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第五話 地下第三区画

翌朝、アランは図書館にいた。


そして

パソコンのキーボードの前で一瞬、

手が止まる。


アラン

楽しそうに呟く。


「さて、何が出て来るかな」


検索 大樹の紋章


ヒットしない。


アラン、

暫く考え込む。


(データベース化されてないのか?)


今度は王家紋章集を調べる。


アラン

(ない?)


もう一冊。


ない。


別の資料。


ない。


何時間、調べても出てこない。


木の紋章だけが

どの記録にも残っていない。


アラン

(あり得ない 紋章がある以上、

どこかに記録があるはずだ)


(なのに無い)


アランは深く椅子に座り天井を仰ぎみる。


(存在した証拠はある)

(だが歴史が存在を認めていない)


(消された存在……)

(……消せない存在)


アランはハッ!として椅子から立ち上がると図書館の片隅にある地方紙に手を伸ばした。


(記事からは消せないはずだ)


地方紙をめくる。

何もない。


まためくる。

何もない。


(もっと古い記事)


アランは

さらに別の記事をめくる。


ない。


ふと

アランの記事をめくる手が止まる。


“山中の旧離宮にて火災”


原因不明の火災により、

山中に残されていた旧離宮が焼失。


現在は伯爵家の管理下にあったが、

その家系もすでに途絶えている。

焼け跡の地下からは

大量の書物や楽譜が発見された。


なお、この離宮は

かつて王家の所有であったとされる。


アランの口角が上がる。


そして


「見つけた」


アランは記事をスマホで撮影した。


その時だった。

『まもなく閉館時間となります』


館内放送が流れる。


アランは時計を見る。


(もうそんな時間か)


調べたいことは山ほどある。


王家。

離宮。

地下図書館。


そして、

あの楽譜。


アランは記事の番号をチラッと見ると

名残惜しそうに立ち上がった。


アランは家に帰るとコーヒーを淹れた。


ソファに座り

スマホで撮影した記事を見返す。


テーブルには

開いたままの楽譜。


アランは、コーヒ一をひと口飲む。


ふと、

視線が楽譜へ向いた。


「……ん?」


朝、出かける時よりも

楽譜が僅かに動いてる気がした。


アラン

「気のせいか?」


コーヒーを一口飲む。

また、撮影した記事へと視線を移した。


———


翌朝、

アランは昨日の続きを探しに図書館の

受付へ向かった。


アラン

「古文書の閲覧申請をしたい」


司書は眼鏡の奥で目を瞬かせた。


「かなり古い資料になりますが」


「構わない」


「何をお探しですか?」


アランは記事の番号を伝える。


司書

「暫くお待ちください」


代わりに見つかるのは


「離宮の維持費支出」

「立入禁止区域」


離宮が存在したことは分かったのに

王の記録はない。


アラン

(離宮の記録ばっかりか)


「地下区画への立入を禁ず」

「楽師以外の入室を禁ず」


アラン

(ん?)


もう一度見る。


「楽師」


アランの

目の色が変わる。


次の項。


「地下区画にて灯りを禁ず」


アラン

「何だこれ……」


アランは資料を読み返した。


(地下で灯りを禁ず?)

(見えねぇーじゃねぇーか)

(何故、そんな事をした?)


更にめくる。


「地下区画の灯りは王室が管理する」


(王室が管理……)


アランは椅子にもたれ、

資料の束を机に置いた。


指先で机を軽く叩く。


(王家の離宮)

(地下区画)

(楽師以外の入室を禁ず)


そして。

アランは立ち上がると

近くの資料棚へ向かう。


離宮の歴史ではない。

王家の歴史でもない。


地下区画そのものの記録を探し始めた。


建築図面。

維持管理記録。

修繕記録。

封鎖命令書。


何でもいい。

地下について書かれたものを。


だが。

見つかるのは断片ばかりだった。


地下通路。

地下倉庫。

地下書庫。


それらしい記述はある。


しかし地下区画全体を示した図面がない。


まるで。

そこだけ切り取られたように。


アランは眉をひそめる。


「またか」


紋章もそうだった。

王の記録もそうだった。


存在した痕跡はある。

だが核心だけが消えている。


その時。

一枚の管理記録が目に留まった。


古びた紙。


端は破れ、

半分以上が読めなくなっている。


アランは慎重に広げた。


『地下第三区画――』


そこから先は擦れていた。


だが最後の一行だけは読めた。


『以後、

地下第三区画への立入を永久に禁ず』


アランは目を細めた。


「第三区画……?」


地下に区画が複数ある。


つまり。


発見された地下図書館以外にも、

まだ区画がある。


アランはニヤリと笑う。


「面白くなってきた」


アランはスマホで時間を確認した。


閉館まで残り三十分。


アラン

「まだ行けるな」


つづく……。

お読みいただきありがとうございます。

次回、第六話「届かなかった手紙」

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