第九話 もう一つの記録
アランは、処刑記録を閉じた。
(ペェーリルは、いない)
(処刑されたわけじゃない)
アランは、もう一度
人員台帳を開いた。
楽師。
給仕。
医師。
名前が並んでいる。
そして――
作曲家。
その欄だけが黒く塗り潰されている。
アランはしばらく、その欄を見つめた。
(……待て)
(ペェーリルは、ここにいた)
(なのに――)
アランは、画面を切り替える。
(給与を受け取った記録は?)
アラン
「……」
給与台帳を開く。
楽師。
給仕。
医師。
名前が並ぶ。
アランの目が止まる。
「ん?」
もう一度見る。
作曲家の名前がない。
もう一度。
別の年。
やはり無い。
アラン
(待て)
資料画面を何枚も開く。
人員台帳。
作曲家 1名
給与台帳。
記載なし。
処刑記録。
記載なし。
帰還記録
なし。
アラン
「……」
(離宮にはいた)
(だが記録にはいない)
(何だそれ)
アランは、深くソファに沈んだ。
数秒後。
ニヤリと笑う。
(面白くなってきた)
コーヒーを飲み干す。
(次は食料搬入記録だな…)
———
翌日。
開館と同時に、
アランは図書館の閲覧室へ入った。
席に着くなり資料を広げる。
食料搬入記録。
年ごとに整理された帳簿を
片端からめくっていく。
紙をめくる音だけが静かに響く。
やがて。
アランの指が止まった。
離宮常駐人数。
二十名。
その下。
食料搬入量。
二十一人分。
アラン
「……ん?」
もう一冊開く。
翌年。
常駐人数 二十名。
搬入量 二十一人分。
さらに次。
やはり。
二十一人分。
アランは椅子にもたれた。
資料を見つめる。
(いるじゃねぇーか)
指先で机を軽く叩く。
(二十人しかいないなら)
(二十一人分も要らない)
再び帳簿を見る。
何年分調べても同じだった。
二十名。
そして二十一人分。
アランの口元がわずかに上がる。
(ペェーリルだな)
人員台帳。
作曲家 一名。
給与台帳。
記載なし。
処刑記録。
記載なし。
帰還記録。
なし。
そして。
食料だけは、
二十一人分。
アラン
「何があった……?」
資料の山へ視線を向ける。
「お前」
小さく呟く。
「どこまで消されたんだ」
数秒の沈黙。
「待て」
(消される前
最初があるはずだ)
アランは椅子から立ち上がると
資料の山を次々と見ていく。
そして
手が止まる。
以前、読んだ手紙。
ペェーリルへ届かなかった手紙。
内容は覚えている。
だが
もう一度読んでみる。
今日は久しぶりに
あなたの曲を耳にしました。
相変わらず美しい旋律でした。
アラン
(久しぶり?)
我々は皆、
あなたが王都へ戻られる日を
楽しみにしております。
(戻る日を…)
(王都にいた頃、
曲を聞いた者がいる)
アランの目が変わってくる
(…あの楽譜以外にもある!)
アラン
(王都で演奏されていた)
(なら名前が残っている)
(消されたのは離宮の記録だけだ)
———
そしてアランは資料の
閲覧申請書を書く。
図書館員
「またですか」
アラン
「まただ」
作曲家一覧
年代順。
ページをめくる。
そして。
ペェーリル。
アランの指が止まる。
口元が上がる。
作品目録
・春の舟歌
・白薔薇の夜会
・夏至祭のワルツ
・夜明けの庭園
演奏会記録
サロン記録
(どんな曲かはわからねぇーな)
アランは
サロン記録から
貴族の名前を見つける。
今度は
王都貴族一覧
指がページをなぞる。
そして
アランの指が
あるページで止まった。
アランの口角が上がる。
(あった)
つづく…。
お読みいただきありがとうございます。
次回、第十話「点と点」




