所方の兵が下がり始める。
織田兵は追わない。
本当に。
一人も追ってこなかった。
三木城へ戻る道だけが残されている。
兵たちはそこへ向かった。
敗走だった。
しかし。
追撃されない奇妙な敗走だった。
景継はその姿を見ていた。
秀吉が遅れて到着する。
「終わったのか?」
「はい」
秀吉が逃げていく敵を見る。
「追わぬのか?」
「追いません」
「今ならかなり討てるぞ」
「必要ありません」
秀吉が景継を見る。
「また何か考えておるな?」
「そこまで大したことではありませんよ」
景継は三木城を見る。
「戻った人たちは、今日のことを話すでしょう」
「今日のこと?」
「外へ出ても兵糧の道を取り戻せなかったことを」
秀吉の表情が変わった。
景継は続けた。
「私たちが使者を送るより、実際に戦った人間から聞いた方が信じるでしょう?」
城内にいる者たちは、まだ期待している。
外へ出れば包囲を破れる。
毛利が来れば助かる。
何か方法がある。
その希望を景継が言葉で否定しても意味はない。
敵の言葉など信じない。
だが。
自分たちの仲間が戻ってきて、
道は開かなかった。
織田の包囲は破れなかった。
そう話せば。
その言葉は城内へ広がる。
秀吉は三木城を見た。
「負けた兵を戻すことそのものが、攻めになるか」
「そうなればいいと思っています」
「ならなければ?」
景継は秀吉を見る。
「別の方法を考えます」
秀吉は少し笑った。
「そこは言い切らぬのだな」
「相手がどう受け取るかまでは決められませんから」
◇◇◇
翌日。
三木城では、昨夜の話が広がっていた。
坂下を破れなかった。
織田軍はすぐに援軍を送ってきた。
兵糧は手に入らなかった。
そして。
逃げる者を追ってこなかった。
最後の部分が、特に人々を不安にさせた。
なぜ追わなかったのか。
殺せたはずなのに。
なぜ戻した。
その理由について、様々な噂が流れた。
「わざと戻されたのだ」
「もう一度出てくるのを待っている」
「城の中の兵糧を減らすためだ」
「いや、こちらが何をしても無駄だと見せつけたいのだ」
どれが正しいのか。
誰にも分からない。
だが一つだけ確かなことがある。
道は開かなかった。
三木城は。
まだ囲まれている。
◇◇◇
数日後。
景継は城から出てきた者たちを見ていた。
以前より増えている。
その中に。
一人の老人がいた。
歩くことさえ難しいらしく、若い女に身体を支えられている。
その隣には、小さな子供。
痩せていた。
織田兵から渡された粥を、夢中で口へ運んでいる。
景継はしばらく、その姿を見ていた。
「林道殿」
後ろから官兵衛の声がした。
まだ足は完全に治っていない。
杖を使いながら、ゆっくり歩いてくる。
景継は官兵衛を見る。
「出てきましたか」
「少し歩かねば、いつまでも元へ戻りませぬ」
官兵衛も城から出てきた者たちを見る。
「増えましたな」
「ええ」
「それだけ、城内が苦しくなっているのでしょう」
景継は答えなかった。
兵糧攻めは効いている。
自分たちが望んだとおりに。
このまま続ければ。
三木城はいずれ耐えられなくなる。
城を攻めるよりも、織田方の犠牲は少ない。
勝つ方法として間違ってはいない。
それでも。
目の前で粥を食べる子供を見て。
何も感じないわけではなかった。
「続けますか?」
官兵衛が尋ねた。
景継はすぐには答えなかった。
前世。
司馬懿として生きた時代にも、似たような選択はあった。
戦である以上。
すべての人間を救うことなどできない。
一人を助けることで百人が死ぬこともある。
百人を見捨てることで千人が助かることもある。
そういう判断を何度もしてきた。
今でも。
必要ならばする。
だが。
必要でない犠牲まで受け入れる理由はない。
「続けます」
景継が答えた。
官兵衛は黙っている。
「ここで包囲を解けば、また戦になります。三木城へ兵糧が入り、別所殿は戦い続けるでしょう」
「そうでしょうな」
「だから包囲は解きません」
景継は三木城を見る。
「でも、待つだけなのもやめます」
官兵衛の目が動いた。
「では?」
「別所殿へ書状を送ります」
◇◇◇
その日のうちに。
景継は書状を書いた。
長いものではなかった。
降伏せよ。
そう命じるだけの書状でもない。
別所長治へ一つの選択を示すためのものだった。
城を開くなら。
城内の民を助ける。
武器を捨てた兵も助ける。
別所家の者についても、すべてを討つつもりはない。
ただし。
