第八話 消された名前
翌朝もアランは出かけた。
もちろん、図書館へ。
アランが姿を見せると
司書が何も言わずに
申請書を出す。
アランが申請書を書いている間に
司書は資料を持ってくる。
それは一分とかからない早さだった。
アランは閲覧室で調べ続ける。
(何か見落としてる物が
あるかも知れない)
資料の山から
もう一度、丹念に見て行く。
次々と資料の山に手を伸ばすアラン。
そしてまた資料に手を伸ばした時
何かが落ちた。
アラン落ちた方を見る。
「ん?」
拾い上げる。
随分と古い手紙のようだ。
(昨日は気づかなかったな)
ゆっくり慎重に開けてみる。
ペェーリル殿
今日は久しぶりに
あなたの曲を耳にしました。
相変わらず美しい旋律でした。
(作曲家だな)
続きを読む。
あなたが離宮へ召し上げられてから
もう二年になります。
「召し上げ?」
アラン、思わず声が出る。
さらに読む。
王陛下がお気に召されたと聞きました。
我々は皆、
あなたが王都へ戻られる日を
楽しみにしております。
アラン
「戻る……?」
そして最後。
どうかご無理をなさらず。
あなたは昔から
曲が出来るまで
食事も忘れる方なのですから。
アランは
手紙の日付を見た。
そして
離宮の記録
後年の手紙
を並べてみる。
ペェーリルは
離宮へ行った。
しかし。
帰った記録がない。
(ペェーリル)
(まず名前は確定だな)
(次は戻ったかどうかだ)
アランは手紙の日付を見る。
そして資料の山へ目を向ける。
(離宮へ呼ばれた時期は分かった)
(その後は?)
アランは再び資料をめくる。
招待記録。
納品記録。
管理簿。
そして。
ある記録で手が止まる。
『ペェーリル殿到着』
アラン
ニヤッとする。
「いた」
さらにめくる。
何もない。
さらにめくる。
何もない。
アラン
(帰還記録がない)
(帰っていない?)
その時、閉館を知らせるアナウンスが流れる。
———
アランは家に帰って来た。
ノートパソコンには
ペェーリルへの手紙
到着記録
人員台帳
処刑記録
そして、画面を見ながら考え込む。
(離宮へ行った)
(だが帰っていない)
コーヒーを飲む回数も増えて行く。
(王のために曲を書いていた)
(何十年も)
(なのに名前は消されてる)
アランは
人員台帳の写真を拡大した。
作曲家。
その欄だけが黒く塗り潰されている。
「……」
(何故だ)
(王のために曲を書いたなら)
(普通は残る)
(功績として名前が……)
アランは
もう一度写真を拡大した。
(わざわざ消した)
(隠したかったのか)
しばらく考える。
(いや)
(違うな)
(隠したいだけなら……
記録そのものを消せばいい)
(名前だけを消している)
(なら――)
(存在は残したかった?)
コーヒーを飲む。
ふと机の上の楽譜を見る。
「……」
栞の位置が違う。
昨日は確か。
もう一ページ前だった。
楽譜を手に取ろうとした瞬間。
スマホが鳴る。
ウィルからだった。
アラン
「おう」
ウィル
「お前、まだその件調べてんのか」
アラン
「あぁ 面白くなってきた」
ウィル
「嫌な予感しかしねぇ」
アラン
「なぁ」
「人の名前だけ消す理由って何だと思う?」
ウィル
「嫌いだったんじゃねぇの?」
アラン
「それだけで?」
ウィル
「狂王なんだろ?」
アラン
「……」
(それだけで?)
資料を見る。
手紙。
処刑記録。
黒く塗り潰された名前。
(……それだけなのか)
ウィル
「で?」
「そのペェーリルとかいう作曲家」
「何したんだ?」
アラン
資料から目を離さない。
「まだ分からん」
少し笑う。
「だが」
「王は相当気に入ってたらしい」
アランはスマホを切ったあと
パソコンの画面を見つめていた。
ペェーリルへの手紙
人員台帳
処刑記録
人員台帳には何十年と
黒く塗りつぶされた名前。
“嫌いだったんじゃねぇの?”
ウィルの言葉を思い出す。
コーヒーを飲む。
人員台帳を開く。
作曲家。
名前は消されている。
処刑記録を開く。
楽師。
衛兵。
給仕。
何人もの名前。
だが。
ペェーリルは無い。
つづく……。
お読みいただきありがとうございます。
次回、第九話「もう一つの記録」




