第七十二話 四方からの敵
越前から岐阜へ戻った景継を待っていたのは、勝利を祝う宴ではなかった。
浅井家は滅び、朝倉家も滅びた。
金ヶ崎で信長を挟み撃ちにし、織田家を滅亡寸前まで追い込んだ二つの勢力は、もう存在しない。北近江から越前へ続く大きな脅威が消えたことで、織田家の勢力は以前とは比べものにならないほど広がっていた。
普通なら、ここで一度戦は落ち着く。
景継もそう考えていた。
ところが岐阜城へ戻った翌朝、景継は信長から呼び出された。
評定の間へ入ると、すでに柴田勝家、丹羽長秀、佐久間信盛、明智光秀らが集まっていた。
景継は一礼すると、空いている場所へ座った。
「遅くなりました」
「構わん。始めるぞ」
信長の声に、景継は顔を上げた。
目の前には大きな地図が広げられている。
尾張、美濃、近江、京。
そして、その周囲にはいくつもの駒が置かれていた。
景継はすぐに気づいた。
織田の駒ではない。
「これは?」
信長は一通の書状を景継の前へ投げた。
「読め」
景継は書状を開いた。
書かれている内容そのものは、特別なものではなかった。
各地の動き。
京での噂。
将軍足利義昭の周囲に出入りする者たち。
三好。
本願寺。
そして遠く甲斐の武田。
それぞれが別々に書かれている。
しかし最後まで読んだ景継は、もう一度最初から読み直した。
「……多いですね」
勝家が鼻を鳴らした。
「他人事のように言うな」
「他人事じゃないから困ってるんですよ」
景継は書状を置いた。
浅井と朝倉を倒した。
それで敵が減ったと思っていた。
実際には逆だった。
織田信長が浅井と朝倉を短期間で滅ぼしたことで、それまで様子を見ていた者たちが一斉に危機感を持ち始めている。
信長は地図を見ながら言った。
「俺が強くなれば、頭を下げる者が増えると思っていたか?」
景継は少し考えた。
「半分くらいは」
「残り半分は?」
「怖がって敵になるでしょうね」
信長が笑った。
「その半分が増えてきた」
長秀が地図上の駒を指した。
「京では将軍様の周囲が騒がしくなっております。三好の残党も完全に消えたわけではありません。本願寺も我らに従う気はないでしょう」
信盛が続ける。
「さらに武田です。信玄が西へ目を向けているという報告があります」
景継の視線が地図の東へ動いた。
武田信玄。
名前はもちろん知っている。
この時代へ生まれてから何度も耳にしてきた。
甲斐を治める大名。
戦に強く、周囲の国々と長年争い続けながら勢力を広げてきた男。
だが景継は、信玄の未来を知らない。
いつ死ぬのかも知らなければ、これからどこまで進むのかも知らない。
だからこそ、名前だけで恐れるつもりもなかった。
「武田は、本当にこちらへ来るんですか?」
信盛が答える。
「まだ分からぬ」
「では、来る前提では考えません」
勝家が眉を寄せた。
「来てから考えるというのか」
「違います。来る場合と、来ない場合を両方考えます」
景継は地図へ手を伸ばした。
浅井長政との戦で学んだことだった。
相手の答えを一つに決めない。
信玄が来ると決めつければ、来なかった時に別の敵へ使えた兵や時間を無駄にする。
来ないと決めつければ、本当に来た時に対応できない。
ならば両方に備える。
景継は地図を見ながら、別のことが気になった。
「それより、一つ聞いてもいいですか」
信長が顎を上げた。
「言え」
「この人たちは、誰がまとめているんです?」
部屋が静かになった。
勝家が答える。
「将軍ではないのか」
「本当に?」
景継が聞き返す。
「三好も、本願寺も、武田も、全部将軍様の命令で動くんですか?」
誰もすぐには答えなかった。
景継は地図を見る。
そこにある敵の駒は多い。
東にもいる。
西にもいる。
京にもいる。
一つずつ数えれば、織田より大きな勢力に見える。