今回の戦を起こし、最後まで抵抗することを選んだ者には、相応の責任を求める。
その条件を受け入れるなら。
これ以上。
三木城を飢えさせる必要はない。
最後に。
景継は一文だけ付け加えた。
――別所殿が最後まで守りたいものは、何ですか。
書状は三木城へ届けられた。
◇◇◇
別所長治は。
その一文を何度も読んだ。
最後まで守りたいもの。
城か。
別所家か。
自分の命か。
それとも。
自分についてきた者たちか。
「罠です」
家臣の一人が言った。
「信じてはなりませぬ」
別の者も頷く。
「毛利が来ます。それまで耐えればよいのです」
「いつ来る」
長治が尋ねた。
室内が静かになった。
「毛利は、いつ来るのだ」
誰も答えられない。
援軍を求めている。
連絡も取っている。
だが。
今この瞬間。
織田軍の包囲を破るほどの援軍が近くにいるわけではない。
「まだ兵糧はございます」
「どれほどだ」
「それは……」
「あと何日、今までと同じように食わせられる」
答えはなかった。
長治は目を閉じた。
昨夜出した兵も戻ってきた。
負けた。
死んだ者もいる。
怪我をした者もいる。
それでも織田軍は追撃しなかった。
そして。
城から逃げる民を。
林道景継は殺していない。
「殿」
若い武将が前へ出た。
昨夜、坂下を攻めた男だった。
腕に傷を負っている。
「もう一度、兵をお貸しください」
長治が男を見る。
「今度は必ず道を開きます」
「何人欲しい」
「五百」
「五百が死ねば?」
男が黙る。
「次は千を出すのか」
「それでも戦わねば……」
「その次は?」
長治の声は静かだった。
「千が死んだ後は誰を出す」
誰も答えない。
長治は立ち上がった。
窓の外を見る。
三木城。
自分の城。
先祖から受け継いだもの。
簡単に捨てられるはずがない。
だが。
城は何のためにある。
人を守るためではないのか。
その城を守るために。
中にいる人間をすべて死なせる。
それで。
何が残る。
長治は長い間。
城を見ていた。
そして。
「使者を出す」
家臣たちが顔を上げた。
「殿!」
「林道景継へ伝えろ」
長治は振り返った。
「話がしたいとな」
◇◇◇
数日後。
景継は別所長治と向かい合っていた。
秀吉。
官兵衛。
双方の家臣。
多くの者が見守っている。
長治は景継を見た。
思っていたより若い。
こんな男に。
三木城は一度も大きく攻められることなく、ここまで追い込まれた。
「林道殿」
「はい」
「書状に書かれていたことに、偽りはないか」
「どの部分でしょう」
「城内の者たちを助けるという話だ」
景継は長治を見る。
「ありません」
「兵もか」
「武器を捨て、これ以上戦わないのであれば」
「女子供も」
「もちろんです」
長治は少し黙った。
そして。
「別所家の者は?」
景継はすぐには答えなかった。
ここだけは。
何でも助けるとは言えない。
信長の判断もある。
この戦の責任もある。
「すべてを私一人で決めることはできません」
長治の目が細くなる。
「逃げるのか?」
「できない約束をしないだけです」
景継は長治から目を逸らさなかった。
「ただし、城内の民と武器を捨てた兵については、私が責任を持ちます」
「信長殿が後から殺せと言えば?」
「その命令が出ないように話します」
「出たら?」
景継は少し黙った。
「その時に考えます」
長治が景継を見つめる。
やがて。
小さく笑った。
「正直なのだな」
「嘘をついて城を開かせても、その後が困りますから」
「策を使う男だと聞いていた」
「使いますよ」
景継も少し笑う。
「必要なら」
長治は目を閉じた。
そして。
一つだけ尋ねた。
「皆は助かるのだな」
景継の表情から笑みが消えた。
「約束します」
短い言葉だった。
それ以上。
長治は何も聞かなかった。
「分かった」
目を開く。
「三木城を開ける」
◇◇◇
三木城の門が開いた。
最初に出てきたのは民だった。
老人。
女。
子供。
その後から。
武器を置いた兵たちが続く。
織田軍は手を出さなかった。
景継の命令が、すべての兵へ伝えられていた。
秀吉はその光景を見ている。
「終わったな」
「はい」
景継が答えた。
「一度も城壁へ攻めかからずに落としたか」
「落としたという言い方は、少し違う気もしますけどね」
「では何だ」
景継は開かれた門を見る。
その向こうから。
まだ人々が出てくる。
「別所殿が開けたんです」
秀吉は景継を見る。
「同じことではないか?」
「違いますよ」
景継はそれ以上説明しなかった。
