第六話 届かなかった手紙
「まだ行けるな」
そう呟くと、
アランは再び資料の山へ手を伸ばした。
地下区画。
第三区画。
楽師。
頭の中で
バラバラの情報が繋がり始めている。
アランは次々と資料を開いていく。
修繕記録。
管理記録。
備品台帳。
どれも決定打に欠ける。
だが。
一枚の古びた書類が目に留まった。
『地下区画物資搬入記録』
アランは椅子を引き寄せた。
目を走らせる。
食料。
ランタン。
紙。
インク。
そして――
アランの手が止まる。
「……弦?」
記録には大量の弦が搬入されていた。
一度ではない。
何年にも渡って。
アランは眉をひそめる。
(地下に楽師がいた……?)
(だから弦が必要だったのか)
だが。
次の行を見て
アランは思わず資料へ顔を近付けた。
搬入先。
『地下第三区画』
アランの口元がゆっくりと吊り上がる。
「見つけた」
その瞬間。
館内放送が流れた。
『間もなく閉館時間となります』
アラン
「……チッ」
アランはスマホを取り出し
素早く数枚の写真を撮り
図書館を出た。
———
アランは家に帰って来た。
そしていつものように
コーヒー淹れる。
テーブルには。
楽譜。
ノートパソコンには
幾つもの書き込みの画像
アランはコーヒーをテーブルに置き
深くソファに座る。
コーヒーを一口飲む。
そして
図書館で見つけ
スマホで撮った資料の写真
『地下第三区画』
歴史から消された
『大樹の紋章』
楽譜の中の最古の書き込み。
そして突然。
(待て)
アランの頭の中
王
離宮
第三区画
楽師のみ
(楽師だけ?)
コーヒーを一口。
(地下に?)
無意識に、またカップへ手が伸びる。
(何のために?)
そして楽譜を見る。
(王のために書かれたのか)
コーヒーを一口飲む。
そして資料写真を見ながら。
『楽師以外立入禁止』
(一人じゃないな)
アランはコーヒーを飲む。
(複数いた)
(何人だ?)
(何年続いた?)
その時
楽譜の上の音符が、
ほんの僅かに位置を変えた。
アランは思考に深く入り過ぎて
気付かないままだった。
———
探さずにはいられない。
調べずにはいられない。
見つけずにはいられない。
アランは毎日のように
図書館へ足を運んだ。
(楽師の記録だ)
(地下区画の管理者でもいい)
(何か証拠となるものがあれば)
アラン
「昨日の資料を、もう一度お願いしたい」
司書
「申請書をどうぞ」
アランが申請書を書いていると
司書はチラッとアランを見る。
「地下第三区画の方ですね」
アランは顔を上げる。
書いた申請書を渡しながら
「話が早いな」
司書
「毎日、来られてるので」
司書は申請書を受け取りながら
「未整理資料なら別にありますよ」
アランは
目の色を変える。
「それは見せて貰えるのか?」
司書
「少しお待ち下さい」
暫くして司書が書庫から戻ってくる。
「正式な資料ではありませんが…」
アラン
「構わない」
アランは閲覧室でその資料を開けた。
古い手紙の束。
領収書。
メモ。
未整理のまま置かれていた資料。
アランは
その中にある手紙の束に手が止まる。
アラン
「ん?」
アランは一通、読んでみる。
母上へ
私は離宮で働いております。
王家の楽師として召し抱えられました。
どうかご安心ください。
数枚後。
母上へ
地下区画での演奏を命じられました。
詳しい事は書けません。
次の手紙
母上へ
王は灯りで私たちを試されます。
灯りが消えれば終わりです。
アラン、手紙を持ったまま
(……は?)
そして更に手紙を開ける。
数枚後から
母上へ
王は今日も笑っておられました。
灯りは一度も消えていないのに、
二人が連れて行かれました。
アラン
「……は?」
「狂王か...」
母上へ
作曲家殿は部屋から出られません。
何年も。
アランの目が変わってくる。
更に数枚後。
母上へ
もし帰れなかったら──
どうか弟を楽師にはしないでください。
それらは
楽師が家族へ書いた手紙だった。
アランは
最後の手紙をめくった。
続きはなかった。
アランは封筒を見る。
未開封だった。
裏返す。
送付印がない。
配送記録もない。
送られた形跡も無い。
(この手紙…出されていない)
(届いていない)
(届けることができなかった)
アランの口元が、わずかに上がる。
「ビンゴだな」
つづく……。
お読みいただきありがとうございます。
次回、第七話「狂王」




