第十話 点と点
王都貴族一覧。
アランは、ペェーリルの名が記された演奏会記録と、そこに名前のある伯爵家を照合していく。
そして――
伯爵家文書。
保管番号。
日記帳 十九冊。
アランは保管番号を確認し、
伯爵の日記を見つけた。
“今夜の演奏会は素晴らしかった。”
“特にペェーリルの新作は客人たちに大変好評であった。”
別の日記。
“本日のサロンでは
ペェーリルの新曲が披露された”
“春の舟歌と題されたその曲は、
穏やかな川面を思わせる旋律であった”
別の日記。
“夜明けの庭園は実に見事だった”
“曲が終わった後もしばらく
誰も拍手を忘れていた”
(いた)
(ちゃんといた)
(王都に)
アランは
ペェーリルのことを書いた部分の年を追う。
ある年の日記には
“今夜もペェーリルの新作が好評だった”
“ペェーリルは客人に囲まれていた”
“本人は終始困ったように笑っていた”
翌年の日記。
“王家へ召し抱えられたらしい”
そして。
数年後
ペェーリルの記録が無くなる。
アランは演奏会記録と
日記を見比べる。
演奏会記録
なし。
新作発表
なし。
それ以降。
名前が消えてる。
(人気があった)
(帰りを待たれていた)
(普通の作曲家だった)
(じゃあ何故消した)
アランは閲覧室を歩き回りながら
考えていた。
ウィルの言葉を思い出す。
“嫌いだったからじゃねぇの”
(嫌いなら処刑するだろ)
(だが処刑されていない)
(記録は食糧搬入のみ)
(生かされていた)
アランの足が止まる。
(待て)
(ペェーリルだけじゃない)
(他の楽師はどうなった?)
処刑記録を手に取る。
ページをめくる。
楽師
楽師
さらにページをめくる。
楽師
その時
楽師 名前 レオネル
罪状
『虚言』
アラン
(虚言…?
レオネル…)
アランの頭の中が激しく回る。
以前、読んだあの手紙。
地下区画での演奏
詳しくい事は書けない。
王は灯りで試す。
そして
手紙の最後
署名部分は破れていた。
残っていたのは
署名に残るeの文字。
アランのその時の声
(似てるな…)
(最古の書き込みと同一人物か)
アランは資料を閉じると
受付に返しす。
司書は驚いた顔で
「今日はもう?」
アラン
「また来る」
慌てて図書館を出ていく。
鍵で家を開けるのももどかしいくらい、
アランは部屋に入ると楽譜を手に取る。
そして
最古の書き込み
掠れてルーペで読めない。
アラン
「くそっ!」
「なんかねぇーのかよ」
アランは気付いてない。
そのページに栞が移動していたことを。
アランは部屋の隅々を見渡す。
そして
机のライトを掴む。
ライトを付けて横から当てる。
紙の表面に影が浮く。
(読めねぇ)
(ここまで来て……)
(何も分からねぇのかよ)
更にライトを近付ける。
その時
微かに文字が見える。
アラン
「王……?」
「機……?」
(意味わかんねぇー)
アラン
(王…少し空いて 機…その後も文字がありそうだな)
(王は王だろし…問題は機の方か)
アランはコーヒーを淹れる。
ソファに座り
パソコンの検索窓。
機を入力。
機会
機能
機構
機嫌
アラン
「……」
指が止まる。
機嫌。
アランは
もう一度楽譜を見る。
王
機
(王 機嫌……?)
数秒考える。
コーヒーを飲む。
処刑記録の資料を画面を開く。
あの手紙を書いた翌年に処刑されている。
罪状
『虚言』
(あの手紙とこの最古の書き込みが
同一人物だとしたら)
(何を残す?)
(王……狂王)
コーヒーカップをテーブルに置く。
ソファへ腰を沈めると、
そのまま足を引き上げ
あぐらをかいた。
アランは目を閉じる。
深く息を吐いた。
(俺がレオネルだったら)
アランの思考が沈んでいく。
暗い地下。
何も見えない。
いや、
王が蝋燭を持っている。
狂王が蝋燭を持ちながら笑っている。
揺れる灯り。
アランの指が無意識に動く。
ヴァイオリンを構える仕草。
そして弾くふり。
その時
ドクン。
胸が一度だけ強く鳴った。
同時に
楽譜の音符が僅かに震えた。
アランは気付かない。
静かな地下に音が響く。
灯りが消えれば終わりだ
処刑される。
俺は何を見てる?
楽譜か?
何処を見てる?
狂王か……
違う
灯りだ。
今かもしれない。
次の瞬間かもしれない。
灯りが揺れる。
アランはゆっくりと目を開いた。
(王の機嫌…)
つづく……。
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次回、第十一話「繋がる点」