しかし景継には、別のものが見えていた。
「おかしいですね」
信長が景継を見る。
「何がだ」
「敵が多すぎるんです」
勝家が呆れた顔をした。
「だから皆で話しておるのだろうが」
「そういう意味じゃありません」
景継は地図上に置かれた武田の駒を指した。
「武田信玄は、将軍様のために自分の国を危険にさらしてまで戦うんでしょうか」
次に本願寺を指す。
「本願寺は武田のために戦うんですか?」
さらに三好の駒を見る。
「三好は、本願寺が大きくなっても困らないんでしょうか」
勝家が黙る。
景継は続けた。
「全員、信長様を邪魔だと思っている。それは同じかもしれません。でも、その先に欲しいものまで同じとは思えません」
長秀が地図を見ながら呟いた。
「なるほど」
「敵が多いから、一つの大軍に見えているだけです」
景継は自分の前にあった織田の駒を、敵の駒の中央へ置いた。
「でも、これは一つの国ではありません」
将軍には将軍の目的がある。
武田には武田の目的がある。
本願寺にも、三好にも、それぞれ守りたいものと欲しいものがある。
共通しているのは、織田信長が邪魔だという一点だけ。
それだけで、完全に一つになることはできない。
景継は少し考えた後、信長を見た。
「全員と戦う必要はないと思います」
「ではどうする」
「同時に動けなくします」
勝家が景継を見る。
「簡単に言うな」
「簡単じゃないですよ。ただ、全員を戦で倒すよりはましです」
景継は地図上の駒を少しずつ離した。
「一番まずいのは、この人たちが同じ時期に動くことです。東から武田、西から三好、京で将軍様、本願寺まで同時に動けば、さすがに織田だけでは厳しい」
信長は黙って聞いている。
「逆に言えば、同じ時期に動かなければいいんです」
「どうやって止める」
「まだ分かりません」
景継は即答した。
勝家が顔をしかめた。
「分からぬのか」
「今見たばかりですからね」
長秀が思わず笑った。
信長も口元を緩める。
景継は地図を見たまま続けた。
「でも、調べる場所は分かりました。兵の数だけ見ても意味がない。この人たちが何を欲しがっていて、何を恐れていて、どこまでなら信長様と戦うつもりなのか。それを調べます」
敵を倒すのではない。
敵が一つになる理由を消す。
浅井と朝倉を切り離した時と似ているようで、今回は規模が違う。
相手は二つではない。
しかも、その中には武田信玄という強敵までいる。
景継は地図を見ながら、久しぶりに少しだけ胸が高鳴るのを感じていた。
◇◇◇
評定が終わった後、景継が廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「景継」
振り返る。
そこにいたのは明智光秀だった。
かつて景継が先生と呼んでいた男。
長い間、自分の記憶について何かを知っているのではないかと疑い、正体を追い続けた人物でもある。
今では同じ織田家に仕えている。
それでも景継の中では、光秀という名より先生という呼び方の方がまだ馴染んでいた。
「先生」
「その呼び方は、そろそろやめぬか」
「嫌です」
「即答するな」
景継は少し笑った。
二人は並んで廊下を歩いた。
しばらくして、光秀が尋ねた。
「先ほどの話、本気か」
「どれです?」
「敵を同時に動かさないという話だ」
「本気ですよ」
「武田まで含めてか」
景継は少し考えた。
「武田は別に考えた方がいいかもしれません」
「なぜだ」
「まだ分からないことが多すぎます」
景継は立ち止まった。
「先生は武田信玄を知っています?」
「会ったことはない」
「どんな人です?」
光秀は少し考えた。
「戦だけなら、今この国で最も相手にしたくない者の一人だろう」
「信長様より?」
「戦場だけを見れば、そう考える者もいる」
