表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒耀の瞳、翡翠の涙  作者: 石崎 英


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/22

10.夏のお迎え(3)

「っと……よし。ゴチソウサマ」

 大きなりんご飴を一人で完食したヨァル――ちなみに、水緒とシウは姫りんごにしておいた――はご機嫌で、水風船をぽんぽんとつついている。三人とも、充分に祭りの雰囲気を満喫できたようだった。

「そろそろ帰ろう」

 暗い夜道を下駄で歩き回る、アスファルトが擦れる音が響く。

「……ところで、あれって結局何のお祭りだったんだ?」

「お盆って言って……死んだ人が戻ってくるって言われている期間なの。本当なら、お寺に行くのが普通なんだけど、この地域は何故か神社。……何でだろう」

「日本人の宗教観は独特だな」


 シュル。

 耳に届く衣擦れのような音に、ふと足が止まる。

 シュルシュルシュル……

 異音は次々に続いていた。

「ちょっと待って」

 先頭を歩いていた水緒に代わり、ヨァルが前へ出る。水緒がもう少し道路の端に寄ろうとした、その時だった。

 シュルルッ……

 左足に這い寄る何か。気がついた時は強く足を曳かれていた。

「あぅっ!」

 思わず水緒は声を上げた。体勢を崩し地面へと膝をつく。

 同時に、鋭い痛みが左膝を走った。声にならない叫びが水緒の喉を満たす。


「ミオ! 大丈夫か」

 駆け寄るシウ。水緒は改めて、左足を注意深く見つめる。

 黒い細長い何かが、水緒の足に絡みついていた。今しがた傷つけられた左膝に覆いかぶさっていたそれが、ゆっくりと頭をもたげてこちらへ牙を向ける。

「へ……ヘビ?!」

「ちっ!」

 舌打ちしながらもヨァルは黒耀石の光刃を、黒い蛇の胴体へとぶつけた。刃は下半身の先をわずかに切ったに留まり、蛇は勢いを変えず水緒の身体を這い上がろうとする。

「ぃやぁ……!」

「落ち着け、ミオ!」

 シウは左手で蛇体を鷲掴みにし、わずかに持ち上がった蛇の頭に光る右拳をぶつけた。黒い頭が潰れ、塵と化してゆく。

「蛇型か……まずいな、他に気配は感じるか?」

「いいや、だがちょっと場所が悪い。さっきの広場まで戻るぞ!」

 シウは水緒を横抱きにして持ち上げた。心細さで水緒はぎゅっと彼の胸にしがみつく。

 

 明かりの多い広場の片隅で、水緒は左足を確認する。膝頭に強い痛みがあった。

「たぶん毒がある。ミオ、解毒できるか?」

「えぇ……そう言われても、……あれ……」

 突然襲ってくる目眩に、水緒の言葉が続かない。

「まずいな……自分自身を治療するのは、難しいのかもしれない」

「どうする?〈アシ・アシ〉まで担いでいくか……」

「――ちょっと、待ってください」

 よく通るボーイソプラノに、シウとヨァルは顔を上げる。人混みを掻き分けてきた人影は背が低く、中学生くらいの少年に見えた。

「解毒なら、僕が手伝います」


「……落ち着いて、深呼吸して」

 少年は水緒の膝元にしゃがみ込み、手を傷口に当てた。ふわっとした翡翠色の光が、手のひらからこぼれる。

「まずは濁った水を思い浮かべるんだ。雨の後の川みたいな」

 少年の声は、とても冷静だった。

「それから、それがゆっくりと澄んでいく。透明になるまで思い浮かべて」

「うん……」

「……どう? 気分は、少しは楽になった?」

「――ええ、何とか」

「それじゃ次は、傷口を塞ぐよ。自分を治すのには少し、コツがいる」

 水緒が患部に手を伸ばすと、少年はその上にそっと手を重ねた。翡翠色の光が二人分に、強くなっていく。

「痛みから他人事のように距離を置くんだ。ああ、ケガしてるんだなーって。それがどうかした? ってくらい、平静を装う。自分で自分を騙すんだ」


「……これでよし。後は家に帰って、傷口を洗って絆創膏でも貼っておいて」

「ありがとう……あの、あなたも〈翡翠ノ司〉なの?」

「まぁ……そういうことになりますかね」

 少年は立ち上がると、水緒に手を貸して立ち上がらせた。身長の低さに見合わず、随分と大人びた印象を受けた。

南雲(なぐも)斗降(とおる)と言います。……そろそろ、戦士の皆さん方に挨拶する頃だと思っていました。これから暫く、よろしくお願いします」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