第十四話 狂王とペェーリル 幽閉
何も知らない新しい楽師が来る。
そして
また繰り返される。
それがこの離宮の日常。
慣れることはない。
あの断末魔の叫びが
耳から離れることもない。
それでも
王からは曲を書けと言われ続ける。
だが、どれほど曲を書いても。
王が口にする言葉は
いつも同じだった。
「違う。」
「書け。」
「前の方が良かった。」
そして。
一度として。
「良い。」
その一言を
口にすることはなかった。
そして
この地下から
自分も曲も外に出ることはない。
今日は晴れているのか
季節はいつなのか
分からないまま過ぎていく。
王から褒められる日は、
ついに一度も訪れなかった。
その”あと一歩届かない”という絶望は、
少しずつ。
少しずつ。
ペェーリルの心を削っていく。
王は、
その様子を眺めるのが好きだった。
曲ではない。
才能でもない。
壊れていく作曲家を見ていた。
口元には、
満足そうな笑みが浮かんでいた。
———
家族や友人たちの思い出も薄れて
華々しくデビューしたあの日の歓声さえ、思い出せなくなっていた。
どれほど長い年月が流れたのかも、
もう分からない。
王は最後まで、
ペェーリルの名を呼ぶことはなかった。
王にとってペェーリルは
ただの玩具だった。
ペェーリルは笑うことを忘れた。
書いても。
書いても。
王は首を振る。
「違う。」
「書け。」
「前の方が良かった。」
やがて。
ペェーリルは、
音符へ憎しみを刻むようになる。
それでも。
「違う。」
王のその一言が、
ペェーリルをさらに追い詰める。
――憎しみが足りないのか。
――恨みが浅いのか。
そう考えるようになった。
そして。
ペェーリルの音は少しずつ、
人の心を癒やすものではなくなっていった。
———
また新しい楽師が来る。
王はその曲を弾かせる。
「違う。」
また一人。
処刑される。
その叫び声を聞きながら、
ペェーリルは新しい曲を書く。
また違う。
また処刑。
また書く。
その繰り返しだった。
やがて。
ペェーリルは、
断末魔を聞いても
ペンを止めなくなった。
慣れたのではない。
ペェーリルの心が壊れた瞬間だった。
ある日
王は笑って言う。
「少し近付いた。」
その一言だけで。
ペェーリルは、
また曲を書く。
王は立ち上がる。
重い扉の前で、
ふと足を止めた。
ゆっくりと振り返る。
机へ向かい、
もう楽譜へと
ペンを走らせ始めたペェーリル。
その姿を見つめる。
王は、
静かに口元を歪めた。
「……ふっ。」
満足そうに笑う。
そして、
何も言わず地下を後にした。
———
そして。
ある日。
ペェーリルが書いた旋律を聴いた王が。
初めて。
口元を上げる。
「そうだ。」
その言葉を聞いても。
ペェーリルは笑わなかった。
もう、笑えなかった。
その日を境に。
音は変わった。
いや。
変わったのは――
ペェーリルだった。
一音。
また一音。
積み重ねるたびに、
長い年月の中で奪われたものが、
音符へと刻まれていく。
失った青春。
帰れなかった故郷。
会えなくなった家族。
消えていった友人。
そして――
自由。
光。
声。
すべてを奪った王への憎しみ。
(私に残されたものは、これだけだ)
(なら――)
(この旋律に、すべてを残す)
ペェーリルは、
ただ静かにペンを走らせる。
誰にも気付かれることなく。
一音。
また一音。
憎しみは、
旋律の中へ沈んでいく。
何年もの歳月をかけて。
何度も書き直され。
何度も奏でられ。
そのたびに、
憎しみは深くなっていった。
そして――
その楽譜は。
もう、ただの音楽ではなかった。
つづく……。
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次回は、第十五話 「仮説」




