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第三話 楽譜の謎

青年はアンティークフェアから

家に帰るとテーブルの上に楽譜を置いた。


コーヒーを淹れながら、

もう一度あの楽譜のことを考える。


(変な楽譜だったな……)


コーヒーを持ってソファに座る。


青年――アランは、

楽譜へと手を伸ばした。


「さて……お前は何者なんだ?」


アランはページを開いた。


楽譜を開いた瞬間、

旋律より先に


アラン


「何だこれ……」


“終わりはこない”


そして、

他の書き込みも見つける。


“第二楽章の入りを少し遅く”

“テンポを落とす”


ただの演奏メモ。


しかし

数ページ先


“私もそう思った”


さらにページをめくる。


”試したが違った”

”やはり遅いほうがいい”


アランはテーブルに無造作に置いてある

ルーペを取るとじっくりと書き込みを見る。


「筆跡が違うな」


ページをめくる。


「インクも違う」


アラン

コーヒーを一口飲むと


「少し調べてみるか」


そう言って裏表紙に目を向けた。


そこには


他の書き込みとはまた違う筆跡で、

一行だけ文字が残されていた。


掠れたインクの文字。


アラン

ルーペを近付ける。


“――次は君だ”


アランはニヤッと笑うと


「おもしれぇ」


そう言って、

コーヒーを飲み干した。


———


翌朝。


早速アランは図書館へ行き

楽譜データベースを調べた。


作曲家不明で検索してみる

何も出てこない。


次はもう少し検索エンジンを広げてみる。


出版記録なし。

演奏記録なし。

楽曲登録なし。


アラン


「何もなしか…」


画面を見ながら

アランは椅子の背もたれに体を預け

足を組み考え込む。


どれくらいの時間そうしていただろ。


(違う方から調べるか)


アランは画面を消して図書館を出た。


アランは家に戻る。

テーブルの上には、あの楽譜。


コーヒーを淹れソファに座る。

そして楽譜を開ける。


書き込み全てをスマホで写真を撮る。


写真を撮り終えると楽譜には目もくれず

何枚も撮った写真をノートパソコンに

取り込み画面に何枚も広げた。


右上がりな文字。

クセの強い文字。

アンバランスに縦棒が伸びてる文字。


アランは

コーヒーを飲みながら呟く。


「何人いるんだよ……」


細い文字。

震える文字。


アラン、

ソファから身を乗り出す。


「ん?」


写真を拡大する。

もう一枚、拡大する。

マウスがせわしなく動く。


「……おかしい」


インクの劣化が微妙に違う。


アランはノートパソコンに目を向けたまま

スマホを手に取り、一本電話をした。


相手が出た瞬間。


アラン

「調べて欲しいんことがあるんだ」


「いきなりだな」


「今、添付ファイルを送った」


しばらくして


「楽譜か?」


「インクを調べて欲しいんだウィル」


ウィル

「インク?」


「あぁ…インクの劣化が微妙に違う

気がするんだ」


「分かった…数日くれ」


アラン

「あともう一つ」


ウィル

「まだあるのか」


アラン

「一番古い筆跡を探してくれ」


「は?」


「書き込みが何人分もある」

「なら最初に書いた奴がいるはずだ」


ウィル

「簡単に言うな」


アラン

「頼んだ」


プツッ。


ウィル

「切りやがった……」


ウィルからの連絡を待つ間

アランは紙を調べ始めた。


指先で紙をなぞる。

年月による劣化はある。


(繊維が細かい)

(安物じゃない)


(これだけの紙を使えるのは

王侯階級くらいだ)


もっと詳しく見ようと

アランは紙を光に透かす。


すると

薄く透かし模様が見えた。


アラン

「......ん?」


紙の角度を変えてみる。


(王冠?)

(......いや)


王冠に似た紋章。


完全ではない。


経年劣化で、

ほとんどが消えている。


アラン


(透かし紋か?)


でも全部は見えない。


(紙工房の印か)

(依頼主の紋章か)


アランは紙をじっと見つめる。


指先で、透かしの残った部分を

ゆっくりとなぞった。


(判断するには、まだ足りない)


一度、楽譜を置く。


アランは考え込むように、

部屋を歩き回っていた。


(紋章だとしたら?)


(誰が、何のために……)


もう一度、楽譜を手に取る。


(書き込みが邪魔だな)


アランはコーヒーを飲む。


そして。

今度は、紙の端を見る。


(裁断じゃない)


紙の端が僅かに波打っている。


(手漉き紙か)


さらによく見ようと紙を光へ透かす。


繊維の中に

細い金色の糸が見えた。


アラン

「は?」


アランはしばらく、

その糸を見つめていた。


(……金糸?)


普通の楽譜じゃない。

装飾写本並み。


(演奏用じゃない)

(贈答品でもない)

(展示用でもない)


アランは眉をわずかに寄せる。

これほど手間をかけて作られた紙。


(楽譜として残されている?)


アランは楽譜をテーブルに置いた。


しばらく黙って、

その表紙を見つめる。


(じゃあ——何だ)


そして、もう一度楽譜を手に取る。


(誰のために作られた)


つづく…。

お読みいただきありがとうございます。

次回 第四話「透かし紋」

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