景継は黙った。
光秀が横目で見る。
「怖いか」
「少し」
意外な答えだったのか、光秀が景継を見る。
「お前でも怖いと言うのだな」
「知らない相手ですから」
景継は当然のように答えた。
「知らない相手を怖くないと思う方が危ないですよ」
光秀はしばらく景継を見た後、少し笑った。
「変わったな」
「そうですか?」
「以前のお前なら、信玄がどう動くのかを考え続けただろう」
景継は苦笑した。
「金ヶ崎で懲りました」
「浅井長政か」
「はい」
景継は廊下の外へ目を向けた。
「人が何をするかを考えること自体はやめません。でも、それが絶対に当たると思うのはやめました」
光秀は何も言わない。
「信玄が徳川を攻めるかもしれない。直接こちらへ来るかもしれない。途中で止まるかもしれない。全部考えます」
「すべてに備えるつもりか」
「できる範囲で」
光秀が小さく息を吐いた。
「厄介な男になったな」
景継が眉を寄せる。
「最近、みんなそれ言うんですよ」
「皆が言うなら事実なのだろう」
「先生まで言わなくていいでしょう」
光秀が笑った。
その笑いを見ながら、景継は少し不思議な気持ちになった。
かつては、この男が何者なのか分からなかった。
自分の過去をどこまで知っているのかも分からなかった。
今は名前を知っている。
明智光秀。
信長に仕える武将。
そして、自分が幼い頃から何度も遠くから見ていた男。
それでも、すべてを知ったわけではない。
光秀がなぜそこまで自分に興味を持ったのか。
なぜ昔の書物を調べていたのか。
景継の前世について、今どこまで考えているのか。
分からないことはまだ残っている。
以前なら、それが気になって仕方がなかった。
今は少し違う。
分からないなら、分からないまま見ていればいい。
必要になった時に、考えればいい。
景継はそう思えるようになっていた。
「先生」
「何だ」
「将軍様は、信長様を敵だと思っていますか」
光秀の足が止まった。
景継も止まる。
光秀はすぐには答えなかった。
「なぜ私に聞く」
「先生は京に詳しいでしょう。それに将軍様の周囲のことも、私より知っている」
光秀は少し考えた。
「敵とまで考えておられるかは分からぬ。ただ、恐れてはおられるだろう」
「信長様を?」
「信長様が将軍を京へ戻した。それは事実だ。しかし、その信長様が将軍より大きな力を持ち始めれば、話は変わる」
景継は納得した。
力を貸してくれる者と、自分より強くなった者は違う。
義昭にとって信長は、最初は自分を京へ戻してくれる力だった。
しかし今は。
浅井を滅ぼした。
朝倉を滅ぼした。
近江を押さえた。
畿内にも大きな影響力を持っている。
このまま信長が強くなれば、将軍の権威すら信長の力に依存するようになる。
「なるほど」
景継は呟いた。
光秀が見る。
「何か分かったか」
「将軍様を倒す必要はないかもしれません」
光秀の表情が変わった。
「何を考えている」
「まだ何も」
「その顔で言っても信用できぬ」
景継は笑った。
「本当にまだ何も決めてません。ただ、将軍様が信長様を恐れているなら、その恐れを消す方法と、逆にもっと大きくする方法の両方があります」
「大きくしてどうする」
「怖すぎる相手とは戦えないでしょう?」
光秀は景継を見た。
「逆もあるぞ」
「分かってます。怖いからこそ、今のうちに殺そうとする人もいる」
景継は再び歩き始めた。
「だから調べるんです。将軍様がどちらの人なのかを」
光秀はその背中を見ながら、しばらく動かなかった。
◇◇◇
その頃、京では一通の書状が人目を避けるように運ばれていた。
書状の送り主は足利義昭。
届け先は一つではなかった。
信長の勢力が大きくなりすぎている。
浅井と朝倉が消えたことで、その危機感は以前より強くなっていた。
