18.日を喰らうもの(1)
年も明け、あと数日で成人の日を迎える時。
〈アシ・アシ〉の店内は物々しい雰囲気に包まれていた。テーブルに広げられた大皿には、料理ではなく大量の黒耀石が山盛りに積まれている。その内訳はざっくりと分けて三種類、槍や長剣を作れる大型、短剣や拳となる中型、投擲に使う小型となっている。
「得手不得手があっても選り好みせず、全部の種類を持っておけよ。特に投擲用は、絶対に必要になる時が二回あるからな」
店内に店長の叱咤激励が届く。戦士たちは各々が、左右や胸の位置などに決めたジャケットのポケットに石を次々と放りこんでいった。
水緒はマリアや斗降らと一緒に編んでいたブレスレットを、山ほど抱えて戦士たちをひとりひとり見舞った。ブレスレットの翡翠にどんな思いを込めようか、三人で話し合った結果〈解毒〉の効果を特に強く念じることにした。石を傷口に当てると効果が出るようにしたのである。「いい判断だ。他は気合と根性でなんとかなるが、毒はどうしようもないからな」と店長は笑顔をつくった。
見舞いついでに激励のハグを交わすことも忘れなかった。戦士たち本人に誰がいいか選んでもらったが、一番人気があったのがマリアなのはまあ、妥当なところだろうと水緒は思った。何と言っても〈アシ・アシ〉の看板娘で、日頃から皆に可愛がられているだけある。
せっかくなので数少ない女性戦士には斗降にお願いした。斗降は「なんかこれ、ホストになった気分なんですよねぇ」と複雑そうな顔をしていた。
「それは、何?」
「無線機だ。近距離で切羽詰まっている時に手っ取り早い。長距離や場所の検索に便利なスマホとは使い分けるようにするんだ」
「長距離って……どのくらい?」
「部分日食を含めて三時間近く、戦い続けるということだからな。数キロほどなら”力”を脚に集中させて〈跳躍〉すると、他の連中の応援に駆けつけることができる。そのための備えだ」
「……」
水緒は押し黙った。自分は戦いの場に、ずっとついていくことはできない。心配で心配でたまらなかった。
「シウ、こっちへ来て」
店内の片隅にシウを呼ぶ。椅子に座らせてやっと目線が下になった。
「……これは、女神の加護です。目を閉じて」
言う通りに瞳を閉じたシウにそっと近寄り、屈みこんで唇にキスをした。
「……ミオ」
「絶対に、無事に戻ってきてね。待ってるから」
「……ああ」
奥のその様子に気づいたらしい店長が、慌てて叫ぶ。
「おう、嬢ちゃん”たった一人”を決めたのか。なら話は違ってくる。シウ、ちょっとこっち来い」
「ああ……じゃ、行ってくる」
「うん」
*
駅より十分ほど離れた、見晴らしのいい公園。そこの展望台の上に水緒は斗降とマリア、店長らと一緒にいた。護衛にはシウらケツァルコアトル派が数名、ヨァルらテスカトリポカ派が数名と集まっている。
「ヨァル、俺はずっとここにいるわけにはいかない。ミオたちを頼んだぞ」
「わかってる……気をつけろよ」
午後二時十五分、観測が始まった。欠ける太陽の前を、黒い靄が横切る。
「来るぞ……!」
戦士らの一人が投擲を始めると、各々が次々に投擲を開始しだした。黒い雲のような塊に当たってあちこちで火花が散る。
『大群で空から降りてくるからな。接触される前に、少しでも数を減らせ。投擲用の石を半分くらい使い切るつもりでやれ』
店長からの、事前の作戦会議の言葉を思い出す。シウやヨァルら、若い世代にとっては初めての戦いの場となる今日この日だ。古参の老兵のアドバイスは骨身に沁みた。
『次はタイプ別の対処だ。最優先でワニ型を……と言いたいところだが、そこをあえて後にして蛇型を潰せ。〈翡翠ノ司〉の連中に解毒の石はもらっているだろうが、それでも毒にあたると面倒だ』
『邪魔な蛇型を片づけたら、腰を据えてワニ型にあたれ。獣型や鳥型は勝手にこっちを狙ってくるから、わざわざ追いかけず来た時に撃退しろ。群れてくるからまとめて”網”で焼いちまうのがいい』
『ワニ型への対処の手順だが……シウ、お前ら”加護持ち”の力が重要になってくる。よく聞けよ』
次々と伝えられる言葉に、着々と変わる戦況。皆が息をつめて事の成り行きを見守っていた。




