16.死者の日(2)
死者の日は、一日目は子供の霊が帰る日。二日目が大人の霊の帰る日だ。お供え物にはお菓子の代わりに酒瓶などが寄せられる。
「こんにちは。ちょっと、お願いです」
斗降が〈アシ・アシ〉に顔を出した。腕に大事そうに写真立てを抱えている。
「せっかくなので、飾ってもらいたくて。両親です」
トテトテと近寄っていったマリアが、斗降を奥へと連れてゆく。
「ここ、空いてるよ」
「ありがとう、マリアちゃん。……これ、もしかして店長?」
斗降が目を向けたのは、店長らしき男性を含む三人で撮られた写真だった。女の人と、幼い少女と。
「うん、これがママ」
「じゃあ、これがマリアちゃんですか? なるほど、確かにお母さんとよく似てますね」
「いやぁ、全くだぜ! 俺に似なくて本当に良かった」
大笑いで何もかも吹き飛ばそうとする店長を、ただただ心強いと水緒は思えた。
「斗降くん、ちょっといいかな。相談に乗ってほしいことがあるんだ」
「僕でいいんですか? 構いませんが、場所はどうしましょう」
「じゃあ……駅のとこの公園で。みんなはここにいて、すぐに戻ってくるから」
水緒は斗降を連れ出す。――やはりそうかと確信した。斗降には、あの謎の警告が響かない。
駅に沿って造られた、昔の遺跡の発掘記念碑ぐらいしか建っていない小さな小さな公園の、ひとつしかないベンチに二人で腰かけた。真ん中一人分、間を空けて。
「斗降くんは……誰かの声が聞こえるってこと、ある? 女の人の声なんだけど。なんとなくだけど〈翡翠ノ司〉の力と何か、関係があるのかなって気がして」
「僕にはないですね。それはたぶん、女神チャルチウィトリクエの声……君だけの力だ」
「わたしだけ? 何で、そう思うの」
斗降は深く溜め息をついた。
「何でって……それは、ずっと僕が探していたからですよ。こんな世界の裏側まで来て、眠っている君を見つけた」
斗降はこちらを見つめ、はっきりと言い放つ。
「もういい加減、潮時でしょう。君にも知ってもらわないと――水緒、君はただの〈翡翠ノ司〉じゃない。チャルチウィトリクエの意識が身体の奥底に眠りついている……女神の化身だ」
「そんな……そんなこと」
思わず水緒は口を押える。
「すぐには信じられないかもしれないけど。でも、神の意識を持って生まれ落ちた人間は他にもいる……」
斗降はすこし俯いて、話の続きを追った。
「……僕もなんだ。トラロック。雨を司る神で、チャルチウィトリクエの弟。……やっと話せる時が来たね、姉さん」
水緒はその時、ようやく理解した。斗降の大人びた言動が、ただの中学生のものではなかったことに。やっと腑に落ちたのだった。
*
「それで、姉さんはなんて言ってるの?」
「えっと……離れなさい、とか、心を許さないで、とか……」
「なるほどね。警戒してるんだ……誰に対してかな」
「それは……たぶん、シウとかヨァルとか……ううん、最近知り合ったほとんどの人に対して言ってる感じがする」
「愛を司る女神が、人を信じることを拒否している。何故だろうね」
「……」
水緒は押し黙った。斗降ほど冷静になれていないのを痛感する。
「僕には心当たりがない……わけではないよ。少しなら、想像できる」
「……考えてみて。愛した者ひとりに強い加護を与える。でもその相手は数か月もしないうちにコロコロ変わるんだ。しかもほとんど途切れることなく……一体どうしたら、そんな状況になるんだろうね」
「それは……ちょっと、わたしには想像つかないかも」
「僕は男だからかな。そういうのってそんなに頻繁にあることじゃなかった。だから何とか耐えられたけど……姉さんは、そうじゃなかったってことだと思う」
耐える。何に? 駄目だと言った、彼女の切実な声色が蘇る。
「――それで水緒、君はどうしたい? 姉さんの言葉に従うの?」
斗降の言葉に、水緒は向き合って応えた。
「わたしは――」