信長を京へ呼び込んだのは自分だった。
自分を将軍へ戻したのも信長だった。
しかし、このままでは将軍が信長を使うのではなく、信長が将軍を使うことになる。
義昭には、それを受け入れることができなかった。
「武田は?」
側近が尋ねる。
「返事はまだだ」
「本願寺は?」
「こちらもすぐには動かぬだろう」
義昭は苛立ったように扇を閉じた。
「なぜ皆、様子を見る」
側近は答えられなかった。
義昭にとっては、信長という一人の巨大な敵を倒すための戦いだった。
だが、書状を受け取る者たちにとって事情は違う。
武田には武田の事情がある。
本願寺には本願寺の事情がある。
三好にも、それぞれの事情がある。
景継が岐阜で考えていた通りだった。
まだ彼らは一つではない。
ただし、一つではないから安全というわけでもなかった。
同じ方向へ動く瞬間が来れば、それだけで織田家にとって大きな脅威になる。
そして、その瞬間は景継が考えていたより早く近づいていた。
◇◇◇
数日後。
岐阜城へ、一人の使者が駆け込んできた。
景継はその時、長秀とともに各地から届いた報告を整理していた。
「景継様!」
使者の声に、景継が顔を上げる。
「どうしました?」
「徳川殿より、急ぎの知らせにございます」
その一言で、景継の表情が変わった。
「家康様から?」
「はい」
差し出された書状を受け取り、その場で開く。
景継は最初の数行を読み、すぐに立ち上がった。
長秀が尋ねる。
「何があった」
景継は答えず、最後まで一気に読んだ。
武田軍に動きあり。
大規模な兵の集結。
進路はまだ完全には定まっていない。
しかし、徳川領へ圧力をかける可能性が高い。
そして何より。
その軍を率いる者の名が記されていた。
武田信玄。
景継は書状を持ったまま地図の前へ移動した。
甲斐。
信濃。
遠江。
三河。
そして美濃。
道を目で追う。
長秀も隣へ来た。
「来ると思うか」
景継はすぐには答えなかった。
来る。
そう決めつけるな。
自分に言い聞かせる。
武田が兵を集めたからといって、必ず徳川を攻めるとは限らない。
威圧だけかもしれない。
別の目的があるかもしれない。
途中で進路を変える可能性もある。
それでも、一つだけ確かなことがあった。
「準備します」
景継が答えた。
「徳川へ援軍を?」
「まだです。まず家康様に、絶対に大きな決戦をしないよう伝えてください」
長秀が景継を見る。
「徳川殿が聞くと思うか?」
景継は少し困った顔をした。
「そこなんですよね」
徳川家康。
我慢強い男だとは聞いている。
だが、自分の領地へ敵が入ってきた時に、どこまで耐えられるのかは分からない。
しかも相手は武田信玄。
城を取られ。
土地を荒らされ。
目の前を敵軍が通る。
それでも戦うなと言われて、本当に我慢できるのか。
景継には分からなかった。
だからこそ、家康が戦ってしまった場合のことも考えなければならない。
「長秀様」
「何だ」
「信玄について分かることを全部集めてください。今までどんな戦をしたのか、どのくらいの速さで兵を動かすのか、兵糧をどこから運ぶのか、戦う時に何を好むのか。それから武田の家臣についても知りたいです」
「随分多いな」
「知らない人と戦うんですから、多いくらいでちょうどいいです」
景継は地図を見た。
これまで戦ってきた相手とは違う。
岩倉。
斎藤。
浅井。
朝倉。
どの相手にも、それぞれの強さがあった。
しかし武田信玄という名を聞いた時の周囲の反応は明らかに違っている。
皆が警戒している。
戦を知る者ほど、その名を軽く扱わない。
ならば強いのだろう。
景継は、それ以上勝手に決めつけなかった。
「信玄……」
名前を口にしてから、景継は少しだけ笑った。
長秀が不思議そうに見る。
「何がおかしい」
