第24話「エレインと陽翔、静かな夜の語らい」
同じ空間で過ごす夜
KICHIJOJI COFFEEの営業が終わった夜、陽翔はいつものようにカウンターで片付けをしていた。
店内の灯りは落とし、手元のランプだけがほのかに光を灯している。
カウンターの向こうでは、エレインがカップを手に持ちながら、ぼんやりと揺れる灯りを見つめていた。
「ふぅ……今日もいろんな客が来たな」
「そうだな」
陽翔は静かに頷きながら、拭いたカップを棚に戻した。
「最近は騎士団や貴族まで来るようになって、ますます忙しくなってきた」
「この店が有名になった証拠だろ」
エレインはカップを傾け、ゆっくりとコーヒーを口に含む。
その仕草を眺めながら、陽翔は小さく笑った。
「……それにしても、こうやって一緒にコーヒーを飲むのが日常になるなんてな」
エレインは一瞬、驚いたように陽翔を見たが、すぐに視線を逸らした。
「……そんなの、当たり前じゃないか。私はもうここに住んでるんだし」
「そうだな」
陽翔はソファに腰を下ろし、自分のカップを手に取った。
「けど、最初に会ったときは、こんな風に一緒に過ごすとは思わなかったよ」
「……私も」
エレインは静かに呟きながら、カップを持つ手をぎゅっと握った。
「私はずっと戦士や冒険者として生きてきた。戦場で戦って、旅をして、また戦って、それが当たり前だった」
「うん」
「でも、今は……お前とこうして時間をすごしてる」
彼女の声はどこか不安げで、迷いが滲んでいた。
「……私は、ここにいていいのか?」
陽翔はカップを置き、エレインを見た。
「どうしてそんなことを思うんだ?」
「だって……」
エレインは口を噤んだが、やがてそっと言葉を紡いだ。
「……私は、もともと戦うことしか知らない。それなのに、こうやってお前の店で過ごして……このままでいいのかって思うんだ」
陽翔は静かにエレインを見つめた。
「エレイン、お前はここにいたくないのか?」
「……」
エレインは答えなかった。
しかし、その沈黙が何よりも雄弁に「ここにいたい」と語っていた。
陽翔はそっと微笑みながら、彼女の髪に手を伸ばした。
「なら、考えすぎるなよ」
「え……」
エレインの髪に優しく触れると、彼女は驚いたように目を瞬かせた。
「ここにいる理由なんて、考えなくていい。ただ、お前がここにいたいなら、それでいいんだ」
エレインの頬がほんのりと赤くなった。
「……お前、そんなことをさらっと言うな」
「本心だからな」
陽翔は穏やかに微笑んだ。
エレインは少し拗ねたような表情をしながらも、どこか安心したようにカップを両手で包み込んだ。
「……じゃあ、私はここにいてもいいんだな?」
「もちろん」
「ずっと?」
「ずっと」
「エルフの寿命は長いぞ」
エレインはしばらく陽翔を見つめていたが、やがて小さく笑った。
「なら、もう少し近くに行ってもいいか?」
そう言って、エレインは少しだけ身を寄せた。
陽翔は驚いたが、拒むことはしなかった。
「……好きにしろ」
「ふふ……ありがとな、陽翔」
静かな夜、コーヒーの香りに包まれながら、二人の距離はさらに縮まっていくのだった。




