11.物憂い秋(1)
「……トール・ナグモ。中学二年生。両親はおらず、祖父母と同居中……か」
〈アシ・アシ〉の店長、ホセは目の前の少年を一瞥した。横で娘のマリアが興味深そうに彼を見つめている。
「よく今まで、無事だったな」
「小学生までは門限、厳しかったですから。中学も自転車通学ですから、夜歩きすることとか、ほとんどなかったんです」
大人びた面差しの少年が、静かに話を続ける。
「父はこの店のことを知っていたようです。『中学生になったら、会わせたい人たちがいる』って。……その前に交通事故で、母とともに亡くなって。それ以来、そのままでいてしまいました」
「そうか……それは大変だったな。いい時期に来た、護衛を決めよう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
*
校庭の銀杏は、まだ緑の葉をつけていた。本格的な秋に入るには、まだまだ暖かい――いや、暑い。
「ごめん水緒、お手洗い行ってきていい?」
「大丈夫、行ってらっしゃい」
高校の文化祭は大盛況だった。水緒は家庭科室で手芸部の作品の、展示販売の売り子をしている。
週二回の活動でこつこつと作り上げてきた。和布のパッチワークに、フェルト製のミニぬいぐるみ。どちらかというと女子受けを狙った作品が多い中、少々地味な色合いの、麻紐のブレスレットも並べられていた。ボタンを留め具にしたそれには、ところどころ緑の石が編み込まれている。
そこに並んでいるのは、手芸の好きそうなお母様方ではなく――
「もったいない……これで一個二百円とか、投げ売りすぎるよ」
「〈アシ・アシ〉の連中にも買って行こう、平等に同じ数ずつ買うぞ」
「――ちょっとちょっと、そこ! 悪質な買い占めはお断りですよ!」
売り上げは寄付される。利益度外視でやっている中、迷惑な客がやってきたものだった。
「二人とも、こっち来て。そこだと邪魔だから」
交代していた部員が戻ってきたので、水緒は売り子を代わってもらった。大学生くらいに見える大の男二人を前にして、水緒は自分のカバンから何やら長い紐を取り出す。
「これは今日の文化祭が終わったらって、決めてたんだけど。しょうがないなぁ……」
二人の手にそれぞれ握らせたのは、大粒の翡翠を麻紐で包み編みにしたペンダントだった。ヨァルのが黒、シウのが青い紐でできていた。
「店長とマリアちゃんに聞いたよ、石が大きいほど〈強化〉の効果が期待できるって。だから二人のがいちばん大きいんだから、ここのものを買い占める必要はないよ」
「ミオ……ありがとう。ただ、それと他の品を買うかどうかは別の問題だ」
「お店のみんなにはまだまだ作るって! 今日が終わってからにしなさい」
「あ、僕、ブレスレット三つ欲しいです。自分用とお祖父さんお祖母さんに」
「斗降くん、来てたの? でも斗降くんは自分で作れるんじゃない」
「水緒さんのほうが多分、強力ですから」
涼やかな顔をしてブレスレット三つの入手に成功した少年は、男二人をどこか冷めた目で見つめ、鼻で笑う仕草ののちに退場していった。
「……俺、なんかあいつ気に入らねぇ」
「公私を混ぜるな……〈力〉の使い方に慣れている、頼れる戦力だぞ」
「混ぜるなってことは、お前だってそう思ってるってことじゃんか」
不穏な空気を漂わせる男二人を後にして、水緒は知らぬ顔を取り繕った。ブレスレットは結局二人で二つずつ、四個の売り上げとなったのだった。
「ところでミオ、今日の帰りの話なんだが」
「うん、駅のとこのファミレスで打ち上げ。だから……遅くなる」
「電車に乗った時に連絡してくれ。迎えに行く」
本気で心配してくれているのがわかり、水緒は胸がいっぱいになる。この半年足らず、どんな彼らの言葉に励まされてきたことか。
「うん……じゃあね」
軽く彼の手を握って、そして別れた。