「いや、ちょっと楽しみになってきました」
「先ほどまで怖いと言っていたのではないか」
「怖いですよ」
景継は地図から目を離さなかった。
「だから、面白いんです」
自分より強いかもしれない相手。
自分の予想を簡単に越えてくるかもしれない相手。
それなら、最初から読み切れるなどと思わなければいい。
信玄が何をするか。
完全に当てる必要はない。
一つの策を破られたら、次を出す。
それも破られたら、さらに次を作る。
勝てないなら、勝たなくてもいい。
負けなければいい。
時間を使わせる。
兵を使わせる。
食糧を使わせる。
信玄が一歩進むたび、その一歩に必要なものを増やしていく。
景継の頭の中で、少しずつ戦の形が作られ始めていた。
ただし、まだ何も決めない。
敵のことを知らないまま作った策など、策ではなく願望にすぎない。
まず見る。
知る。
それから考える。
金ヶ崎で得た教訓を、景継はもう忘れていなかった。
◇◇◇
同じ頃、武田軍の陣でも織田についての話が出ていた。
信玄の前には、畿内から届いたいくつもの報告が置かれている。
浅井家滅亡。
朝倉家滅亡。
織田信長の勢力拡大。
そして、その戦の中で何度も名前が出てくる一人の若者。
信玄は一枚の書状を手に取った。
「林道景継」
近くにいた家臣が顔を上げる。
「織田の若武者にございますか」
「若武者、か」
信玄は書状を読み直した。
戦場で槍を振るい、敵将を討ち取ったという話ではない。
大軍を率いて正面から敵を打ち破ったという話でもない。
それでも、浅井と朝倉が滅びるまでの報告を追うと、何度も同じ名前が現れる。
浅井と朝倉の間を切り離した。
越前の国人へ働きかけた。
浅井が滅びた直後、朝倉が立て直す前に兵を進めるよう信長へ進言した。
一つ一つだけを見れば、奇抜な策ではない。
信玄が気になったのは、別の部分だった。
「この者は、戦場で勝とうとしておらぬな」
家臣が首を傾げる。
「どういう意味でございます?」
「戦が始まる前に、相手が勝ちにくい形を作っている」
信玄は書状を置いた。
浅井を弱らせるために朝倉を切る。
朝倉を弱らせるために越前を揺らす。
相手がどう動くかを完全に読んでいるわけではない。
むしろ、どちらへ動かれても構わないように手を残している。
「年はいくつだ」
「まだ若いと聞いております」
「それは分かっておる」
信玄が少し笑った。
「いくつだと聞いている」
家臣が答えた。
信玄は一瞬だけ黙った。
「その年で、これか」
書状にもう一度目を落とす。
林道景継。
信玄はその名前を覚えた。
まだ会ったこともない。
本当に報告どおりの男なのかも分からない。
それでも、もし織田との戦になれば、どこかでこの若者の策に触れることになるかもしれない。
信玄は地図へ目を移した。
徳川。
その向こうに織田がいる。
そして織田信長の隣には、未来を当てるのではなく、未来が外れても崩れない形を作ろうとする若者がいる。
信玄は静かに地図を見つめた。
「さて」
武田の家臣たちが信玄を見る。
「織田には、少し面白い者がいるらしい」
信玄の指が地図の上をゆっくりと西へ進んだ。
その先には徳川領があり、さらに向こうには織田の領国が広がっている。
浅井と朝倉を倒し、勢いに乗る織田信長。
その周囲を取り囲もうとする複数の勢力。
そして東から動き始めた武田信玄。
景継が岐阜で見た地図の上では、まだそれぞれが別々の敵だった。
だが、それらが同じ時に動けば、織田家はこれまで経験したことのない戦いを強いられる。
景継が壊さなければならないのは、敵の軍勢そのものではない。
信長を倒すという一点だけで、別々の者たちが同じ方向へ動こうとしている、その流れだった。
そして、その中で最も大きな駒が今、東からゆっくりと動き始めていた。