勝った。
それは間違いない。
だが。
自分が別所長治を屈服させた。
そういう気にはならなかった。
長治には長治の理由があり。
最後に。
自分で選んだ。
それだけだった。
官兵衛が杖をつきながら近づいてくる。
「林道殿」
「黒田殿」
「勝った気がしませんか?」
景継が官兵衛を見る。
「顔に出ています?」
「少し」
景継は三木城を見る。
「戦わずに勝つ方が楽だと思っていました」
「違いましたか?」
「戦っている方が、何をすればいいか分かりやすいです」
官兵衛が少し笑った。
「それは確かに」
敵が来れば倒す。
城を攻めるなら城壁を破る。
戦場では。
やるべきことが目に見える。
だが。
待つ戦では。
目に見えないものまで考えなければならない。
どこまで待つ。
誰を助ける。
どこで終わらせる。
正しい答えなど。
最初から用意されてはいない。
景継は三木城から出てくる人々を見た。
前世でも。
何度も城を落とした。
何度も敵を破った。
それでも。
今になって考える。
勝つとは。
敵を倒すことだけなのか。
「林道殿」
官兵衛が呼ぶ。
「何です?」
「信長様への報告は、何と書かれます?」
景継は少し考えた。
「三木城、開城」
「それだけ?」
「別所殿が降伏したことと、城内の者を助けると約束したことも書きます」
秀吉が横から口を挟んだ。
「最後のところは大きく書け。後から信長様に知られた方が怖いぞ」
景継は笑った。
「そうします」
◇◇◇
数日後。
三木城開城の報せは、信長のもとへ届いた。
戦果。
被害。
別所方の処遇。
そして。
林道景継が城内の民と武器を捨てた兵を助けると約束したこと。
すべてが報告された。
信長は最後まで読んだ。
そして。
「城を攻めなかったか」
誰に聞かせるでもなく呟いた。
近くにいた家臣が頭を下げる。
「そのようでございます」
「兵糧の道を断ち、出る者は通し、別所自身に門を開かせた」
「はい」
信長は書状を置いた。
怒っているのか。
喜んでいるのか。
その表情からは分からない。
「景継を戻せ」
「はっ」
「秀吉と官兵衛もだ」
家臣が下がっていく。
信長はもう一度、書状を見た。
そこに記された名前。
林道景継。
初めて会った頃とは。
明らかに違う。
兵を預け。
自分で考え。
自分で戦い方を決め。
そして今では。
勝った後のことまで決め始めている。
「面白い」
信長は小さく笑った。
◇◇◇
三木城を離れる日。
景継は馬へ乗ろうとしていた。
「若様」
弥兵衛が近づいてくる。
「どうしました?」
「信長様からの使者です」
景継が振り返る。
「戻れとのことです」
「秀吉殿たちも?」
「はい」
景継は少しだけ三木城を振り返った。
これで。
播磨での戦いがすべて終わったわけではない。
毛利もいる。
本願寺との戦も続いている。
荒木村重の問題も残っている。
だが。
信長が呼んでいる。
ならば行かなければならない。
「分かりました」
景継は馬へ乗った。
「戻りましょう」
「はっ、若様」
景継たちは三木城を後にした。
◇◇◇
そして数日後。
景継は信長への報告を終え、城内の廊下を歩いていた。
三木城について。
別所長治について。
城内の者たちを助けると約束したことについて。
信長からいくつか問われた。
簡単な報告ではなかった。
それでも。
ひとまず終わった。
景継が一人で廊下を歩いていると。
背後から声がした。
「随分と変わった戦をするようになったな」
景継の足が止まった。
聞き覚えのある声だった。
ゆっくり振り返る。
そこに立っていた男を見て。
景継の表情が変わった。
「先生」
明智光秀だった。
久しぶりに会う。
光秀は以前と変わらない穏やかな顔で景継を見ていた。
「久しいな、景継」
「先生こそ。いつ戻られたのです?」
「少し前だ」
光秀が近づいてくる。
「三木城の話は聞いた」
「もう広まっているんですか」
「城を攻めずに城を開かせたとなれば、嫌でも話題になる」
景継は苦笑した。
「少し大袈裟になっていそうですね」
「かもしれんな」
光秀も笑った。
しかし。
その笑みは長く続かなかった。
光秀が景継を見る。
以前と同じ。
相手の奥まで見ようとするような目だった。
「景継」
「はい」
「少し話がある」
景継は光秀の表情を見る。
「何でしょう?」
光秀はすぐには答えなかった。
周囲を確認する。
そして。
静かに言った。
「お前の昔の話だ」
景継の目が。
わずかに細くなった。




